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不調和を超えた先の調和(響け!ユーフォニアムに寄せて)

ユーフォニアム(ユーフォニウム、ユーフォニューム)は、金管楽器の一種。一般的にB♭管で、幾重かに巻かれた円錐管と、通常4つのバルブ(弁)を持つ。音域はテナーやテナーバスのトロンボーンとほぼ同じであるが、それよりも幾分か柔らかく温かみのある音色を奏でる。

Wikipediaより


アニメ「響け!ユーフォニアム」を観ました。
以前より評判は聞いていて、何度か勧められたりもしたのですが、同時に散見される「内容が重い」「生々しい」などいった感想の言葉が自分の中で先行して、何となく足が遠のいていたのですが、先日、同作品のスピンオフである映画「リズと青い鳥」が、短く、かつ単独でも楽しめると聞いて観たところ面白く、それをきっかけにして本編の方に入って行った次第です。

観始めてみると、これが本当に面白くて一気に観てしまって、1期、2期、そして続編であるところの劇場版「誓いのフィナーレ」まで、1週間ちょっとで観終わりました。前評判は確かでした、本当に凄い作品でした。感動もしたし、それ以上に、心に強く残る部分のある作品だと思ったので、主にまだ観てない人、これから触れるかもしれない人に向けてそれを文章にしてみようと思い、筆を取ることに致しました。吹奏楽についても、舞台であるところの部活動にも全く携わったことが無いため、かなり個人的なニュアンスの強い感想になるかと思いますが、ご容赦下さい。


「響け!ユーフォニアム」は京都の北宇治高等学校吹奏楽部を舞台に、小学校からユーフォニアムを担当していた黄前久美子が1年生として入学するところから始まる物語です。久美子を主人公として、同じ1年生の加藤葉月川島緑輝(さふぁいあ)久美子の中学の同級生であり同じ吹奏楽に属していたものの、中学最後の大会で久美子が個人的に遺恨を残してしまった高坂麗奈を中心に、2年3年の先輩との交流などを通して、前年度の成績も奮っておらず、停滞していた北宇治の部活全体が前進していく様が描かれます。

これだけだと、物凄くシンプルなストーリー、主人公たちによる、いわゆる「スポ根」のような展開、みんなが挫折なり何なりを繰り返しながらも、協力して部が盛り上がって行くような話が思い浮かぶかもしれません。僕自身も、なんだかんだでそんな話を想像していましたが、実際は違いました。全くもって、違いました。

「響け!ユーフォニアム」は「吹奏楽部」の話であり、それ以上に、徹底的に生々しい「部活動」の話なのでした。

シンプルなフィクションの部活ものであれば、頑張れば、汗と涙を流せば、報われる結末が待っています。例えば引退最後の試合、例えば新入生最初の晴れ舞台など、そういった「節目」に対して、大抵が優しく扱われます。しかし、現実はそう上手くいくわけではありません。頑張っても、報われないことの方が実際は多い。スポットライトは、結局一部の同じ場所に当たり続けます。響け!ユーフォニアムがそういう節目に対して補正をかけることはありません。そして、ここからが更に厳しい話なのですが、部活動である以上「学年」というものが関わってきます。物語が進むにつれて明らかになる部分なのですが、北宇治高等学校吹奏楽部は、久美子が入る前の代において、学年間での揉め事が起きており、それが部全体にどこかぎこちなさを残してしまっています。その上、新しく赴任した顧問である滝先生が大会に向けてオーディションを実施することになり、余計、学年という強い歪みが部に生じます。「実力」と「学年」という、あまりにもシビアな天秤が、そこには置かれるのです。響け!ユーフォニアムが生々しいと評され、重いと感じる人がいるのは、特にこのあたりに由来するのだと思います。

主人公である久美子は、他と比べると能動的に吹奏楽をやってきたわけではありません。担当楽器であるユーフォニアム(余談ですが、僕はこのアニメを観るまでユーフォニアムという楽器を知りませんでした)に関しても、第一希望ではなく「他がいないから」と担当し、そのまま何となく続けてきたものであり、北宇治で吹奏楽に入った理由も、同級生に引っ張られる形でした。中学最後の大会で、ダメ金(全国大会に進める金賞ではなく、それ以外の中での金賞をそう称するらしいです)で満足し、その横で激しく泣き崩れる麗奈に「全国行けると思っていたの?」と思ったことをそのまま言ってしまい、彼女との関係を悪くする、それがこのアニメの最初のシーンであり、久美子の根底にある「頑張っても仕方ない」というスタンスを象徴しているのですが、響け!ユーフォニアムは、そんな彼女の成長譚が一つ、メインのストーリーになってきます。

