#こんな学校あったらいいな

心ぞうドキドキ、体ふらふら。
(おともだち、たくさんできるかなぁ)
あさ、学校までの道を歩きながらこんなことを考えていた。
わたし、志摩りかは、小学3年生。
今日から新しい学校に通う。わくわくドキドキ。

「かわいい服着てるね。転校生かい?」
校門に近づくと、おじさんに突然話しかけられたので驚いちゃったけど、小さくうなずいた。
するとおじさんは校舎のまえにあるカボチャみたいな形をしたオレンジ色の建物を指さして言った。
「あそこに先生がいるからいってごらん」
(あれなに?あんな変なのが学校の建物なの?)
見たことのない建物の前まで行くと、ネコのかぶりものをかぶった男の人がでてきた。
「志摩りかちゃんだね?待ってたよ。私はこの学校の先生だ」
「あはは」
わたしはおもわず吹き出してしまった。
「ど、どうしたの?おかしいかい?」
先生は驚いて聞き返してきた。
「だって、先生!!あはは、そんなのかぶってるなんておかしい。大人なのに」
「かぶりもの?でもかぶりものって大人だったらかぶったらダメなの?だれが決めたの?」
先生がまた聞いてきた。
「ダメって?そうなんじゃないのぉ・・・」
わたしは少し困りながらつぶやくように言った。
「ふーん。ダメって?そうか、そうか」
先生はかぶりものをかぶったまま、大きくうなずいた。
「それはそうと、志摩りかちゃんは、学校で何をしたいの?」
「うーんと、わたしは学校でおともだちたくさんつくっていっしょに遊びたいな」
先生の顔をみながらつぶやくように言った。
「なるほど、それはいいね。楽しいし。では教室にいってみようか」
「はい」
先生と一緒にわたしは教室へと向かう。
ろうかを通って、3年2組の前で先生の足がぴたりととまった。そして先生が扉を開けると中には女の子5人、男の子6人がいて、いろいろなことをしていた。
「はい。みんな新しいおともだちを紹介するよ。志摩りかちゃん」
「こんにちは」
みんなが元気にあいさつしてくれたのでわたしはうれしくなった。そして、みつあみをしたかわいい女の子が話かけてきた。
「志摩りかちゃん、こっち来て、いっしょに釘を打とうよ」
次は、ちょっとかっこいい男の子が言う。
「志摩りかちゃん、この本読む?」
でも、みんなが一度に話しかけてきたので、すこし困ってしまった。
そんなわたしの様子をみて先生は聞いてきた。
「志摩りかちゃんは、何が好きなの?」
「絵をかくのが好きですけど、本も読みたいですし・・・・」
「そう、それなら一時間目は絵をかいて、2時間目は本を読んだらいいね」
「え?」
先生の言葉に驚いた、
「どうしたの?志摩りかちゃん」
「だって、学校で好きなことしていいなんて。ルールはないの?お母さん、学校のルールはきちんとまもりなさい、きちんと勉強しなさいって言ってたけど」
「好きなことをやっていいんだよ。好きなことをやりながら勉強するんだ。それにルールはあるけど」
「けど?」
「ルールはみんなでいっしょに考えてつくっていくもの。だから今あるルールももしかしたらこれからなくなるかもしれない」
そして先生はこうつづけた。
「自分のやりたいことをみんなの前で言って、やっていくんだよ」
「それだけ?」
「やりたいことをやるためにどんなルールが必要かも月曜日にみんなに言うんだ」
「ルールを?」
「そう、そして話し合う。この学校ではみんながたのしく過ごすためにルールを作っていく。だからいやだと感じる人がいたらそこはかえていかないといけない」
「先生はルールを作ってくれないの?」
「先生がつくったルールは人に迷惑をかけないってことだけ!これはまもらないといけないよ。でもあとどんなことをルールにしてまもるかはみんなで考えてつくっていくんだ」
「そうなの?」
「そう!!だって学校はみんなのものだ。先生だけのものじゃない。だから、ルールはみんながつくっていく。それにそうすればルールがなぜ必要かわかるでしょ」
「そうか・・・うん。そうだね」

先生と話していると女の子がやってきた。そして先生のかぶりものをさわりながら言った。

「先生。かわいい」
「ありがとう、ゆいちゃん」
「先生、大好き」
ゆいちゃんは先生にだきつきながら言った。そして
「さようなら」
あいさつをすると走って行ってしまった。女の子の後姿をみながら先生は言う。
「さようなら。またね」
私は驚いてしまった。
「あの子、もう帰るの?」
「うん、今日は家でやらなきゃいけないことがあるんだって」
「そうなの?でもいいの」
「いいのだよ」
(変なの、じゃあ朝は何時から来ればいいんだろ)
私がこんなことを考えていると先生が言った。
「学校に来る時間も自分できめるんだよ」
「そうなの?!」

