【企画録】メカブが空を舞って浦和サポがだまるワケー。僕とカブとゆめちゃんの2年半
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前編はこちら
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12月某日、元上司の天野さんから違和感なくナチュラルに仕事を振られた田代楽は寒すぎるカナダの冬のなか朧げな記憶を片っ端から呼び起こすことになりました。前編として公開した映画湯道とのタイアップ記事は、他業種の団体とコラボをするにあたって大切にしていたことを書き示したものです。
ここからは私が2年半以上にわたって担当したカブレラとたかたのゆめちゃん、そしてそのご子息であるメーカブーについて企画の振り返りをお届けします。ぜひ最後までお楽しみください。
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悩んでいました。
滴り落ちる汗の分だけアイデアが生まれてくれたらどれだけ楽なんだろう。サウナに入っていると必ず思うことです。開幕戦の数日後、すっかり全ての仕事を終えたとばかり思っていた私に次なる課題が差し迫っていました。
メ ー カ ブ ー を ど う し よ う か 。
どうするにもこうするにも、放っておけば勝手に生まれてくるであろう生命なことに間違いはありませんが、どのように話題にするかを考える必要がありました。普通の人間なら生まれたことが尊いのでわざわざ話題にする必要なんてないのですが、こればかりは事情が異なります。冷静に、深呼吸をして、これはサッカークラブの仕事なのかと言われたら疑問で首がもげそうになりますが、それがこのクラブと言われたらそれまでです。当事者であるカブレラとゆめちゃんにも話をしなければ。さぁ、物語は2021年の春までさかのぼります。
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2021年初頭、陸前高田の街でカブレラとたかたのゆめちゃんが手を繋いで歩いているところをスタッフが発見します。長く続く陸前高田とクラブの歴史を考えれば ”そのような” ことが起こる可能性もなくはない、とは思いますがそれがマスコットだったとは驚きです。そこから関係は発展し、何度も目撃され、ついに社内会議が行われます。アレどうする?と。ガクやってくれない?と。ここでのやる、とは彼らの恋愛をサポートすることです。当然これは自由恋愛ですから彼らに接触を図るわけではなく、ただ周りの状況をととのえる、そんな役回りでした。なにを言っているかわからないかと思いますが、私が1番わかっておりません。
2021年秋口、ふたりの仲は深まりその模様を「東京カブストーリー」としてお届けすることになりました。前述の通り恋愛の内容に関してはふたりにお任せしていますので私の役目はその様子を編集して映像にするだけ。とはいえ技術チームは全てプロフェッショナル。普段はMVとかを撮っている皆さんとご一緒でした。作中には東京ドロンパが登場して色々あったわけですけど、この一件以降ドロンパはどこで会っても声をかけてくれるようになりました。君が生まれてすぐに謎のマイクで話してたあの番組、当時TOKYO MXで見てたからな。と喉元まで出かけてやめたことをいまだに覚えています。
JAセレサかわさきさんにいたっては麻生区の畑を貸してくださる大盤振る舞い。東京カブストーリーは10月頭の試合で行われるイベントでしたが、その1ヶ月前からドラマが配信される座組を設定。さらにドラマが配信されている裏ではカブレラとクラブスタッフ(のべ20人以上)がせっせとカブを育てる大謎企画が並行していたことになります。サッカークラブがカブを育てる理由も、それをクラブスタッフが自らの手で育てる理由も、なんならそのカブを来場者に生で配布する理由も一切ありませんが、それがこのクラブと言われたらそれまでです。
その頃の私たちは優勝争い真っ只中かつカブ育成中の忙しないオフィスでふたりがイチャイチャしている映像素材を見ながら、東京ラブストーリーっぽいギリギリ怒られなさそうな音源をつくったりしていました。あげくゲスト出演の依頼を織田裕二さんの事務所に無邪気にメールしてみたりしていました。無視されました。山本高広さんにも依頼しました。すべての条件が受け入れられずNGでした。恋愛とは難しいなぁと、そのとき心から思ったことを覚えています。
来る10月の試合日、いままでのドラマを回収するときがきました。もちろんカブレラの目的はゆめちゃんへの告白です。当日のイベント会場では憲剛さんがカブレラの手紙を代読し「このあと試合前の始球式でボクがゴールを決めたら付き合ってほしい」とまさかの宣言。震え上がりました。ここにきてまさかのギャンブル。いや入らなかったらどうすんの、と話しても無視。頑固カブ。ウザ。なんなの。
