拝啓 次女の元カレの君へ

「いきなり秋になったね」と妻と談笑していた最後に、君らが別れたと聞いたよ。

「え!!」と驚いたあと、僕はしばらく混乱してしまった。

10代の惚れた腫れたなんてのは、とても賞味期限の短い話だってことは知ってる。伊達に年は食ってないからね。

でも、君らが別離を選んだというのはとても意外だった。

おじさんになるとね、今の状態が少なくとも数年は続くと感じてしまうんだ。

君らにとって1年は長いけど、僕らの1年はあっという間だ。

だから君と娘が1年も経たずに別れてしまったことに驚きを隠せなかった。

あまりにも早すぎる。

でも君たちにとっては相当な時間だったんだろうと思う。

その中で色々あったんだろう。

残念ながら、それは僕にはわからない。結果を知っただけだ。

基本的に悲劇と言っていい状況であっても僕が冷静でいられるのは、娘が全く悲しんでいないからだ。それは本当に良かったと思っている。

どうやら娘がフったみだいだね。その点は申し訳ないと思う。

申し訳ないと言ったけど、僕は君について特段の愛情を持っているわけではない。わかるよね?

でも、君が娘と付き合って、それにほんの少し僕が関わって、いろんなことを感じることができた。

君にはわからないと思うけど、それは父親として、中年として、痛いような嬉しいような、不思議な感覚だったんだ。

だから僕は君にありがとうと言いたい。

間違いなく君が読むことはないnoteでお礼をいうのはおかしいけど、そもそもそんな親密な関係なんかじゃなかったから、いいよね。

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今時のイケメン。それが君の第一印象だった。

その上、頭がいい。スタイルもいい。妻も言ってたけど、非の打ちどころがないと思う。

そして案の定、モテてたね。

娘は君から悪い虫を追い払うのに必死だったみたいだ。まあその気持ちはわかる。

君は頭が良くてイケメンで、しかも性格も問題ないように見えた。

礼儀正しく、物腰は柔らかく、他者を威圧するそぶりもない。

そのくせ、家族旅行に同行する胆力は持っている。

そう、家族旅行。

今年の夏、君を家族旅行に誘えと言ったのは僕だ。

勘違いしないで欲しいんだけど、僕は君と一緒に行きたかったわけじゃない。そんなことは全然ない。

娘が、君との一泊旅行を強く望んでいたから、それを阻止するための落とし所として家族旅行に君を混ぜ込むという判断をしただけだ。

彼女の親と一緒に旅行に行って、大それたことをするだけの胆力まではないだろう。僕はそう思った。

その結果は、僕にとっては満足いくものになった。君は違ったかもしれないけど。

とはいえ、僕だってダメージはあった。

遠くに進学した長女との久々の家族の時間。しかも旅行。

それは僕にとって、とてもとても大切な時間なんだ。部外者など入れたくなかったんだよ。

君はまだわからないと思うけど、子供と過ごす時間はあっという間だ。全ての時間が愛おしい。まあこれは事後的にしかわからないことだけどね。

本当は君なんか連れて行きたくなかった。これは本心だ。さまざまな要件を総合的に判断し、全体最適の妥協点として君をメンバーに迎え入れただけだ。

でも、君との旅行はわるくなかった。

君を中心として、妻も、長女も、次女も、とても楽しそうに車内で話していた。それを聞いていた僕も、楽しくなったんだ。

君はしゃべる方じゃない。受けのタイプだ。その素直さというかプレーンさと、ガチャガチャしているうちの女性陣との相性が良いと感じた。

つまり、おそらくだけど、君がいることであの旅行は楽しいものになったんだ。

それは僕の想定になかった。

君は、僕の想像を超えたんだ。

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知ってると思うけど、長女にも彼氏ができたんだ。

直接見たことはないけど、彼もまたイケメンだ。君がジャニーズ系なら、かれは俳優系と言えるだろうか。君より男って感じのイケメンだ。

LINE越しだったけど、とても礼儀正しかったよ。妻は直接会ったんだけど、良い子だと言っていた。だから間違いなく好青年だろう。

正直に言えば、長女も次女もいい人物とお付き合いできてていいなと思ったんだ。

そして、娘たちと君ら彼氏sが一緒に遊んだりするかもと想像した。その可能性は十分あった。

その時、とてもあたたかな気持ちになったんだ。

娘たちが愛する人をちゃんと見つけて、いっしょになる。

そして、僕と妻とも関係性ができていく。

家族が拡大していく。

それが自分の子供たちから発生していく。それが、そう遠くない将来まで来ている。

突然、そんな感覚が実感をもって現れたんだ。

家族と言える構成員が増えていく。それはこんなにも人の心を充足させる。

それは予感というか妄想ではあったけれど、君らの存在は僕に新たな感覚を教えてくれた。

年を取るのも悪くない。そんな感覚だ。

それは、僕がまともな感覚で人生を歩めている証拠のように思えた。

君が僕に与えてくれたものを、君はまだ理解できないだろう。

それはね、とても価値あるものなんだ。

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娘は、とびっきりわがままだったと思う。正直、僕の手にも負えない。

君はモテるから、すぐに彼女ができるだろう。それは今後の円安よりも確実に見える。

次は、もっと穏やかな子と付き合うだろう。うちの子ほどのタマはそういないから(笑)

休日に君がくるかどうかヒヤヒヤしてた日々がもう懐かしい。

そして、少し寂しくもある。

君はいい奴だから、きっと良き人生を送ると思うよ。

進学校に入ったんだから、しっかり勉強して人生を拓くべきだ。その点では、うちの娘は邪魔だったかもしれない。

もし、娘とヨリを戻すことがあれば、僕は悪く思わない。

そうしたら、またどこかへ行こうか。



46のおっさんに多くのものをくれた君にエールを送ります。

君の人生が輝かしいものになりますように。


                   敬具



PS:自転車のメンテはしとけよ。死ぬぞ。

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