Cadre小噺:世界から棄てられた相棒

主観:エルバート

俺は主軸世界を中心に、
全ての並行世界での経験を共有している。
…だから幾度も世界の滅亡は経験した。
当然だが動きは共通じゃねえ。
共有してるのは俺という存在の経験だけだ。

別の並行世界から何かが主軸世界に飛ばされるってのはまずない。
大抵、飛ばされるのはアールスなどの超越した者による仕業なんだぜ…俺はやらんぞ。

俺は主軸世界を中心に、
全ての並行世界での経験を共有している。
…だから幾度も世界の滅亡は経験した。
当然だが動きは共通じゃねえ。
共有してるのは俺という存在の経験だけだ。

別の並行世界から何かが主軸世界に飛ばされるってのはまずない。
大抵、飛ばされるのはアールスなどの超越した者による仕業なんだぜ…俺はやらんぞ。


エルニーノから俺宛に通信が来た。
「あ、エルちゃんよね?」
「確かに俺のだが、どうした?」
何やら焦っている様子だ。
「今日、破滅した所からラルス君が流れ着いて来たのよ。
ルクスリアで保護してるけど、この世のものとは思えない程に黒く汚染されているの。」

…メモかなんかを弄るカサカサ音がするし、呻き声も聞こえる。傍にいるのか?

「えーと、エルちゃんだけでルクスリアに来てって?
頼むわよ…」


この日、最悪の結末を迎えた並行世界からラルスがこちらに飛ばされた。
あのクソ破壊神の仕業だ。

最凶のシャドウ…ヴィルセルを作り出して、そいつが出てからは恐ろしい勢いで世界は侵食されていった。
欠片でもちょっとでも触れたら感染して、寄生されて乗っ取られ、データを取ってはレプリカを作る。
動くだけでドロドロの粘体を広げていく。しかも本体は死なない。
そんな悪意の塊だった。

心も体もボロクソに壊して、現界を滅亡させた。
ここに飛ばしたのもラルスをさらに苦しませたいんだろう。

だがな、飛ばされる直前に『別の世界線に飛ばされても俺を頼れ。』って忠告したんだ。

俺は早急にラルスを迎えに行った。
わざわざ看板を『CLOSE』にし、窓もカーテンが閉まっていた。
俺のために鍵は開いていたな。

テーブル席のソファでラルスが寝ていた。
体がぐったりとして動けない感じだ。
包帯などから見て軽い治療は済ませてあるようだった。

エルニーノがシャーリーテンプルを持ってきた。
「こうなると神の力を使うと逆に傷つくみたい。
専門の治療者じゃないと。」

「感染性はないんだな。良かった。」
ラルスの状態は想像以上に酷く、重篤だった。
ヴィルセルの侵食は既に最終段階に入っていたんだ。
苦痛で呻き、顔には黒い痣が広がって、右目を侵食。
体は全体的に黒く色褪せて、表皮も侵食されていた。

触ったことで俺に気づき、左目の真っ黒で虚ろな目で俺を見はじめた。
その目からは黒い涙が流れ、「エル、助けてくれ…」とポツリと呟いた。

エルニーノはこんな不穏な事を言った。
「ラルス君は放っておくと危険だわ。
治療している最中に突然義足で私を蹴り飛ばしたのよ…。」
そんなことを聞いて俺はポカーンとした。
いや、エルニーノを蹴り飛ばすって相当力がないと無理だが、
よく見ると壁の一部が壊れていた。


安否確認が済んだので極秘で緊急搬送した。
こっちのラルスと勘違いしてややこしい事になりかねないからだ。
治療は野郎に頼んだ。野郎はそういうプロだから。
野郎は触診してから悩んだ様子で、
「うん、侵食をストップさせたり、ある程度浄化する事は可能だろう。
だが変質した部分は絶対に治らないかもしれない。」野郎の短い「うん」は考えている時だ。

診療台に寝かせ、全身麻酔をかけてから、拘束具も付けた。
それくらいしないと何をするか分からないからだ。

野郎は変質した右目を重点的に弄り始めた。
核が目にある可能性が高いからだとか。
光る右目は固体の眼球がなく、
ドロップのようにドロドロになっていたようだった。
…流石に過程はグロデスクだから省略するが、
17分くらいかけて目玉のような不定形の物体を取り出した。
で、それをカプセルに容れた。実験に使うんだろうな。

