2022年4月23日
自室として使っている和室で、この春からはじまった出版社のバイトの在宅仕事をこなしていると、目の前の窓から時折、こつんという音がするのでベランダに出てみると、窓にバッタがはりついていた。後で母に聞いたらショウリョウバッタやねえ、とのことだった。かすれたカーキ色をしたバッタは上下逆さになって頭を下に、じっと動かずに窓にはりついていた。あんなにつるつるなところによくはりついていられる。網戸にならまだしも。本当に「精霊」なのかもしれない、と少しだけ思う。
すこし前に高熱を出した。たぶん2年半ぶりくらいの高熱で、最高38.3くらいは記録し、ずっと全身痛とのどの痛みがひどく、これはついに例のウイルスにかかったな、と思ったのだが、県から支給された抗原検査キット2回と病院検査すべても陰性で医者には喉の細菌感染ですね、と告げられた。細菌とウイルスの違いは私にはあまりよくわからない。ひとまず抗生物質とあと何種類か薬を出されたのだが、どれも粒が大きくて毎回とても苦労する。小さい頃は粉薬がとても苦手で、花粉症の時期はとても苦労した記憶があるが、最近は本当に見なくなった。わたしみたいな人がいっぱいいたんだろうと思う。なんだか恐ろしいことだ。
抗生物質のおかげで熱はすぐに下がり、昨日は対面授業もきちんと受講した。とはいえ本調子でもないのですぐに帰宅した。今日も一日家にいる。朝は仕事をすすめ、火曜5限のドゥルーズに関する講義動画の視聴と課題をこなした。ずっと家にいるとわかっている日はずっと寝間着のままでいてしまう。今日は膝に穴の開いたジャージズボンと半袖のTシャツ一枚でいた。薄着で、しかも窓まで開けていたのに暑い一日だった。27℃くらいあったらしい。外にいっていたらきっと暑さでまたダウンしていただろう。窓から入る風を受けながら1時間だけした昼寝はとても心地よかった。
復学してあとすこしで1カ月たつ。はじめはなんだか浦島太郎になったようで、いろんな手続きを忘れていたりして、最初の1週間は本当に疲れたが、入学年が同じで私より一年前に休学していた友人の助けもあって何とかなっている。先日の卒論ゼミでは先生に「お久しぶりです」と声をかけてもらってなんだかうれしかった。卒論は前から決めていた通り、大庭みな子論を書くんだけれども、改めて問題意識を話していたら、意外と自分の中でちゃんと方向性が定まってきているようで、先生からもそのまま言ってヨシ、というような反応をいただけた。気が引き締まる。
なんとなく、今日は夏のはじまりみたいな気がする。そう思うと先々に控えている進路を決める大事なあれこれが頭をよぎって胸がひゅっとすると同時に、今までくよくよと悩んでいたことが過ぎ去っていくような気もした。今日知ったが、フランス語の「se lever」という、一般に「起床する」の意味でつかわれる動詞は堀辰雄『風立ちぬ』の有名な冒頭の引用「Le vent se lève, il faut tenter de vivre.」(ポール・ヴァレリー)で使われているような「風がたつ」、というだけでなくて、太陽が昇るときにも使うらしい。前ふたつは知っていたが、太陽の方は知らなかった。考えてみれば確かにそうなんだけれども、そのことがなんだかとても素敵なことに思われた。
夜、ベランダからミントを摘んできてモヒートを作った。ライムがないのでパインジュースを注いだ。少し経って、手に少しミントの香りが残っているかと思って嗅いだのだけれども、もう少しも残っていなかった。