8/12 世界の終わりとディズニーランドの夢

「明日、世界が終わるよ」
「どんな風に?」
「中学生だった頃のきみがいつも想像していたような仕方で」
「私たちは、いつまで夢をみているんだろう?」
「熱中症で倒れてしまったあの子が目を覚ますまで」



「世界が終わる日、ディズニーランドは営業しているのかな?」
「たとえ世界が終わっても、メリーゴーランドは永遠に回り続けているよ」
「そのとき、メリーゴーランドには誰が乗っているの?」
「あなたの脳は、きっと神さまと同じだけの重さをしているから」

「おめでとうございます」
 そう言って、助産師さんは私の顔のところに、私の産んだ赤ちゃんを持ってきてくれる。いのちが生まれるということの意味を知った気がして、今日がこの子の誕生日なんだって思うとき、私は少しだけ、大人になれるのかもしれない。

「ねえ、どうせ世界が終わってしまうんだったら、何か一つくらい、これまでは隠していた秘密を教えてくれてもいいんじゃない?」
「いいですけど、大した秘密はないですよ」
「万引きをしたことがあるとか、家庭を持ってる人と不倫をしてるとか、人を殺したことがあるとか、何でもいいから、教えてよ」
「それじゃあ、一つだけ」
 そして、彼女は微笑んで、きみの方を見る。
「私、実は魔女なんです」
 きみにとって、それが冗談なのか本当なのかなんてことはどうでもよかったし、世界が終わるわけなのだから、彼女が魔女だったことくらい、何も不自然なことではないと思って。

 そのあと、きみはラブレターを書いた。明日世界が終わったあと、もしいつか再び宇宙が生まれることがあるんだったら、そのときに間違えなく届くように、丁寧に封筒の中に詰める。それは波打ち際の海に瓶詰めの手紙を流す行為によく似ていて。きみは狂ったような蝉の鳴き声の響くベランダに出て、いつものように洗濯物を干した。
 きっともう誰も回り続けるメリーゴーランドに乗ることはないし、きみが書いたラブレターの中身を誰も知ることはないから。きみは洗濯物を干し終わって、遠くに見える入道雲のその白さを眺めて、そのあと眠りについた。



 そのとき、きみは何の夢を見たのだろう?

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