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震災孤児とすずめの戸締まり

 少し前にTVで初放映されていたアニメ映画「すずめの戸締まり」。映画の公式では、災いの元となる”扉”を閉めていく少女・すずめの解放と成長を描く現代の冒険物語との説明書きがある。まあ、ざっくり説明するとそうだけど、結構重いテーマを抱えた映画というのが、私の感想だ。

 この映画がTVで初放送されるとwebで記事を見かけたときに、初めて映画を観たときの気持ちが蘇ってきた。このアニメ映画は日本の災害、特に東日本大震災をメタファーとした作品。この映画を観た私がタイトルを見て思い浮かべるのは、東日本大震災を始め、日本で起こった他の大地震や災害。映画で描かれる穏やかな日常と震災という非日常。また、震災で被災した人々の悲しみ、悲惨さを想像して心が痛む感じと、自然や神様といった大きな存在に対する畏怖の念みたいな気持ちが湧いた。災害も怖いけれど、ダイジンと呼ばれる、外見は可愛らしい小さな白猫の神様も最初は怖かった。
 
 特に印象に残ったのは、無邪気で気まぐれで災害の近くに必ず現れる一見可愛らしい白い子猫。映画の所見では、はっきりとわからなかったが、その後このダイジンと呼ばれる白猫の神様は、実は江戸時代の安政大地震の時に自ら願い出て要石(地震(災い)を鎮める石)となった震災孤児。そのことが作中で一瞬映る古文書の内容から推察されるというか、映画を観たあとで、webで調べたら古文書の内容と考察が出来てきて、なるほどな~という思いと映画初見では古文書の内容は一瞬過ぎて分からないけれど、分かった瞬間になんとも言えない切ない思いが込み上げてきた。
 子猫のダイジンが要石になる前は子供の震災孤児だったことを踏まえて映画を観ていると、すずめとダイジンの関係がよくわかる。この二人は似た者同士だ。すずめもダイジンも地震によって親を亡くしている震災孤児という共通点がある。

 主人公のすずめによって要石から解放されて、餌をもらったりして優しくされて嬉しいそうにするダイジン。古文書の内容を見た後だと、震災孤児で要石として200年近く一人で何も食べず寒い場所から解放して食事をくれてのが、すずめ。
 すずめに「うちの子になる?」と言われて「すずめ やさしい すき」と嬉しそうに答える。うちの子になると言われたのは、震災孤児のダイジンには凄く嬉しいことだったに違いない。すずめも震災孤児で、幼いころ叔母の環さんから「うちの子になろう」と言われ一緒に暮らしている。きっとすずめは嬉しかったに違いない。
 すずめが思いを寄せる閉じ師の草太が要石になった時、すずめはダイジンに「大っ嫌い」と言い放ち「どっか行って。二度と話しかけないで」と言われて、ダイジンはげっそり痩せて、その場を離れる。このダイジンに言った言葉はすずめにも返ってくる。
 すずめも東北の故郷に戻る最中で、すずめを心配する気持ちが伝わらず心労から苛立つ叔母の環さんから、すずめを引き取るんじゃなかった、自分の人生を返して欲しいと怒りをぶつけられる場面がある。叔母さんは、自分の人生を投げ打ってすずめを大切に育ててきたのに、すずめから、好きで一緒になったわけじゃない(好きで叔母さんの子になったわけじゃない)と言われた際に思わず不満に思ったことを言ってしまったという場面(叔母さんはサダイジンに憑依されていた影響もあるみたいだが)。

 すずめとダイジンは震災孤児。幼くして震災で親を亡くしてしまうというのは、本当に辛かったと思う。東日本大震災では、多くの子どもたちが被災し、また、親を亡くした子どもたちも多数確認されている。震災遺児・孤児は令和4年3月31日時点で1111人にもなるそうだ。
 戦災孤児は聞いたことがあったけれど(震災孤児のアニメ映画といえば「火垂るの墓」)、震災孤児の話しを聞くようになったのは東日本大震災からだった。祖父母や親せきの叔母さん等と一緒に暮らしている話は、復興する段階になってから時々ニュースになっていた。
 震災の悲劇から、両親ではなく育ての親に育てられるという、育ての親と震災孤児の心の壁や葛藤が映画で描かれていて、どちらの気持ちにも共感し、複雑な気持ちになった。東日本大震災は多くの人が被災し、亡くなった大災害だし、日本は東日本大震災に関わらず、地震による震災も多い。震災の被災者はこの映画をどんな気持ちで観られたのだろうと考えられずにはいられなかった。それぞれの立場で感じ方が違うかもしれない。

 映画の終盤「すずめの子にはなれなかった」と言い残し、最後にはダイジンは要石に戻る。すずめが、自分が要石に変われないかと言ったときダイジンは、ハッとした顔になる。要石になることに願い出た自身と重ねたのだろう。
 物語は希望のある終わり方だった。日本は地震が多く、地震が起こることは避けられないけれど、悲劇を少しでも無くせればと思わずにはいられない。

 地震があると「すずめの戸締まり」を思い出す。今年は元旦から大きな地震に見舞われた。1月1日 の能登半島地震から始まり、新潟県中越、福島県沖、茨城県南部、岩手県沿岸北部、それに4月17日の宮崎県南部地震。去年この時期は列島全体で1回だった震度5弱以上の揺れが、今年はすでに23回起きている。日頃からの備えと心づもりをしなきゃと考える、今日この頃。

 じゃあ、まったねー。
 
 

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