企画を設計するときは無理そうなことでも不確定要素をいかに取り除くかを第一に優先します。安全うんぬんの話ももちろん関係してくるのですが、そもそも受け手(この場合はファンのみなさん)からすると目の前で起こっている事象が偶然か否かはそこまで関係ありません。それよりも起こった事象そのもののインパクトをいかに安全に確実に引き上げるかを常に意識する必要があるわけです。
ご覧ください。どう考えてもキックに適した外見ではございません。不確定要素が謎の落ち着きで立っているだけです。そもそも「ホームランを打ったら手術頑張ろうねマサキくん」みたいなやつは野球選手が子どもを励ますためにやるから良いのであって、マスコットの告白に使っていいセリフではありません。そもそもマスコットの告白を聞いたことがありません。
しかもこの試合は観客収容人数が1万人に緩和された試合。待ちにまった試合の、選手入場よりも前にピッチで行われる、アツく奇妙な愛の告白。こうなりました。
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東京カブストーリーで無事恋人となったご両人の話をお互いから聞きながらご飯を食べていた2022年某日、ふたりからパーティーの相談を受けます。地上波のニュースにも取り上げられることになったゴールインパーティーです。話を聞いた当初、ふたりでやってくれよと思いましたが、冷静にふたりだけでパーティーを組むのは無理だろうと判断した上層部に式の段取りを任命されました。まさか自分の結婚式よりも早く彼らの式を取り仕切るとは思いませんでした。ウェディングプランナーさんによると、自分のではない式の段取りを行うひとなんていないとのことでした。そりゃそうです。その役割がウェディングプランナーの仕事なのですから。
さて、結婚式を経験されたみなさんはお分かりだと思いますが、あれはとんでもない労力がかかります。会場のレイアウトから、式の進行、ゲストの選定、会場のお料理まですべてを意思決定していかなければなりません。ご夫婦の意向で料理は陸前高田の名産品を使いたいという至極ごもっともなヘビータスクを請負い、陸前高田市役所の皆さんに多大なるご尽力をいただき存分に陸前高田を感じることのできるフルコースを用意しました。将来自分が式を行う際に「あ、一度経験あるのでなんとなく勝手はわかります」なんて余計なことを言わないか心配になっています。あれもこれもチッタウェディングさまのご担当者さまのお力添えをいただき実行することができました。本当にありがとうございました。
ご尽力をいただいたのはチッタウェディングさまだけではありません。ふたりから話を貰ったあと考えました。どうすればこのパーティーを多くの人に見てもらえるのだろうか、そして陸前高田の素晴らしさをパーティーを通じて知ってもらうことができるのだろうかと。汗をかいてもかいても思いつかない日々が続きましたが、ある日ボーッとテレビを見ているときにとあるCMが流れてきました。ゼクシィです。
国内最王手の結婚情報サービスに協力いただければこの式が「ふざけているわけじゃない」と印象付けることができるだけでなく、発信力もお借りすることができる。もちろんクラブとしてもゼクシィさんの露出に最大限貢献するプランを描き、得意の突撃プレゼンをすることになりました。もっとスマートな仕事の仕方がありそうなことは私が1番わかっています。
プレゼンの場ではいままでのクラブと陸前高田の歴史、ゼクシィさんの企画にも全力で尽力すること、そして最後にこうお伝えしました。
夕方になり冷えこんだ都心のビルで、1番アツかった会議室だったろうと思います。交わることがなかったと思われたふたつの組織が、意外なきっかけで共に歩むことになりました。急いでカブレラに報告の連絡をしました。返ってきませんでした。ドライなやつです。
そしてもうひとりのキーマンが中村憲剛さんです。この変な企画に対してほぼ毎日電話してくる私にも優しく協力してくださり、ゼクシィさんとのタイアップ動画と式の挨拶にも駆けつけてくださいました。企画の趣旨と陸前高田への愛を存分に理解してくれる憲剛さんに対しては尊敬しかありません。憲剛さん、次は北米でご一緒しましょうね。
2022年4月某日、たくさんの来場者に見守られながら式は無事行われます。ふなっしーから祝電が来たと思ったら藁科ジャクソンが踊っているカオスなパーティーでしたが、ご参加いただいたみなさんが笑顔だったことがなによりだなと思いました。主役のふたりもかわいかったです。
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悩んでいました。
生命の誕生に、です。
2月某日、集められたチームメンバーはふたりの新しい子どもをどう披露しようか迷っていました。私のクラブでの仕事は2月末で終了。4月には渡米する予定でしたのでなにがあっても私が実行することはできません。アイデア出しは困難を極めました。そして悪い癖がでました。
ここまで来たら振り切っちゃいましょうよ、と。確かにいままでの歩みを見ても普通のことなんてなにひとつありませんでした。では見たことない光景っていうのはなんなんでしょうか。
