【実物の画像あり〼!】アフリカの巨大なサシガメ、Psyttala horridaを飼ってみよう
こんばんは、ねんぶろ田です。
スマホの画面をド派手に割ってしまい最上級に落ち込んでおります。「ヒビの入った液晶画面も世紀末感があってそれはそれでアリかな」なんて言ってくれたキミは今どこへ……。未だに新規グッズ展開してくれているのは純粋にうれしいですが!
さて、こちらの画像は今までデザインした唯一の昆虫キャラです。タイコウチですね。こちらはワンクッション的なサムシングでありまして、例によってこの記事はこの画像とはほぼ関係がありません。
この記事では飼育している昆虫の飼育方法などについて書いていきたいと思います。それでは記念すべき第一回の主役はこちら。
こちらの昆虫、名前はPsyttala horrida。カメムシ目のサシガメ科に属するサシガメの一種です。サシガメの仲間は日本にも分布していますが、こちらはトーゴをはじめとするアフリカに生息する虫です。
艶消しブラックのボディにヴァーミリオンの脚。イカしたツートンカラーのボディにはまるでモーニングスター(※棘付き鉄球が先端についたハンマーのこと)のようなトゲが。そして何より特筆すべきはその巨大な大きさ!なんとその体長は5cmにも及びます。
そんな本種ですが、流通量こそ決して多くはないもののペットとして飼育されることがあります。そんな感じで、今回は本種の飼育についてつらつらと書き連ねていきたいと思います。
1.入手法について
先述の通り本種はどこにでも売っている種というわけではなく、ショップで扱っているところはいまだに見たことがありません。しかしながらネットオークションや即売会系のイベントではちらほらその姿を見ることができます。相場は成虫ペアで10000円行かないくらいでしょうか。若齢幼虫であれば5匹で5000円程度で入手できるでしょう。
ちなみに私は終齢幼虫の状態で12匹7000円ほどで購入しました。たくさん購入したため本来より値引きして下さったとのこと。ありがたい……。
2.飼育環境について
本種を手に入れることができる目処が立ったら次は飼育環境を準備しましょう。本種の飼育に最低限必要なものは以下になります。
・飼育ケース
・コバエよけシート(かなり重要)
・脱皮時の足場(鉢底ネットがオススメ)
・産卵床(成虫のみ、底床についても併記)
・ヒーター
まずは飼育ケース。飼育頭数や成長段階によって適切なサイズのものを選んでいただきたいのですが、一時期はホームセンターでよく売っている大プラケースに成虫4頭を飼育していました。現在は同じサイズのプラケースに成虫を15頭以上飼育していますが、あまり頭数が多いとプラケースの天面に張り付いて色々と面倒なので注意しましょう。ちなみにケースは天面の蓋に自由に開閉できる小さな窓がついているタイプを強くおすすめします。理由は後述します。
そして非常に重要なのがコバエよけシート!理由は二つありまして、一つは本来の用途であるコバエの侵入を阻止する目的。特に本種は食べ残しにノミバエが湧きやすく、その点においてまず必須と言えるでしょう。
加えてもう一つの理由が、脱走のリスクを減らすためであります。本種は壁を登るのが非常に得意で、ツルツルしたプラケースの壁もすいすいと登ってしまいます。したがって、本種を飼育しているとすぐに壁を登って天面に張り付いてしまうのです。
頭数が少なければよいかもしれませんが、数十頭がフタに張り付いてしまっていてはまず開けられなくなってしまうことでしょう。しかしコバエよけシートがあれば、フタの小さな窓を開けた上でコバエよけシートに張り付いたサシガメを反対側から指で弾いてやることで、張り付いたサシガメを天面からどけることが可能です。これで少なくとも天面に張り付いたサシガメがフタを開けた拍子に脱走するリスクは減るでしょう。
こうした理由から私は基本的にコバエよけシート無しで飼育したことはありませんが、あるに越したことは無いと考えます。
