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クマリーノは悲劇だったのか、喜劇だったのか。

NEXT KAWAII PROJECT
それは大手キャラクター企業、サンリオが手掛ける「次の可愛い」を探すをコンセプトにした新キャラ総選挙だ。
数あるタイトルから選ばれてデビューするのはたった1つ。
1つの枠を巡って、様々な事が起こったことは皆さんもご存じだろう。
その中でも、一際目を引いていた事件があった。
彼らは可愛い子熊で、カフェ経営をしている。
コンセプトは「今日もあなたにとって幸せな1日になりますように」。
忙しい現代人に対し、温かなコーヒーでお出迎えして、穏やかで安心した緩やかな癒しの時間を提供してくれる。
彼らはそんなキャラクターだった。

クマリーノとは

以下はNEXT KAWAII PROJECTから引用している。
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とある場所にたたずむ
隠れ家のようなレトロなカフェ。
そこにはカフェを営む
クマの本格バリスタ『ロースト』と
お手伝いさんの双子のコグマが
お待ちしています。
コーヒー色をしたコグマの『ドリップ』は
しっかりもの。
ミルク色をしたコグマの『シロップ』は
好奇心旺盛。
そんな3匹があなたに
癒しの時間を与えてくれるでしょう。

おっと、
そろそろお店のオープンの時間のようです。
さぁ、今日も新しい1日のはじまりに
ゆっくりとカフェでもいかが?
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コンセプトは完璧だ。
フワフワのコーヒー色の子熊、『ドリップ』
そしてミルク色の子熊、『シロップ』
彼らがメインに置かれているのが画像からでも明らかだ。
しかし彼らの本来の目的は「お手伝い」なのだ。
ドリップシロップはこのカフェで「お手伝い」をしているだけで店員さんではない。
では、このカフェの経営は誰がしているのか。
本格バリスタの『ロースト』さんだ。
一見すると何も悪くない組み合わせだ。
バリスタが双子の子熊のお手伝いをしてもらい、カフェ経営を仲良くしている。
そう、彼らはとても仲が良く、店に来てくれる客を癒してくれる。
絶品のコーヒー、可愛いお手伝い。
面倒見が良くて優しくたくましいローストさんにドリップとシロップは懐いている描写も見られる。
ローストさん無しではクマリーノを語ることは不可能だ。

しかし、この『ロースト』さんが物議を醸しだしてしまった。
彼の見た目が、ある一定の層に受けてしまったのがある種の原因の1つだ。


ローストさんとケモナー界隈

皆さんはケモナーという単語を知っているだろうか。
ケモナーとは、人間ではなくケモノ、要するにふわふわの皮を被った生き物を愛でる人々の事を言う。
かくいう筆者もケモナーであり、表には出していないがケモノも愛する兼用ケモナーだ。
ケモナーにも様々種類があり、単に可愛い動物を愛でる、愛するタイプ。
はたまたその対象に対して強い欲望を抱く者。
愛らしい獣を愛する者もいれば、人に近い獣を愛し、筋骨隆々な獣を愛する者もいた。
一般的にケモナーと言われる界隈で有名なのは3つ目の「筋骨隆々な獣を愛する者」だろう。
さて、筋骨隆々なケモノを愛でて何が悪いのかと言えば何も悪くない。
世の中には筋肉フェチと呼ばれる人間がいるくらい、筋肉を愛するのは一般的なフェチズムである。
ケモナーもフェチズムも1つであり、好みの対象がそういった類になるのはある種の必然だ。
胸のデカい女性が好きな人もいれば、と言ったものだろう。

さて、ここで問題になっているのはサンリオを純粋に愛でる者とケモノとしてローストさんを愛でる者の差だろう。
先ほどの記載した通り、ケモナーもフェチズムの1種と言った。
当然だが、ケモナーの中にはケモノをスケベな面で見る者も多数いる。
特にスケベな面で露見するのは女性の形をしたケモノだけではなく、筋骨隆々のたくましいケモノたちだ。
そういった筋肉を好むケモナーは多く、イラストに残している者も多い。
BLという言い方をすれば容易いのだろうが、正直言ってしまえばゲイに近いものだろう。
語弊を招かぬよう言うが、ゲイであることは隠すべきことではなく、そういった好みは人それぞれである。
筋肉質、かつケモノとしての魅力をもつキャラクターは多数いるが、そういったキャラクターがスケベの対象になりやすいのも確かだ。

さて、ここでローストさんを見直してみよう。
彼はNEXT KAWAII PROJECTの宣伝映像で「筋トレをしながらアイスコーヒーを飲み、照れている」という描写があるほど、ローストさんは人気が高い。
2匹が準備をしている時、ローストさんに気付いて抱き着いたりすることもあるようだ。
シロップに悪戯をされても怒らない所をみると、本当に懐の広いクマなのだろう。
挙句の果てには3匹でお昼寝をしているカワイイ動画まである。
極めつけはドリップ、シロップと共に不思議の国のコーデを着ているローストさんも大変愛くるしい。
ローストさんはその見た目と相まってかなりかわいらしい面が多い、いわゆる「ギャップ」がとても大きい。
常に鍛えている理由は定かではないが、水分補給のためにアイスコーヒーを飲むというのは本当にコーヒーを愛しているのだろう。

