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同棲日記〜真由の場合#1〜

今回の物件 エンデルシア中野2階←母と真由が住んでいる家
      清水ビル4階←男が住んでいる家

この物語はフィクションです。物件を見てから読み始めていただけると想像しやすいと思います。

第1章 大学3年生 真由

どうして女子大に通ってしまったのだろう。
もっと普通の女子大生らしい生活を送りたかった。

母の勧めでこの大学に入学してしまった私は、生まれた時から母のいいなりでいることにイライラする。
そして、それを伝えることもできず、いいなりでいる自分が嫌いだ。

幼い時から一緒に過ごす友達、習い事、進路全てを母のいうとおりにして過ごしてきた。それが母のためだと思ったからだ。
母が離婚したのは私が中学校2年生の時。
お父さんの浮気が原因だった。
自分の部屋にいても聞こえる2人の声にどこに向けたらいいか分からない黒い塊を自分の中に感じて吐きそうだった。

「あなたは自分1人で生きていけるような女性にならなきゃだめよ」
「男なんかに頼るような女になったらおしまいよ!」

それが母の口癖だった。

結婚前はキャリアウーマンとしてバリバリ働く母だったから、離婚後すぐに社会復帰して、今まで以上に忙しい毎日を送っている。
そんな母でも、朝ごはんだけは一緒に食べてくれる。

朝、自分の部屋から出てリビングに出ると母が料理を作ってくれている。
家事は2人で分担制だが、必ず朝食は母が作ってくれる。
忙しいことを理由に私に弱みを見せないようにしているのは、離婚したことで私に負担をかけないようにしてくれているのだと、今は思える。


母が頑張ってくれているおかげで私は何不自由なく生活をさせてもらえることに感謝している一方で、私の中で黒い塊が今も身体を巡っている感じがするのは
どうしてだろうか。。。
考えれば考えるほど、何もできない私を私は許せないでいる。
考えすぎると母に気づかれてしまうから、ある時から考えることをやめようと思った。

それでもふとそんな空間から逃げたくなる。

コップの水がどんどん溢れていく。


どうにもできない時は大学の近くにある公園を歩きながら心を落ち着けるようにした。

井の頭公園は私の心が落ち着く広さと人の数がちょうど良いのだ。
犬の散歩をする人。
公園の近所に住む人たち。
学生や、カップル。
公園を抜けていく人サラリーマンの靴の音。
遠くでギターを鳴らしながら歌を歌う男の人の声。
風が吹いて草が揺れる音。
人の話声が聞こえなくても、人がそばにいることがわかる距離感が
私を1人ぼっちにしないで、でも近すぎない。
心を落ち着かせる空間であるこの公園が好きだ。


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大学3年の秋、大学院に進むかどうかで悩んでいた頃。

ある時から公園を歩いていると
ベンチに座って本を読んでいる男性をよく見かけるようになった。
男性は時たま髪の毛を左手で触りながら、右手に本を持っている。
天パみたいな黒い髪の無造作具合が少し可愛いと思った。服装はいつもシンプルで
シャツとニットに濃いめのジーンズ。髭が少し生えているのが気になった。
剃ればいいのに。
目線が本からずれることなく、その人の周りだけ時間が止まっているように思えた。


そんな風にして歩きながら、少しづつ特徴を覚えていった。
その時から私の日常が少しづつ変わり始めたのかもしれない。

続く

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