「りかちゃん、わたしいずみっていうの。遊ぼうよ」
さっき教室で話しかけてきたみつあみの女の子だ。
「うん!あそぼう!いずみちゃんは何時に学校にくるの?」
「私は8時にはきてるよ」
「早いね」
「うふ、だって大好きなひろし君が朝、校庭でサッカーの練習してるんだもん。だから!」
「ひろし君?ってだれ」
「教室にさっきかっこいい子がいたでしょ。あの子がひろし君」

次の朝、8時少しまえに学校にいくと、校門の近くにいずみちゃんがいた。
「いずみちゃん、おはよう」
いずみちゃんはにっこり笑いながらあいさつをしてくれた。
「りかちゃん、おはよう」
そして、遠くに赤い服を着た女の子をみつけるといずみちゃんは走っていった。
「みなちゃん、おはよう」
いずみちゃんはみなちゃんの肩をたたいてあいさつをした。
みなちゃんはにっこり笑った。
「どうして肩をたたくの?遠くから声をかければいいんじゃないの?」
「それはね」
いずみちゃんに聞くと理由を説明してくれた。
みなちゃんは音を聞いたことがない。音が聞こえないんだ。生まれてから一度もだ。だからみなちゃんにあいさつするときには肩をたたく。これはみんなで決めたルールなんだ。
(そうか。確かにこういうのは大事だな。ルールってこうやって作っていくのか)

「みなちゃんはとっても頭がいいの。難しい漢字もたくさん知ってるからよく教えてもらうの」

校庭では、男の子が2人、サッカーの練習をしている。その中の一人をみて、いずみちゃんが叫んだ。
「きゃー!ひろしくんと目があった!」
(昨日、教室にいた子だ。あの子がひろし君か)
いずみちゃんはひろし君が早くから来ているから学校には8時に来ることにしているんだ。
まだ他にはだれもきていなくて、校庭も教室もがらんとしている。
「学校ってこんなに広いんだ」
私は思わずつぶやいた。
「広いから今日は10時までここ3人だけで使えるよ」
いずみちゃんは教室のすみっこにはってある今日の使用割り当て表をみながら言った。
「こういう表もみんなでつくったの?」
「そうだよ。すごいでしょ?」
「うん。それと思ったんだけど、さっきの先生しかこの学校にはいないの?一人だけ?」
「先生は一人。一人でいいじゃない」
「え?そう?」
「うん。先生が、いろいろなことをやってくれる。だからそれでいい」
「そうなの?勉強どうするの?先生一人で。テストとかないの?」
「テストは一年に3回あるけど、みんなでいっしょにやれば大丈夫。みなちゃんは国語教えてくれるし、みんなでとくいなことをどんどんやっていけばいろいろなことがわかるよ。それにみんなで考えてわからないところは先生が教えてくれるから」
(先生一人だけ?みんなで教えあいながら勉強?)

「りかちゃんはなにがすきなの?
「私は絵を描くのが好き!美術館とかにもよくいくし」
「わぁ、すごい。じゃあ、りかちゃんには絵のことをきけばいいね。ちなみに私は工作大好きなの。2年生のときには本棚つくったんだよ」
こういいながらいずみちゃんが教室の後ろを指さすと、そこには小さな本棚があった。

10時になると教室にこどもたちがやってきた。
今日何をするかはみんなそれぞれ違うみたい。
なので最初、みんなで色々はなしあわないといけない。
まず自分がやること、自分の使うスペースをチョークで床に書く。
「わたしは工作をしたいから、これだけのスペースを12時まで使いたい」
いずみちゃんは最初に言った。するとひろし君がこういった。
「じゃあ、本を読みたいみなちゃんの場所のとなりを使うといいね」
「あ、ありがとう」
いずみちゃんはうれしくなって、少し顔をあからめながら、ちいさく言った。

本を読みだす子、工作を始める子、教室にはいろいろな子がいる。
でも、自分の使うスペースからはみ出してはいけない。
そして汚れたところは廊下にある掃除道具をつかってきれいにしてから帰ること、こんなことはルールになっていた。

(みんな楽しそうだなぁ。私はじゃあ、絵をかくかな)
「絵をかくなら、ここを使うといいよ」
いずみちゃんがこういってくれたので、私はうなずきながら色鉛筆を出した。
すると色鉛筆がころころと転がって、教室の外に行ってしまった。すると
「はい」
ひろし君が色鉛筆をひろってくれたので、私はお礼を言った。
「ありがとう」
そんな様子をみながらいずみちゃんはやきもきしながらこっちにきた。そしてこっそりこう言った。
「ひろし君のことすきになっちゃダメ」
私は驚いた。
「え?」
でも、いずみちゃんの顔を見るとかわいらしくなって思わずうなずいた。
「わかった。じゃあ、それルールにしておこうか」
「ルールっていうほどのものじゃないけど・・・でも・・・」
「いいよ。いずみちゃん大好きだから」

ルールってみんなを楽しくするためのものなんだ。
この学校には先生は一人しかいない。でもここでは、みんながみんなを教える。だから困らない。みんなできること、得意なことが違うから。
そして、楽しくすごせるようにルールをつくって、みんなで楽しくやっていく。
ここはそんな学校だ。
私はこの学校が好きだ。そしてここがどんどん好きになるよ。


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