赤ちゃんが空から舞い降りてくる。これです。
赤ちゃんの誕生は、陸前高田の海岸線をラブラブ歩いているふたりが沿岸部で光を発見。そしてそれは猛スピードで高田の一本松のてっぺんに移動し、そこから赤ちゃんがゆっくり降りて ”くるそう” だと聞いていました。小倉優子がこりん星に住んでいるとか、ボビー・オロゴンの日本語はネイティブレベルとか、そういう類です。
ということで高田の一本松からその産声をも産地直送できるドローンを用意することに。これは2023シーズンのLDHさんタイアップ時から仲良くしていただいている方からご紹介いただきました。梶ヶ谷プラザホテルのサウナで相談したことを昨日のように思います。つまりみなさんが見た光景は高田の一本松で生まれた赤ちゃんが命名されるまでの最後のシーンであり、本当に長きにわたって色々なことが起こっていたことの ”オチ” だった、というわけです。
メインの演出が決まりました。それでも悩んでいたのは見たことないけど全く想像できないわけではないということ。「コウノトリさんがあなたを運んできたのよ」なんてセリフがありますが飛行物体が赤ちゃんを連れてくること自体にはなんの驚きもありません。古の書物にかかれていたとしても「うん、まぁ…」とリアクションできそうなくらい想像自体は難しくありません。もっと生命の息吹を感じるような、激しく、そしてあたたかい雰囲気が必要でした。それをどう生み出せばいいのだろう。アイデアが枯渇し、カレンダーをぱらぱらっと見ているその時でした。
” …うら…わ…? ”
目の前のことに集中してすっかり視野が狭くなっていたとき、この試合の対戦相手を初めて認識しました。選ばれていたのは、浦和レッズでした。驚愕しました。そして同時にイケるかもしれない、そう思いました。
プロモーション部は、企画を考えるときに頭のなかで光景が想像できるかを意識する癖がついています。雨が降ったら〜、混雑したら〜など、いついかなるシチュエーションにも冷静に対応することのできる想像力が求められます。そのときも例に漏れず想像しました。そして自分のなかでの方程式が完成した音が鳴りました。フロンターレサポーターは母のような寛大であたたかい包容力を、浦和レッズサポーターは父のように威厳があり、生命の息吹にふさわしい感情的で激しいリアクションを。その対比するふたつのハーモニーは紛れもなく生命誕生に対するメタファーとなり晴天に轟くことだろう。そう思いました。
そしてここで最強の助っ人が訪れます。私のスーパーバイザーである若松さんが『大量のゴスペル隊が讃美歌を歌いながら生命の誕生をお祝いする光景をピッチにつくろう』と発言したのです。意味が全くわかりません。でもどこか道理が通っていて、いままでで1番笑ってしまった気がします。どんな思考をしていたら思いつくのだろうと羨ましくなりました。全く詳しくはないのですがA24の映画『ミッド・サマー』もこんな感じで生まれたのかなと思いました。
そして組織は動きだします。若さんはその日のうちに溝の口のゴスペル団体と約束を取り付け、私はドローン関係の整理、そして浦和サポによる過去の威厳アーカイブを一気見して気持ちを高めていました。
3月下旬、渡米まであと2週間に迫った肌寒い春の日。私たちは陸前高田市役所にいました。新任となる佐々木新市長に命名の読み上げをお願いするためです。例によって新市長は苦笑いをしていましたが、無事承諾。懐のひろさに感謝するしかありません。
こうして私は無事日本を離れることができました。
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その様子は西海岸のカフェから眺めていました。
自信満々に空を漂うドローン、両手をあげて讃美歌を歌う100名以上はいるであろうゴスペル隊、そして赤ちゃんを抱きかかえる佐々木新市長がそこにいました。現場責任者は若さん。実際に経験してわかる、どう考えても大変な仕込みでした。しかし、違和感を感じるのです。なにかが足りない。すべて順調で、無事に行われているセレモニーにもかかわらず決定的になにかがない。なんだ。なんなんだ。
威厳でした。
浦和レッズサポーターによる父なる威厳を暗喩した激しいリアクションが皆無なのです。イゲン…!イゲン…!イゲンッッッッッッッ‼︎!!!!!とつい叫んでしまいました。その威厳は某他クラブの開幕戦ゲストの出演時間をも移動させていたのにもかかわらず、その彼らをもあたたかい気持ちにさせてしまう赤ちゃんって本当に素敵だなと思いました。この世はラブとピースでできていますから。
見事にX(旧Twitter)のトレンド入りをしていた「メーカブー」の文字をみて、胸を撫でおろしました。とにかく無事に誕生してくれてよかったなと。急いでカブレラに祝福の連絡をしました。返ってきませんでした。相変わらずドライなやつです。
©︎KAWASAKI FRONTALE
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