Cadre小噺:トンネル事故

主観:ヴリューデル

マスター、ワープホールを作れるんだよ。凄くない?
それで、好奇心から穴を通ってみたくなった。
どこに通じるんだろうなって、気になってた。

瞬間移動ではなくて、真っ暗な異空間のトンネルを通る物だった。
でも通っている最中に出入口が塞がれた。
ワープホールを閉じたんだ。
果ての無い暗闇にぽつんといる感じ。

これ、どうにかなると思う?
現界から隔離された異空間だよ?
マスターがトンネルを開けないと出られない!

何もしないのも暇なので、とりあえず通信が通じるか試した。

発信音が虚しく数十分以上響き渡った。
…分かってたけど無駄だった。

こんな何も無い暗闇でひとりぼっちは正直しんどい。
でも、ぼくはいい歳だぞ。泣くもんか。

ぼくは出入り口が開くまで根気強く待った。
それで頭の中では1日くらい経っている気がしたよ。
体力維持のために蓄えた魔力が無くなって、流石に腹も空いてきたらさ、
突然出入口が開いた。

そこから腕が伸び、ぼくを掴んで引っ張り出した。
やっと迎えが来たと安堵したけどさ、
目の前に現れたのは、ものすごく呆れた顔のマスターだった。
ギョロ目だけど表情豊かだよ、この人。

「ヴァレンタイン公…。
得体の知れない穴に不用意に飛び込むとは、阿呆なのか?
使いたいなら言えば良かろうに。
それに…あれだけ長く居ては、流石に空腹ではないか?」と、
ブルートヴルストが挟まったサンドイッチを差し出してきた。
ああ、普段から食べてるのに何故か懐かしく感じるし、
血が体に染み渡る。


ふと時計を見ると、あれから4時間しか進んでないような…。
ぼくの位置情報が行方不明になってからどれ程経ったのか聞いたんだ。
時計と同じで4時間程度だった。

考えたくなかったけど、あの後、詳しく聞いたよ。
マスターの力は…要は時空の歪みを発生させて、
異空間を通して繋げてるんだって。

異空間は本当に時間が歪んでいてさ、
移動距離に合わせて流れ方が変わるって。

今回開けていた穴は、流れ方が6倍以上もズレてたみたい。
という事は、あそこで本当に24時間以上居残っていたって事だよ。
あのままずっと滞在していたら、短期間で急成長してしまうって事じゃん。やだ。

あと異空間に関してちょっと勘違いしていたところがあってさ、
あの空間に干渉できるのはマスターに限らず、
空間移動の能力を持ってる人の大半はこの空間を使ってるって。

うーん、やっぱり気になるし、面白そうだけど首を突っ込むのは程々にしようかな。