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≪個別企業の話≫ 日本製鉄の橋本社長が気になる

「日本製鉄の社長がすごい」というニュースをどこで見たか忘れてしまったのですが、一橋大学・ハーバード大学出身の橋本社長は三枝匡の名著『V字回復の経営』を読んで本当に日本製鉄をV字回復をさせてしまったという池井戸潤のような数年間を走られました。

さらに日本製鉄が米国のUSスチールの買収という大きな決断も相まって「橋本さんや日本製鉄の事を知りたいな」と思った矢先に本が出ました。

休日に一気に読みましたのでかいつまんでご紹介します。

【橋本さんとは何者なのか】
『新日鉄住金がここまで落ちぶれてしまって、私は悔しくて仕方ないんですよ。我々には世界大手の誇りも意地もある。何とか復権させたいんです』
社長就任直後の発言だそうです。ここだけで何か普通のサラリーマンが持つ感情より何か熱いものを感じます。

橋本さんを知る上司は誰もが『若いのにずけずけ発言するやつ』という印象を持つため、序列社会の日本製鉄では異端児だったそうです。そのため、対立し続ける人と働くのではなく海外部署に異動。

「市場が縮小する日本」ではなく「伸びているアジア」を担当する事で開眼し、マクロ経済を踏まえての市場見通しから自社の価格を提案していったそうです。『事上磨錬:行動や実践を通してしか知識や技能は磨かれず、人間の実力は身につかない』というのが座右の銘だそうです。全ての判断は論理と数字、鬼のような合理性を持った人物だとかいないとか・・・。

ここまで見てきて私は1人の人物を思い浮かべました。トヨタ自動車の元社長 奥田さんです。奥田さんも分析家でトヨタ自動車販売で経理をしている時に四季報を読み漁りマクロな経済を勉強し、個別の販売店の動向をレポートしていたようです。このレポートの切れ味があまりに鋭いのでフィリピンに左遷。そこから章一郎社長に見いだされたという歴史があります。

【この数年何をしてきたのか】
橋本さんが実行されたことは大きく4つあります。

1)製鉄所の改革
この製鉄所を維持するのは最適か?設備は最適か?を突き詰め、
6製鉄所32ラインを休廃止します。広島県の呉工場に至っては全面閉鎖という大きな決断です。当然、地元・社員・サプライヤ等への影響は多大でした。それでもこの改革を断行します。5,000万tあった生産能力は4,000万tに減少します。普通なら作る量を減らすなんて怖くて出来ないかもしれません。

2)単価の向上
減らした分、行ったのが単価の再交渉です。自動車会社を始め名だたる企業との価格交渉に自ら臨みます。顧客毎・決算期毎の並んだシートをベースに(まさに論理と数字)営業部長達と討論。彼らにとっては『前門の顧客、後門の橋本社長・・・』(うまい記述です)苦しむ現場に『シェアが減った責任は俺がとる』と言っていたそうです。当然、顧客の一部は反発。それでも価格交渉の主導権を握り返したのです。

3)インドや米国企業の買収
アルセロール・ミタル社は世界最大の製鉄会社。日本製鉄のライバルでもあり、パートナーです。そのアルセロール・ミタルと破産したインド4位の企業を共同で買収。現地で訴訟が起こるも、国内最高級の法務部も援護し買収をまとめあげます。買収企業のハジラ製鉄所は東京都中央区と同じサイズと言うからすさまじい規模です。

米国のUSスチール買収も狙いはインドと同じで「各国が自国保護貿易」に舵を切っているためのようです。「鉄は国家なり」という言葉がありますが、各国にとって製鉄は工業の重要な源泉。1つの民間企業 日本製鉄のグローバルビジネスにとっては各政府の意向は重要なポイントです。

輸出ビジネスがメインなら関税をかけられればそこで試合終了。ならば、経営が苦しい企業を買収し現地雇用を継続しながら日本製鉄グループとしてビジネスをする方がWIN-WINという事になります。

4)高級材設備への投資、そしてGX
では国内は細っていくのか?というと逆のようです。自動車会社に使われるようなハイテン材等を中心にこれまでの設備を更新、新設する動きが活発になっており、1の改革、2の値上げで得たキャッシュをここに投資します。

ただ「金属材料」を作る会社から「顧客の求める弾性、特徴を持つ金属および加工機メーカーも巻き込んだ提案をする会社」に変化しつつあるのです。

また各国政府が鉄鋼会社の変革に補助金を出して脱炭素への転換を図るのに対して遅れを取って来たので現在、水素の利用などに技術投資もしています。

橋本社長は『入社したころは 第一に国、第二に業界、第三に会社と言われました。ですが、そもそも分ける事自体がおかしな話です。つながっているんですよ。私たちが強くなれば顧客の利益だけでなく社会が抱える課題解決や国益につながる。日本製鉄も他の素材メーカーもそういう存在であってほしいですね』と語っていました。

橋本社長の魅力もさることながら
日経ビジネス 上阪副編集長渾身の一冊だと思います。
「この本には日本のものづくりへの尊敬と愛がある」

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