三つ目は脱皮時の足場。本種は高所にぶら下がって脱皮するため、飼育にはある程度の高さと足場が必須です。したがって飼育には足場が必要となるのですが、変な話こちらは流木やカクタスボーン(サボテンの骨)などでも構いません。しかし個人的には鉢底ネットをケース内に垂直に立てておくのがオススメです。というのも鉢底ネットはプラスチック製なので劣化に強く、とても軽いので事故で倒れた際に虫を傷つけにくいというのが一つのメリットとなります。オシャレさであれば流木やカクタスボーンには到底敵いませんが、大切なペットの安全のためと考えればそれに越したことはないでしょう。
どうしても流木やカクタスボーンが使いたければグルーガンで固定して倒れにくい形にするのも良いかもしれません。オシャレさと安全性が両立できればそれに越したことはないですしね。
それでもわたいは鉢底ネットを使うが……
続いて四つ目がヒーター。本種は野生下においてアフリカ大陸の西部、具体的にはトーゴ、ベナン、ナイジェリア、カメルーンに生息しています。これらの国は高温かつ乾燥しているため、飼育の際はそうした国の温度をある程度再現してあげる必要があります。
そうなった場合加温は必須と言えるでしょう。私はエアコンを使って気温を24度程度に保って飼育していますが、適宜爬虫類用のパネルヒーターなどを使うのも良いでしょう。
加えて本種はそれなりに水を飲むため、二日に一度程度霧吹きをしてあげるとなお良いと思われます(初令幼虫に対しては水滴にくっついて溺死する恐れがあるため湿らせたミズゴケを与えましょう)。なお本種は他のアフリカ大陸産サシガメに比べ多湿を好むと言われていますが、私が管理している限りそうした様子を感じることはあまりありません。
そして最後に産卵床。本種は卵の孵化に湿度が必須でもし繁殖を考えた上で産卵床を設置するのであれば、基本的には小さなタッパーにヤシガラやピートモス、またはミズゴケなどを入れたものが湿度を保ちやすく良いでしょう。特に成虫は湿った底床に腹部先端を埋めて産卵し、そのまま湿った環境が維持されることでその卵が孵化するため、少なくとも繁殖を考える場合産卵床に関しては必須の要素となります。
ところで、本種を飼育する上では多くの方が底床としてヤシガラやピートモスなどをケース底面に敷いているかと思われます。しかしながら底床が湿っていると餌の食べ残しが腐りやすく、カビたりノミバエの幼虫が沸いたりする原因となるため、扱いが難しくなるのも確かです。
加えて本種は特に土に潜るような生態もないので、少なくとも孵化した後の生体を維持するという目的だけで見れば底床は必要なさそうに見えます。
実際私は底床を一切敷いていないプラケース内に脱皮時の足場となる鉢底ネットを立て、更に水分補給のための湿らせたミズゴケを詰めたタッパーを入れただけの飼育環境で初令幼虫を成虫まで成長させることには成功しています。
したがって、本種について繁殖を考えずに飼育するだけであれば
・飼育ケース
・コバエよけシート
・脱皮時の足場
・ヒーター
・湿らせたミズゴケ(水分補給用)
で十分に飼育が可能です。これに加え「ヤシガラやピートモスを入れ適度に湿らせた物を入れたプリンカップ」を入れると更に繁殖も視野に入れた飼育ができると言えるでしょう。
3.普段の飼育について
さて、環境が整ったらいよいよ飼育です。ここからは普段の飼育について書いていこうと思います。餌やりをはじめとする普段のお世話についての記述がメインになりますが、以下アルゼンチンモリゴキブリ(以下デュビアとする)やヨーロッパイエコオロギを捕食するサシガメの画像がたくさん出てきますので、そうした虫たちが喰われているのを見るのは耐えられん!という方はこれより先の閲覧をお勧めしません。
3.1 餌やりについて
生き物の飼育をする上で最も大切なのが餌だと言っても過言ではないでしょう。本種を飼育する上で必要な餌はズバリ、生きた昆虫です。
こちらはデュビアを捕食するPsyttala horrida。基本的に飼育している個体と同じくらいの大きさか、少し小さいくらいの昆虫を餌にするとよいでしょう。
