「ねえ、嘘つかないでよ」
と言われた。嘘? なんの話だろう。
「君、いっつも嘘をつく」
嘘なんて、ついているつもりはない。本当に、一体、なんの話?
「私には、お見通しなんだからね」
困った話だ。覚えのないことで咎められている。本当に困った話だ。僕は言う。
「ねえ、僕、嘘なんてついてないんだけれど」
君は言う。
「それが嘘」
「これが嘘?」
もうどうにもならない話だな。わけがわからない。もうどうにもならない。
「嘘なんかじゃないよ」
「それが嘘」
「これが嘘?」
「そう、それが嘘」
「困ったなあ、僕、そんなつもりは一切ないのだけれど」
「そんなつもりがないことが罪深いのよ。そのことに早く気づいて欲しい」
そのことに早く気づいて欲しい。なるほど。僕はできるだけ早くそのことに気づけるように努力する。
「ごめんね、角度を変えよう。その嘘は、君にどんな印象を与えるの?」
「すごく、いやあな」
「いやなんだ」
「うん、すごくね」
「それは困ったな。僕は君のことを幸せにしたいだけで、いやな気持ちにさせるのは本望じゃない」
「それも嘘」
「えっ、これも?」
僕らはどこへも辿り着けない。世界は嘘に塗れてしまった。どこへ行こう? 嘘を抱えながら。
僕らはしばらく黙った後、静かなセックスをした。きっとそれも嘘なんだろう。
(2024.10.23)