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片足の登山家

みなさん、飲んどりますか、にーとです。
今日もみなさんと同じ夜を、のんべんだらりと過ごしていこうと思います。


山に登るのが好きです。
上っている間に考えることは、ただ足が痛いことと、一歩でも先へ進むことだけ。
下界で生きている俗っぽいことからのひと時の解放を感じる。

先輩と二人で大分の山を登っていた時のこと。

山ではすれ違いざまに挨拶を交わす決まりのようなものがあります。
普段の生活で誰かとすれ違っても、挨拶なんてしないのに、山にいる時はすれ違った人に「こんにちわ」や「お疲れ様です」と声をかける。
山には、人をオープンにさせる不思議な力があります。

久住山側の登山口から登り始め、星生山を登り、久住別れから久住山、北千里ヶ浜に下り、目当ての法華院温泉山荘へと向かいました。

法華院温泉山荘は設備も十分で、なんなら自販機で酒も買えます。
とは言え、まずは疲れた体を癒すために温泉へ向かいました。

山歩きをした体は、まだ歩けそうな気持ちと裏腹に、温泉の暖かさの前では、関節という関節が、筋肉という筋肉が「うちのカレーは12時間煮込んでいるから手羽元だってほろほろなんだよ、うまいだろ」と言わんばかりに煮崩れしていくの感じる気持ち良さでした。

風呂で癒され、自販機で買った酒を飲みふわふわした感覚でぼけっと山並みを眺めながら、男女ならいい感じになる雰囲気ですが、こちとらおじさん二人なのでほぼ無言。

そうこうしているうちに夕飯の時間になりました。
法華院温泉山荘では夕飯が頂けます。その日の献立は覚えていないのですが、山で食う一汁三菜は、長州力じゃなくても「飛ぶぞ」と言うほどのうまさでした。

夕飯は向い合せで4人がけの木製の長テーブルで、僕らは端に向い合せで食事をしました。

その時出会ったのが、片足の登山家です。

その方は一人で黙々と食事をされていました。
その方の向かいに座っていた人が「ここまで登ってきたのですか?」と聞きました。
僕らも気にはなっていたのですが、陰キャ特有の人見知りを発揮して声をかけられず、聞くとは無しに聞いている体でめっちゃ話を聞いてました。

片足の登山家は、今日はここまで登ってきて、明日は中岳に登って下山すると言いました。衝撃だったのが、日本の北から百名山を登りながら南下している、と。

食事が終わり、僕らは外で飲み直しながら、その片足の登山家のことを話しました。
どうやって、とか、なんで、とか、その辺の当たり前の話を終えてから、自分はそれができるか?という疑問を話しました。
と言うよりは、それほどやりたいことが人生に見つけられるか?という疑問でした。

見つからない。

そのうち眠くなって、僕らは大部屋の片隅でザックを枕にして寝ました。

次の日、チェックアウトをして、中岳に向かって歩き始めました。
中岳に向かうまではなかなか険しい山道で、まぁまぁ疲労しながらようやく中岳の前まで辿り着きました。

中岳は九州最高峰の山で、1791mあります。とは言え、もうすでに1500m付近にいるので、登るのは200mちょっとですが、ごつごつした大きな岩の塊を登るので、それなりに体力は必要です。
登りやすそうなルートを探しながら、岩を登っていきます。

その途中で、昨日会った片足の登山家と会いました。

彼は、松葉杖をつきながら登っていました。
まず松葉杖を登る先の岩に引っ掛けて、足に力を込めて勢いをつけてジャンプするようにして登っていました。
それを、一歩一歩繰り返し、少しずつ登っていました。

その力強い足取りに、目が離せなかった。

この山は、この人が登ったいくつ目の山なんだろう。
次にこの人は、どの山を目指すのだろう。

山に登るのは好きです。
きっとこれからも色々な山に登るのだろうと思います。

そのたびに、片足の登山家のことを思い出し、この山には登ったのだろうかと、この道は通ったのだろうかと、考えるのだろうと思います。

できることなら、またどこかの山でお会いしたいです。

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