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高階の狭義サイン様多項式の非存在証明

 ねこっちです。今回は、前回の記事で定義したサイン様多項式のうち、狭義のものが$${n\geq2}$$の場合には存在しないことを示します。

 前回の記事をご覧になっていない方は、以下でお読みくださることをお勧めします。

 それでは、始めます。

$${n=1}$$の場合

 まず、$${n=1}$$の場合は、狭義サイン様多項式は存在することに注意してください。実際、$${x=0,\pm1}$$でそれぞれ極値$${1,-1}$$をとる4次関数を探すと、唯一

$$
f(x)=2x^4-4x^2+1
$$

が見つかります。したがって、1階の狭義サイン様多項式は存在します。

1階の狭義サイン様多項式のグラフ


狭義サイン様多項式の導関数の因数分解

 $${n}$$階の狭義サイン様多項式$${S_n(x)}$$は、定義より$${(2n+2)}$$次式であるので、導関数は$${(2n+1)}$$次式になります。したがって導関数は$${(2n+1)}$$個の零点をもちますが、これはサイン様多項式が$${(2n+1)}$$個の極値をもつことからこれらの零点はすべてサイン様多項式の極値に関与する点となっており、したがって$${n}$$階の狭義サイン様多項式の導関数$${S_n'(x)}$$は次のような因数分解形をもつことがわかります。

$$
S_n'(x)=C_nx\prod_{k=1}^{n}(x+k)(x-k)
$$

 ここに$${C_n}$$は$${n}$$に依存する定数であるとします。

 サイン様多項式の定義から、$${S_n(0)=1}$$、かつ$${S_n(2)=1}$$が要請されるので、$${S_n(x)}$$がサイン様多項式である必要条件は、以下の式が成り立つことです。

$$
S_n(2)-S_n(0)=C_n\int_{0}^{2}x\prod_{k=1}^{n}(x+k)(x-k)dx=0\quad\dots(\star)
$$

逆に、右辺の積分が非零であれば、狭義サイン様多項式は存在しないことが分かります。なお、$${n=1}$$の場合は上記の積分は意味をなさないので、1階の狭義サイン様多項式の存在性には以下の議論は影響しません。

積分の非零性の証明

 $${(\star)}$$式の右辺の積分

$$
s_n:=\int_{0}^{2}x\prod_{k=1}^{n}(x+k)(x-k)dx
$$


が0でないことを示します。

 まず、以下の正弦関数の無限乗積展開を考えます。

$$
\sin\pi x=\pi x\prod_{k=1}^{\infty}\left(1-\frac{x^2}{k^2}\right)
$$

 これを次のように変形します。

$$
\sin\pi x=\pi x\prod_{k=1}^{n}\left(1-\frac{x^2}{k^2}\right)\prod_{k=n+1}^{\infty}\left(1-\frac{x^2}{k^2}\right)
$$

 ここで

$$
\prod_{k=n+1}^{\infty}\left(1-\frac{x^2}{k^2}\right)=\prod_{k=1}^{\infty}\left(1-\frac{x^2}{(k+n)^2}\right)=Z_n(x)\quad\dots(1)
$$

とおきます。さらに

$$
x\prod_{k=1}^{n}\left(1-\frac{x^2}{k^2}\right)=\frac{(-1)^n}{(n!)^2}x\prod_{k=1}^{n}(x^2-k^2)\quad\dots(2)
$$

となるので、(1)(2)を合わせると

$$
\sin\pi x=\frac{\pi (-1)^n}{(n!)^2}x\prod_{k=1}^{n}(x^2-k^2)\cdot Z_n(x)
$$

となり、したがって

$$
x\prod_{k=1}^{n}(x+k)(x-k)=\frac{(-1)^n (n!)^2}{\pi}\frac{\sin\pi x}{Z_n(x)}
$$

となります。この両辺を$${x:0\to2}$$で積分することで、

$$
s_n=\frac{(-1)^n (n!)^2}{\pi}\int_{0}^{2}\frac{\sin\pi x}{Z_n(x)}dx=\frac{(-1)^n (n!)^2}{\pi^2}\int_{0}^{2\pi} \frac{\sin x}{Z_n(x/\pi)}dx
$$

となります。この積分区間を$${[0,\pi]}$$と$${[\pi,2\pi]}$$に分け、後者で$${x+\pi\to x}$$の置換を行うことで、以下の式を得ます。

$$
s_n=\frac{(-1)^n (n!)^2}{\pi^2} \int_{0}^{\pi} \sin x\left(\frac{1}{Z_n(x/\pi)}-\frac{1}{Z_n(1+x/\pi)}\right)dx\quad\dots(3)
$$

 ここで、$${n\geq2,\;0\leq x\leq1}$$において

$$
\frac{Z_n(x)}{Z_n(1+x)}=\prod_{k=1}^{\infty} \frac{(k+n)^2-x^2}{(k+n)^2-(1+x)^2}>1
$$

が成り立つことから、$${Z_n(x)>Z_n(1+x)>0}$$が成り立ちます。よって、(3)式の被積分関数は0以下になることが分かります。したがって、

$$
(-1)^n s_n=\frac{(n!)^2}{\pi^2}\int_{0}^{\pi}\sin x\left(\frac{1}{Z_n(x/\pi)}-\frac{1}{Z_n(1+x/\pi)}\right)dx<0
$$

となり、よって$${s_n\neq0}$$であることが分かります。(Q.E.D.)

 したがって、高階($${n\geq2}$$)の場合における狭義サイン様多項式は存在しないことが示されました。

次回予告

 次回は、$${n=2,3}$$の場合において、広義サイン様多項式が存在することを、具体例を挙げることで示したいと思います。

 今回もお読みくださりありがとうございました。ねこっちでした。

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