「頑張っても、必ずしも報われるわけではない」
「部活動である以上、人間関係に阻まれて終わることもある」
自らの体験談、そして北宇治で観た光景などを見て、最初は久美子は積極的に行動をしようとせず、どこか距離を置いて周りと接しますが、同じユーフォニアムを担当している3年の田中あすかや2年の中川夏紀などと関わることで、徐々に心境が変化していきます。特に副部長でもある田中あすかとの関係性は、1期2期通して重要なものとして描かれます。自分以上に周りとの距離を取り、昨年部が揉めたときですら冷酷と言っていいほど中立な立場を取ったあすかは、何故か久美子に積極的に絡んでくるのですが、その理由とは何なのか、本心を決して明かそうとしなかったあすかの心の内側にあるものとは何なのか。それが明かされる2期後半での展開は、久美子の心を大きく動かすことになる、この作品の大きいハイライトと個人的には思っているし、一番泣いてしまった場面でした。

先輩たちの事情や想いを知ることで、次第に「吹奏楽」自分の楽器である「ユーフォニアム」に対しての気持ちを強め「もっと上手くなりたい」「全国に行きたい」と思うことで、昔は理解できなかった麗奈の気持ちを理解し、結果、部活に対しての熱を高めていく久美子の姿が、大きく外側で描かれることなく、シーン一つ一つにおける行動で表現されるのも、このアニメが丁寧なところと言えます。物凄く人間的で、だからこそ心に響きます。
ちなみに、その久美子の前に劇場版「誓いのフィナーレ」で現れるのが新1年生の久石奏で、このあたりはアニメを観てからの話になるのであれなのですが、この劇場版における「成長した久美子」と「頑張っても仕方ないと達観している奏」の構図を、ここに持って来ているのが本当に上手い作りだなと感動しましたし、これを読んでいる人には、是非ここまで辿り着いて欲しいと強く思います。

話をアニメ本編に戻します。
個人的に印象的なシーンがあります。1期の第6話「きらきらチューバ」において、初心者である葉月が、なかなか担当のチューバの上達が叶わず、モチベーションを保つことに悩んでいたところを周りが励ます話なのですが、その中で提案されるのが、音を合わせて演奏する「合奏」でした。葉月でも演奏できる「きらきら星」を久美子と緑輝と演奏することで、葉月は演奏の楽しさを実感します。「自分が、確かに演奏の一部であること」を、彼女は感じるのでした。「自分がそこで奏でる意味」は同時に「自分以外がそこで奏でる意味」に通じます。個人的に、僕はこのシーンは響け!ユーフォニアムの描くテーマを表している印象的な場面なのではないかと思っています。

吹奏楽は、一人一人の音色、それを作る息遣い、さらに、それを作る演奏者のメンタルによって大きく左右されます。実際、アニメ内でも、部員の心の乱れが演奏に支障を来たす場面はよく登場します。誰かの呼吸が一つでも乱れれば、全体の演奏に影響が出てしまう。演奏はそれほどまでに緻密で、だからこそ完成されたそれは美しいものになっていきます。必要なのは全体における「調和」であり、部員同士が不和になったりしては成立しない。けれど、人間である以上、人間関係は切り離せない。誰が好きで、誰が嫌いは絶対的に存在する。だから、演奏者の前に人間として、部活動として、問題を経た北宇治吹奏楽部は「何となくの調和」を誰からともなく選びます。自分はいい、みんなが納得できればいい、それが「調和」に繋がり、演奏が乱れないのだと。