餌虫として出回る昆虫はレッドローチ、デュビア、ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギ、ミルワームなどなど様々ですが、基本的にどんな虫であってもサイズさえ合っていれば餌にすることができます。
しかしながらフタホシコオロギは強力な大顎を持つためPsyttala horridaを襲って怪我をさせたり殺したりする恐れもあるため生きたまま放り込むのはあまりオススメできません。
したがって比較的攻撃性の低いデュビアやレッドローチなどのゴキブリを使用するのを個人的にはオススメします。また本種は置き餌を食べるため、一度締めたコオロギなどの昆虫を虫ピンなどに刺し、それを置いておくのも有効です。特に幼虫の多頭飼育ではこれが重要なポイントとなります。
というのも、先ほど「基本的にどんな虫でもサイズさえ合っていれば餌にすることができる」と述べましたね。これは逆に言えば初令幼虫にはハイデイトリニドショウジョウバエやレッドローチの初令幼虫を与えるなどの工夫が必要となるということです。通常は。
しかしながら本種は先述の通り置き餌を食べるため、多頭飼育の場合は飼育個体よりはるかに大きな置き餌を用意することで一つの餌で一度に複数匹の給餌を行うこともできます。
もちろん個体にあったサイズの餌を与えても構わないのですが、初令幼虫は非常に小さいため餌の安定供給が難しい場合もあるでしょうから、こうした方法を使うのも良いかもしれません。生体のことを中心に話すのであれば、餌昆虫による反撃を抑えられることもまた大きなメリットとなるのではないでしょうか。
このように、基本的には生きた虫を与え必要に応じて置き餌を利用するのも一つの手かもしれません。
3.2 多頭飼育について
結論から述べると、本種は多頭飼育が可能です。しかしながらサイズに差がありすぎると共食いをするためその点は注意が必要です。同じサイズの個体同士であっても脱皮中の同種を襲って喰うことがあったため飼育密度には気をつけるべきかもしれません。大プラケに成虫10頭程度であれば問題なく飼育できますが、共食いのリスクはゼロでは無いことを念頭におくべきかもしれません。
3.3 (重要)取り扱い上の注意、その危険性について
さて。ここからは本種を飼育する上である意味最も注意すべきポイントについて触れていこうと思います。それは噛傷による怪我のリスクです。
本種を含めサシガメは肉食性の昆虫です。他の昆虫を捕らえ針状に尖った口で獲物を突き刺し、消化液を注入してその中身を溶かして吸うという生態をしています。
こちらの鋭い口、捕食の際に使うのはもちろんなのですが、外敵から襲われた際も自衛のためにこの口吻を突き刺して攻撃することがあります。
国内に分布する2cm程度の種であってもこの口吻に刺されると患部の中心が溶け激しい痛みに襲われるといいますが、本種は5cmにも及ぶ大型種であるため刺された場合どうなるのかは想像するに難くないでしょう。
私は今まで本種に刺されたことはありませんが、アマプラの某番組で本種にわざと刺された男性の反応を見ることができます。やはり患部の中心が溶け、瞬間的にムカデをも超える激しい痛みに襲われるとのことでした。
まあ多種と痛みを比べるようなことをするまでもなく、Psyttala horridaを扱う上で素手で扱うことは厳に控えるべきです。決して素手で扱うべきではありません。
基本的に本種を扱う際は長めのピンセットを用いて行いましょう。また両手には厚手の軍手をはめるなど、決して刺されないように注意が必要です。
番外編:本種とシャーガス病について(※ほぼ個人の主観です)
さて、ここまで本種に刺されるととにかく恐ろしいことになるということを紹介しましたが、ここからは余談として本種に刺された際の話題として時折上がる感染症のリスクについて話していこうかと思います。
サシガメ科の昆虫の中にはシャーガス病と呼ばれる病気を媒介するものがおり、それらは英語圏で「キッシングバグ」などと呼ばれています。詳細はここでは省きますが、シャーガス病とはクルーズトリパノソーマと呼ばれる原虫(寄生虫)により引き起こされる病気で、場合によっては死に至ることもあるとされます。