摘出してから4分後に侵食は止まった。
確かにヴィルセルの核だったようだ。

次に体内の魔石の浄化をするために一旦取り出す作業を始めた。
魔石から正常な魔光が流れて内側から浄化できるからだ。
俺の能力「奪取」で体を傷つけずに綺麗に取り外してみせた。

目の方は…具体的な場所や取りたいものがハッキリしてないと取れねえし、シャドウの体ってのは干渉が難しいんだ。
こればっかりは野郎にしかできん。

ラルスの体に組み込んである魔石…ファイアーオパールはな、
心臓付近にあるんで、人工心臓みたいなもんなんだわ。
無理に取り出すと危険だ。
だが、俺の力を使えば傷つけずに取り出しも装着も安易だ。

で、取り出したファイアーオパールの綺麗な夕陽色は
汚染の影響で赤焼けの空のように赤黒くなっていた。
その魔石を洗浄ケースに入れて水に晒すことにしたんだ。
綺麗に浄化されるまで1時間はかかるが、ファイアーオパールは水が1番効果的なんだとさ。

30分後にラルスが突然起き上がった。
「ア…ァ…」
拘束具を壊して俺に殴りかかろうとした。俺は咄嗟に止めたけど。
ラルスの目は赤く光っていたし、無表情だった。
無理やり体が起きてるけど、心臓を抜き取ったようなもんだぞ。
大丈夫じゃねえだろ。

野郎は動じず、「病人は大人しくしてろ」と
ラルスの頭を鷲掴みして診療台に勢いよく押さえ付けた。
目の赤い光は弱まり、みるみるうちに手の力が緩んでいって
またぐったりとした。

魔石の浄化が完了したので体内に戻した。
徐々に汚染値が下がっていき、正常値になった。
体の回復も異様に早い。


精神面の不安もあるため、1週間寝かせた。
その翌日の真夜中に、なるべく馴染んでもらう為にも軍拠点内を散歩させた。
俺も同伴でな。
ラルスは怯えながら「平和すぎて逆に落ち着かない…」
あちらでは何時でも奴らが湧いていたからな…

寝静まってる夜だが、半シャドウ達等の夜型とすれ違う。
ヴリューデルとヨナと目が合った。
ヨナは珍しくあの欠けた仮面を着けていて、
ラルスをじっと見つめていた。

ヴリューデルはラルスを見るとキョトンとしながら素の口調で
「あれ、なんか違う感じだけどラルス君だ。
大丈夫?僕らのように壊れたの?」

ラルスは目を逸らした。
あっちじゃ皆、シャドウに対して異常な敵意があったからな。
「あ…あまり詳しくは聞かないでくれ…。」
と応えた。

ヨナがヴリューデルにちょっと待っていなさいと言い、
一旦離れた。
ヴリューデルは異様な雰囲気を感じ取ったのか、
少し心配そうな目で見ていた。
…まあついてきた。一応気にしない振りはした。

「ラルス殿…惨劇の世界から平和な世界に来て、平和に怯えるのは仕方のない事でしょう。
今後、行く宛はありますかな?」

俺もどう生きてもらうか考えた。
最終的には本人の意思に任せたいが、流石にこの状態でIFにいると危険だ。
その上…同一人物が対面した時に、何か不具合を起こすかもしれない。
ハーネスに手を出しかねない。

本人はそれも理解しており、ジルコンに所属したいと願った。
ヨナの手引きにより、試験抜きで所属させてくれると約束してくれた。
チームIFにいたから十分資格はあるし、正直こちらのラルスより洗練されているからな。

この一連を見ていたヴリューデルはウォーヴルの所に行ったか。

俺は今後の呼び名を考えた。
こちらのラルスと呼び名が被るのはまずい。
強い意志を持って世界を守り抜く者として、「リアン」というコードネームにした。

ラルスは憂鬱そうな顔だが、割と気に入った様子だったので良かった。
というか今更気づいたが、こちらのラルスと比べて感情豊かだった。