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「ひとりっきりで申し込んでね」の演劇ワークショップをやる理由


先日の講座の中で「なぜこの講座を受けたのですか?」という質問に対してある参加者の方が「一人で参加してください、友達同士では申し込まないでください、というところが信用できると思った」と答えてくださいました。
「お友達同士OK(参加者人数を稼げる)」というところがない、大入りになればいいわけじゃないんだという主宰側の演劇に対する真摯な気持ちを「信用」と捉えてくれたということだと思います。私にはその視点がなかったので、いい副産物かもとありがたい気持ちです。

実際、お友達同士で参加OKにした方が参加者数も稼げていいかもしれません。気楽な入り口の用意にもなると思います。でも私は数ヶ月前からあえて申し込みサイトに「※非日常を体験するために、お知り合い同士ではなくお一人でのお申し込みをお願いします。」とお断り文を入れています。
なぜか。

私は市民向け演劇ワークショップを始めて8年目になるわけですが、それはもう試行錯誤の連続です。ファシリテートにすっかり慣れた今でも、トライアンドエラーを繰り返しながら参加者を不安な気持ちにしないように堂々とした面構えで色々と反省したり次に活かしたり活かせなかったり、うごうごやっています。
演技しやすい稽古場の空気感を作るには、役者向けの演技クラスの方が多分楽なんです。「上手くなりたい、仕事を掴み取りたい」とみんな同じ方向を向いています。いわゆるミッションが統一されている状態。
では市民向けはどうか。
いろんな思いを抱えた方がやってきます。「演技力で営業の成績をあげたい」「日常生活で人と対峙することに自信がないので自分の良いところを知りたい」「声を大きくしたい」「滑舌を良くしたい」「昔演劇部だった。趣味として復活させたい」「芝居はやったことがないけど何十年越しで、夢の役者人生にトライしたい」「ドラマを見るのが好きなので役者の気持ちを知りたい」などなど。会社員のかた、お仕事をリタイアした方、学生さん、主婦、そして意外といらっしゃるのがドラマや映画のスタッフさんです。仕事仲間の気持ちを知りたいようです。
それとコロナ渦に入ってからは「オンラインが仕事のメインになってしまって、対面でのコミュニケーションを取る機会が少なくなってしまった」という方も増えました。対面講座はマスク必須ですが、瞳の動きや稽古場の温度の共有など対面ならではのコミュニケーションの良さに満足していただけるようです。にっこり。
そのように様々な事情(課題)を抱えたみなさんが一堂に介するわけです。新しい自分に出会ったり、見失った自分自身の良さを見つけ出しブラッシュアップをするために。そうなると、日常を持ち込んではうまくいきません。いかに高速で日常の役割(社会人であるとか、親であるとか、誰かの子供であるとか、ご近所問題とか)から離れられるかがミソです。虚構の世界に飛び込むための稽古場ですから。「それじゃあ日常をお家の玄関に置いてきてください」と言い放つのは、乱暴です。ファシリテーションによって日常を置き去りにしてもらって、本来の自分自身と・丸出しの好奇心の塊になっていただきます。お芝居の稽古は、私はいつもそこから始めます。そのための試行錯誤は、私の人生で永遠に続きます。ちょっとした時代の移り変わりによって変化する入り口を、つぶさに観察していかねばなりません。

そんなわけで、お家の玄関に置いてくるべき日常の延長線上にいる「お友達」とは私のワークショップではご一緒しない方がいいでしょう。
お一人で不安?大丈夫です。みんな一人で参加して不安な人たちばかりです。開始から2時間経った時、「誰も知らないところで、わたしはこんなにたくましく表現できたんだ!」と自信が湧いてきます。

それと・・・これは役者の命題、「多くの人の前で孤独になる」。いつもゴールはスタートにくっついています。♾

初心者向け講座はこちら→【演劇】表現を楽しみたい人のワークショップ
来月分はすでに満席ですが、開催の前月15日頃に翌月の募集を開始しますのでご興味のある方はチェックしてくださいませ✋

ではまた稽古場で



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