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続・HEY・HEY・屁意

只今英国に留学中の次女から、
「プリキュアの映画を観て、入場者特典を貰って来て欲しいのねん」

何とも無茶なミッションを課せられた。

娘と一緒ならともかく、ええトシしたオバサンが独りでプリキュアを…長女も同じく留学中の為、友人に声をかけたが秒速で断られてしまった。せめて愛の告白の様に、少し位考えてから返事をして欲しいものである。

果たしてその数時間後、両手に巨大な飲み物とバケツサイズのポップコーンを手に劇場入りしていたw

考えてみれば上映中は真っ暗闇だし、誰が何処にいるなど誰も気にはすまい…

そしていざ上映すると、中々どうして子供だけでなく大人も一緒に楽しめるではないか!
小さいお友達には指輪型のライトが配られ、所々で使用の声がけがある。
此方は大きいお友達なので当然指輪は配られないのだが、雰囲気だけでも一緒に味わおうと透明な指輪をブンブンと振り回してみた。

👧「ママ〜…あのオバチャン、変だよ」

近くにいる小さいお友達にバッチリ見られてしまっていたようだ。

👩「シッ!オバチャンじゃなくて大きいお友達でしょう?」

ママさんが慌てて訂正してくれたのは、オバチャンというワードだけで「変な人」の方はしっかり現役であった。

劇場に入る前に、流石にこれは一人では残すかも知れないと思っていた巨大なポップコーンも、気が付けば底が見える程になっている。
映画に夢中になると同じ様に、ポップコーンにも夢中になっていたようだ。

そして映画もいよいよクライマックスに近づき、これは泣かせどころと思しきシーンに入る辺りで、此方の身体にも変化が訪れていた。

明らかにポップコーンの過剰摂取であろう、下腹部からの呼び声…そう、尿意ならぬ屁意である。(通常この様な言葉は存在しない)

尻は既にクラウチングスタートをしている。

流石にこんな場所でぶっ放す訳にはいかないので、何とか身体をよじり両手をヒラヒラさせ、プリキュアのポーズを取り耐えていたが(いやそもそも逆効果であろう)いよいよ尻にもクライマックスが訪れてしまった様だ。

昔読んだ小説の一説で、体内に埋め込まれた爆弾が爆発しそうになった教師が、生徒から少しでも離れようとエレベーターの中に入り息絶えるくだりが脳裏を過った。

考えてみればこれもある意味生物兵器である。小さいお友達に被害が出る前に此処から立ち去ろう。
そう思い急ぎ階段を降り、袖の部分に到達したその時……全ては轟音と共に消え去れる……


筈もなかった。


途端に明かりが付き、映画は終わった様だ。
そして人間としての尊厳にも終わりを告げた。

セミの様に袖にへばり付いているこの大きいお友達を、なるべく視界に入れない様にする優しい人々が退場して行く中、

👧「あ〜、さっきの変なオバチャンだ〜!何してるの?」

その小さいお友達は、ママさんにそそくさと手を引っ張られながら劇場中によく通る声でアナウンスしてくれた。

座席に戻り残りのポップコーンをつまみながら、誰に宣言するでもなく

「とりあえずポップコーンのLサイズは止めておこう」

空き箱を係員さんに渡しながら、きっと次来る時にはもう忘れているのだろうと自嘲気味に笑った。

ちなみに、ポップコーンは単なる映画のお供ではない、カタルシス効果抜群の究極のスナックである事が自らの身体で実証されたのは大きな収穫であった。

但し、それと引き換えに失うものもまた大きかった……これ以上何を失うと言うのか、人として大事な何かはもうとっくに失くしているというのに。

ちなみに色んな事と引き換えに手に入れた特典は見事コンプリートした。
都合3度も劇場を潜れば係の人にも顔を覚えられると言えよう。
3度目の入場の際、彼の口元の端が震えていたのを見逃す事はなかった。


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