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オリジナル小話の詰め合わせ

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数分で読めるオリジナル小話をまとめました。 SFジャンルの小話が多めですが、コメディや温いホラーなどの様々なジャンルの小話が混ざっております。 主に平日午後8時、9時頃に更新して… もっと読む
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2021年8月の記事一覧

四方の海の漏刻をシーラカンスは司る

すでに、海面から1000mは潜っている。 生身の人間の侵入を水圧が拒む、暗闇の海の世界への突…

水月suigetu
2年前
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最後の午餐タイムリープクイズ

着地の瞬間、力を入れた右足の足首に激痛が走った。 まずい、捻った。焦って左足を次の段に着…

水月suigetu
2年前
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がらんどうの箱に金魚のクオリアを

風船を頬に付けているような金魚、金箔を顔全体に貼ったような金魚、無数の細く黒い線の模様が…

水月suigetu
2年前
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モノクロ・スフィアのフラミンゴの飛翔

細かい砂の粒子が、手の指の間を埋めていく。ぐっと砂を掴みたくなる衝動を抑えて、手を離した…

水月suigetu
2年前
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ノアの八寸は機械仕掛けの命を乗せて

ご飯、味噌汁、ホタテのなますを粛々と口に運ぶ。 大きく開け放たれた横の障子窓から、涼しい…

水月suigetu
2年前
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ネオンイエローはフラクタルに渦巻く

長方形の中に線を引いて、様々なサイズの正方形を増殖させていく。一番小さい正方形から、螺旋…

水月suigetu
2年前
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ガーネットのシグナルは宙と地に

真っ赤な大輪の花のような星を、双眼鏡のレンズ越しに眺める。太陽よりもずっと大きな、ガーネットスター。 見えた。本当に見えた。 胸元にある菱形のザクロ石、ガーネットを片手で握りながら、本当に見えたぞと強く念じてみる。 丘の上でテントを張り終わり、紅茶を入れる。慎重に熱い紅茶を啜りながら、まだ明るい空を仰ぐ。後は、夜になるまで待機。天気予報では、今夜は空気が澄んでいるらしい。星が良く見えるだろう。 隣のテントは家族連れのようで、親子で砲台のような立派な望遠鏡を楽しそうに組

シンクロニシティ・ドールハウス

肉じゃがの芋を細かく箸で割る。延々と。 両親が離婚後の生活について淡々と話し合っている間…

水月suigetu
2年前
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下町歌舞伎に呼ばうばうわう

いかにも重そうな銅製の型を、細身の職人が一気に二つ折りにする。間髪を入れず片方の型が開い…

水月suigetu
2年前
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ムクロジの真なる姿はエントロピーに隠れて

カンッという乾いた音と、手に伝わる振動。気付けば、無心になって打ち続けていた。もう、5分…

水月suigetu
2年前
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ガラスの粒子舞う蜃気楼

スローモーションで、ジャムの詰まった小瓶がガーデンテーブルから落ちていく。 瓶を取ろうと…

水月suigetu
2年前
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あやかしきちょんきな

夕日に照らされながら、全身で風を切っていく。メタルブルーのバイクの相棒は、ご機嫌だ。朝は…

水月suigetu
2年前
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イチョウの流浪 幸あれ

朝、通い慣れた図書館までの道をイチョウの葉が覆っていた。 その光景を見て、秋になってしま…

水月suigetu
2年前
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揺れるロッキングチェアの卵

脚立を一段ずつ、慎重に登っていく。頭から落ちれば、もう大怪我では済まない高さだろう。命綱があっても、足がすくんでしまう。 足を止めて、息を吐く。下を見ないように、すぐ横にある大きな卵を見た。 最近、北極近くで発見された無人島の、凍り付いた土の中で7000万年眠っていた卵。最初はラグビーボールくらいの大きさだったが、ある時、突然巨大化し始めた。 人工的な光に照らされた卵はもう、この研究所倉庫の10mはある高い屋根に届きそうな大きさだ。このずっしりと重そうで、すぐに割れてし