そんなわけでシャーガス病はサシガメ科の昆虫について語る上でセットで語られることの多い話題で、時折Psyttala horridaをはじめとするアフリカ産大型サシガメについての話題でもこの感染症のリスクが挙げられているのを見たことがあります。
しかし結論から言うと少なくともPsyttala horridaに刺されてシャーガス病に罹患することはほぼ無いのではないかと私は考えています。
そもそもPsyttala horridaが生息するアフリカにクルーズトリパノソーマは本来生息していないという点からもなんとなく予想ができるのですが、一旦それは置いておきます。
そもそもシャーガス病を媒介するキッシングバグと呼ばれる虫たちはTriatominaeという分類群に属します。一方Psyttala horridaはReduviinaeというグループに属しており、シャーガス病を媒介する種たちとは根本的に異なるグループとなります。
それらに加えキッシングバグは匂いや熱で哺乳類を感知し、その血液を餌とするという「生きた哺乳類からこっそり吸血することに特化した」特殊な食性の昆虫です。シャーガス病の病原体であるクルーズトリパノソーマはその特殊な生態を利用することで哺乳類へと感染するわけです。
一方Psyttala horridaは先述のとおり昆虫を必ず殺した上で捕食して暮らしている種ですから、本来哺乳類の血液を吸うということはほぼ無いと考えられます。仮に哺乳類を刺すことがあったとしてもそれは威嚇のための偶発的なものであり吸血しようという目的で刺しているわけではありません。
繰り返しになりますがシャーガス病を媒介するキッシングバグたちには哺乳類に特化しその血液を餌とする生態があり、その病原体もキッシングバグの特殊な生態を利用して哺乳類に感染しているわけです。ところがPsyttala horridaは基本的に昆虫を殺して食べる生態のため、少なくとも吸血のために哺乳類を好んで刺すことはありません。つまりPsyttala horridaとキッシングバグは一見似ているようで根本的に生態の全く異なる昆虫なわけです。したがって吸血性昆虫の特殊な生態に依存する寄生虫を媒介できる道理は無いと言えるのではないでしょうか。
そんなわけで、少なくとも私は本種に刺されてシャーガス病などの感染症に罹患するリスクは限りなく低いと考えています。フグの肝を食べてアニサキスの心配する的な話だと思うよ……。とはいえあくまで感染のリスクについては疑問符が浮かぶというだけで本種に刺されるととんでもなく痛い目に遭うことだけは紛れもない事実なので、皆様は決して刺されないよう十分注意して本種を取り扱うようにしてください。
4.おわりに
以上ここまでPsyttala horridaという昆虫について語ってきました。最後の最後まで私は本種のことをわざわざ学名で呼び続けましたがこれには取るに足らない理由があったりします。
本種はペットとして出回る上でスパイニージャイアントアサシンバグと呼ばれたりイガグリオオサシガメと呼ばれたり、はたまたホリッドキングアサシンバグと呼ばれたり非常に様々な通り名を持つ昆虫です。
このように様々な呼び方を持つ虫ではありますが日本に分布するわけではないため標準和名というものは本種にはありません。したがってあらゆる生物にとって絶対的なものである学名を利用することで少しでも混乱を和らげようという意図があったのでした。ちなみに本種はなぜかしばしばPsytalla(本当はPsyttala)とスペルミスされた上で紹介されていたりします。どっちにしろ混乱してるじゃん!
そんなところで、今回はこんな感じで〆ようかと思います。皆様もこの記事を読んでこの素晴らしい昆虫に興味が湧きましたら、ぜひとも飼育にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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