久美子も「調和」を重んじる人間でした、過度に人に踏み込んでも良いことなんてないと、入部する前までは思っていました。しかし、先輩たちの想いに触れたこと、関係が深まった麗奈の芯の強さを間近で見ること、何よりこの北宇治の吹奏楽部が好きになっていくことにより、気持ちに変化が生じます。「調和」は確かに大事です、だけど他に遠慮して、意思を引っ込めていては成長も望めない。久美子はそこで一歩踏み込むことで「不調和」を作るのですが、真の調和は、この「不調和」の先にあるのだと、この物語は教えてくれます。野暮な例えになりますが、友情であったり恋愛であったり、真っすぐにぶつかって、痛みを伴って、気持ちを分かち合ってこそ、互いに理解が深まるのはよくある話で「何となくの調和」からは「何となくの演奏」しか生まれない、だから北宇治吹奏楽部は停滞をしていて、もちろん久美子だけがきっかけではなく、演奏の空気を感じ取って部に発破(というには、あまりにそれはスパルタなのですが)をかけた滝先生の指導であったり、それぞれの部員が自身で動き出すことで部は前進していくのですが、そこにはそれぞれが見てみぬフリをしてきた「不調和」があり、それを解決することによって部は本当の「調和」を手に入れていくのです。また、この「調和と不調和」の話は、吹奏楽の話でもあり人間の話でもあって、それを「吹奏楽の部活」という、両方が伝えられるコンセプトで描いているのも、このアニメの凄いところなのだと思います。

作中での、コンクールでの演奏シーンは本当に何の飾りも無く、ただただ演奏と、部員の表情を描くだけに徹しているのも特徴的です。フィクションであり「何となくだけれど、成功するだろう」という前提があるものの、それまでの話を見てきた身としては「何が起こるかもしれない」という一抹の不安がその前提を揺るがしてくるのが面白く、このシーンには相当の緊張感が伴います。頑張って欲しい、成功して欲しいと、心から応援を送りたくなります。これは、響け!ユーフォニアムが、先述した通り徹底的に生々しく「部活動」を描いてきたからこそ、こちらに感じさせてくれる感情であり、そのとき初めて、自分が北宇治高校吹奏楽部のことを心から好きになっていることに気づかされるのです。たくさんの「不調和」を経て、部員たちが辿り着いた「調和」の奏でる音がもたらすのは、大きな感動でした。


これが、僕が響け!ユーフォニアムを見て心に強く残った部分についてです。めちゃくちゃ泣いたアニメ、はちゃめちゃ笑ったアニメは他にもあります。ただ、全体を通してここまで「この物語と人物を見届けたい」「終わったときに寂しく感じる」作品は、他を探してもあまり無い気がしています。登場キャラクターがとにかく立体的であり、今回触れたところ以外でも、3年生で「本当はあすかが部長になった方がいい」と思うのに部長をやらされている気弱な3年生の小笠原晴香、トランペット担当で後輩から慕われているものの、1年の麗奈と争うことになる中世古香織、その香織を特に慕っている2年の吉川優子、スピンオフ映画「リズと青い鳥」で主役を務める、中学からの同級生でどこかすれ違っている2年生の鎧塚みぞれ傘木希美など、紹介したい魅力的な人物はたくさんいます。久美子の幼馴染の塚本秀一との久美子の関係性も、ちゃんと青春で面白いです。

繰り返しになりますが、アニメ「響け!ユーフォニアム」は吹奏楽の話であり「部活動」の話です。それはときにシリアスで、ヒリつく瞬間もあります。僕がこのアニメを思い返すとき、何故だかずっと校舎の外は雨模様だったような、そんな印象があります。しんどいと感じる人がいるのも全然分かります。しかし、それ以上に、部員たちの「闘い」とも言える物語の先にあった、見終わったあとの爽快感と、次を待ち望む強い気持ちは、その雨模様を晴らすには補って余りあるものがありました。実際、既に発表されている来年の3期、久美子が3年生となる最終章が、僕は今から待ち遠しくて仕方がありません。


最後に。作中の次回予告でいつも使われる「次の曲が始まるのです」というフレーズがあります。おそらく、来年の3期が終わる際にも、このフレーズは使われると思います。この北宇治高校吹奏楽部の物語は、終わっても終わらないのです。ずっと、心の中にあの高校は在り続けるのだと、既に今から確信すらあります。

最初にも書いた通り、吹奏楽も部活も通って来なかった人間なので、齟齬もあるかと思いますが、これを読んで、ちょっとでも響け!ユーフォニアムに興味を持って頂いたなら、1期2期劇場版と、少し長丁場になりますが、観て頂けると嬉しいです。Amazonプライム、dアニメストアなので配信がありますので、何卒よろしくお願い致します。観て、語ったりなどしましょう。

それでは、長文お付き合い頂き、ありがとうございました。

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