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自粛とか不況とか渋滞とか

宣言が出たから、すいていると思って来た。

3回目の緊急事態宣言初日、渋谷を訪れたある「若者」の声として、Y新聞の社会面に掲載されたものである。

Y新聞を長年愛読しているわたしとしても、この切り取り方はさすがにいかがなものかとは思ったが、そこは今回の本題とは逸れるので割愛する。

むしろここで問題にしたいのは、「すいていると思って来た」のほうである。

この「若者」の言動は、時差出勤が普及したことによって、むしろ早朝の電車が混むようになった現象を想起させる。

時差出勤を提案した企業のお偉方はきっとこう言うだろう。

「すいていると思った」と。

さて、近頃よく、「人流が減らない!」と指摘する専門家の声を耳にする。

みどりが好きなあの都知事さんも、専門家のお医者様方も、連休になれば国民全員が休みになるとでも思っているフシがあるのがどうにも気になるけど、とりあえず誰も彼もが連休になったとする。

でも、みんながみんな「すいていると思った」と考えた瞬間、あらゆる対策が無に帰す。

つまり、現状の制度のままでは、「すいていると思った」という心理に対して、網をかけることはできないのだ。

この「すいていると思った」という抜け駆けのような動機を、ここでは「抜け駆け型逸脱」とでも呼ぶことにしたい。

この「抜け駆け型逸脱」、意外といろんなところに応用できそう。

株取引の場合、「値下がりすると思った」から売る、「値上がりすると思った」から買う、ということをそれぞれが抜け駆け的にしようとする。

しかし、みんながみんな同じようなことを考えつくもんだから、ときには市場の予想を超えるほどの変動が起きて、「暴落」とか「暴騰」とかが生じることになる。

経済的な不況に陥った際も、おのおのが「今後のために節約しようと思った」という「抜け駆け型逸脱」を思いつくことによって、かえって不況が加速してしまう。

不況を脱するいちばんの処方箋は、「お金を使って、それを回すことだ」的なことをケインズが言ってたはずなんだけどな…。なんとも皮肉である。

そして渋滞。
多くの場合は交通量に対して道路のキャパが小さすぎたり、動線が悪かったりと構造上の問題が原因だ。
しかし、行楽シーズンにおいては、おのおのが「あの道ならすいていると思った」と考えてしまうから生じる渋滞もわりとある。

また、ふだんでも「混んでいるからまわり道しようと思った」「急いでいるから車間を詰めようと思った」というおのおのの抜け駆けが、結果的にたくさんのブレーキを踏ませることになっている。

渋滞対策のいちばん過激な処方箋は車を使わないことなんだけど、そんな未来を待ってたらいつの間にかドラえもんが発明されてそう。

一方で、こうした「抜け駆け型逸脱」を、まわりが気がつくよりも前に成し遂げられるなら、大きな富をもたらすこともある。
たとえば上述した株取引とか、馬券とか車券とか。

でも、現実はなかなかうまくいかない。

先述してきたように、「ひらめいた!」と思っても、わりと多くのひとが同じようなことを考えているからだ。

ここだけみると、人間ってわりと似たり寄ったりの思考をしてるなって思える。
だからこそ誰しもが仲良くできそうとも思えるんだけどなぁ…。うーん。

要するにだいじなことは、ひらめきそのものではなく、「ひらめきの速さ」なのだと思う。

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