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オリジナル小話の詰め合わせ

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数分で読めるオリジナル小話をまとめました。 SFジャンルの小話が多めですが、コメディや温いホラーなどの様々なジャンルの小話が混ざっております。 主に平日午後8時、9時頃に更新して…
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記事一覧

舞う紙片と歌う

気づいた時には遅かった。年季の入ったシュレッダーは、友人からの手紙を8割ほど食べ尽くして…

水月suigetu
13日前
40

白い三日月を一錠

夜空にカシューナッツを掲げて、三日月と重ねる。そっくりだ。口に放り込んで噛み砕く。ミルキ…

水月suigetu
3週間前
27

連作短編小説「次元潜水士」第10話「白鳥の歌」

西くんの潜水 次元潜水研究を手伝ってくれている境井さんと加納ちゃんとスイカを食べていた時…

水月suigetu
1か月前
29

こおりエクスプレス

青々と茂る草花が、線路の痕跡をほとんど覆い隠していた。まだ幼い息子の涼汰と一緒にしゃがみ…

水月suigetu
2か月前
45

ガラスに刻まれた綿毛の涙

ウサギのポーちゃんを抱いたまま、図書館に入った。すぐに絵本コーナーに向かい、自分の絵本が…

水月suigetu
3か月前
49

行商人の青ゆず香る夏

走って走って、大きな鳥居をくぐった所で足に急ブレーキをかけた。紺色の浴衣姿の男性が歩いて…

水月suigetu
3か月前
48

小さき天文学者の隠れ家

目薬が染みる。目を閉じたまま考えるのは、やはり仕事のこと。今度は水族館のようなドールハウスに挑戦してみようか。壁は水槽にしよう。住人はどんな人?海洋学者?人魚? カランコロンとベルが鳴った。お客さんの入店の合図だ。目を開けて作業部屋から店に出る。いらっしゃいませ~と言いながら、さりげなく棚に並んでいるドールハウスを整理するふりをする。お客さんが私に話しかけやすいように。 私はミニチュアドールハウス専門店の三代目店主だ。祖父と母が切り盛りしていたお店を引き継いだ。祖父と母の

一円玉うらしま太郎

十円玉か百円玉か、少し迷って百円玉を賽銭箱に入れた。鈴を鳴らして拍手とお辞儀。昨日始めた…

水月suigetu
3か月前
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連作短編小説「次元潜水士」第9話「ブラックホール・スパゲッティ」

地図描き師の姉妹の潜水 やっと実現する冒険旅行と、これから来るお客さんに胸を踊らせながら…

水月suigetu
4か月前
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満ちて欠けて、満ちて朝

夜行バスに乗り込み、自分の席を見つけた瞬間、スマホが震えた。慌てて席に座り画面を確認する…

水月suigetu
5か月前
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万華鏡スープ

お客さんを見送った午後六時、閉店の札を玄関に下げた。今日もスープのほとんどが売り切れだ。…

水月suigetu
5か月前
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クレーンゲームと春休みアイス

初めて見た大型客船にたじろいだけれど、船の中に入ってしまえば、それほど緊張しなくなった。…

水月suigetu
6か月前
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連作短編小説「次元潜水士」第8話「四次元プリンター」

未来の西君の潜水 旧式の超立方体型四次元プリンターの充電が完了した。電源ボタンを押すと懐…

水月suigetu
6か月前
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湯煙こぼれ話

地面に這いつくばりながら、マンホールの上はもう絶対に歩かないと誓う。 昨夜降った雪を避けながら歩いていたら、マンホールの上で見事に転んだ。下半身をしたたかに打ち付け、しばらく動けなかった。骨には異常なさそうだが、きっと濃いアザになってるはずだ。 椅子に座れるだろうか。職場では座っている時間が長い。アザが圧迫されて痛いかも。休もうか。でも軽い怪我で急に休むわけには……。 仕事を休むかどうか葛藤しながら、よろよろと立ち上がったところで、視界に雪がちらついた。ああ、もう休もう