さて、この絵を一般人が見れば「優しいおじさんだな」という印象を受けるだろう。
だが、こういったケモノが好きなケモナーの目線は違うところに気付く。
「良い体つきだな」という点である。
先ほども言った通り、ケモナーの中では筋肉質が好きなケモナーがいる。
そして彼らはこのローストさんに目を付けた。

分かり合えない「サンリオファン」と「ケモナー」

クマリーノを応援する者がいる中で、彼らはローストさんのファンアートを描き始める。
それが純粋なファンアートなら問題ない。
美味しい料理を作っていたり、コーヒーを入れたり、2匹と戯れていたり。
そんな物ならよかった。
しかし、中には自制が効かずスケベな絵を発信してしまう者もいた。
問題はその中で起きる。
そのイラストをファンたちの前に出さなければ問題が無い。
しかし、その絵を、あえて公式タグである「クマリーノ」を付けて発信する者も現れ始めた。
絵だけではない、わざわざリプや引用にそういった類を匂わせるツイートをしてしまった。

もちろんだが、ケモナーという言葉に抵抗が無いものがいないわけではない。
サンリオという作品を純粋に愛する者にとっては、その作品はショック以外の何物でもない。
厳密に言えば、サンリオファンの中でもケモナーという界隈に腰を据えている者はいるものの、サンリオという作品に対してスケベな発想をしている者は多くない、はずだ。
少なくとも私の周りでは早々いない。
サンリオというのは小さい子供から大人まで、幅広く愛されるジャンルである。
確かに愛らしいキャラクターにスケベな気持ちを抱く者たちもいるのだろうが、そういった人たちはあえて隠しつつ発信をしている事が多い。
決して発信すること自体が100%の悪ではない。
そういった癖を持っている事を恥じろと言っているわけではない。
ただ、出す場所を間違えてはいけないという事だ。
古の腐女子たちはそれを察されないよう「検索避け」という言葉を使ってきたが、現代になって検索避けが曖昧にはなっている。
その弊害が今回出てしまった。

純粋にクマリーノを応援している者たちは、この事実を知って大層ショックを受けただろう。
「クマリーノを純粋に応援していたのに!」
「なんか嫌な感想や絵が流れてくる……」
そう言った人たちが、クマリーノから離れてしまった。
さらにローストさんをそういった癖を持っているキャラなのだ、と設定づけて色々な事をしてしまっている人もいた。
当然だが、これを受け入れられない人間は多数いただろう。
クマリーノの看板であるドリップ、シロップは差し置かれ、ローストさんをメインとして見ている。それが嫌だ、という意見も見られた。
そう、あくまでローストさんは彼らの雇い主。
NEXT KAWAIIに選出されているのはローストさんではなくドリップ、シロップだ。
一部のこういった界隈の人間が騒ぎ立てた為、クマリーノの順位は1位から2位に落ちてしまい、デビューを逃してしまった。
界隈では「そういったゲイの性癖を持っている人が悪い」だの「ケモナーが悪い」だの言われているが。
一部のケモナーからは「それくらい許容しろ」という話が出ていた。

いったい誰が悪かったのか

ここまでくれば「ケモナーが悪かったのか」と言われそうだが、そうではない。
正直、筆者の考える一番の黒幕は公式だ。
クマリーノの作者は、何故ローストさんを作ったのだろうか。
これは純粋な疑問である。
2匹が営業するカフェ、ではいけなかったのだろうか。
さらにクマリーノの公式イラストの中に、もう1匹カウボーイ風のクマも登場している。
その描き方は見ればわかるが確実にケモナーを誘っているような絵柄をしている。
本当にこの作者が描きたかったのは子熊の2匹ではなくローストさんだったのではないか、と思ってしまうほどだ。
絶対そうではない、と言い切れない話であるが、票を集めるためにあえてケモナーに発信をした、と思われても仕方のないことだ。
クマリーノの票も純粋なサンリオファンではなくケモナーによるものだったのかもしれない。
中にはケモナーとしてクマリーノがデビューしてほしかったとあるが、それは看板の2匹ではなくローストさんをデビューさせたかったのかもしれない。
そう考えると、今回クマリーノが受賞出来なかったのも無理はない。

そもそも、サンリオは全年齢だ。
サンリオがLGBTに関して関心がないと言えば違うのだろうが、自分たちがサンリオを通じてLGBTを強く、強く発信してしまうのはいかがな物だろう。
これはケモナーではなく、LGBTに話になってしまうのだが。
ゲイの人は「ゲイも認めてほしい」と良く言っている。
筆者はゲイに対して寛容的ではあるが、それとこれとは話が別だ。
LGBTに対して理解がない、ましてやそれを嫌う人もいるだろう。
ニガテな食べ物を無理矢理食べさせ、「好きになれ」と言っているようなものだ。
中には受け入れる事が出来ず、アレルギーになってしまうような人もいるだろう。
当然、LGBTは認知されるべきものだが強要されるべきものではない。
今回のローストさん事件に関しても「ゲイ向けのコンテンツ」と発信した馬鹿者がいたようだが、それとこれとは違う。
クマリーノのメインはローストさんではない、ドリップシロップだ。
ローストさんが好きなのは良い。ただローストさんにありもしない設定をあれやこれやつけて発信するのはどうかと思う。
自分の癖を曝け出すのは自由だが、それを公式に見える形で公表すれば確実に他の人の目にも映るはずだ。
ニガテな人や嫌悪を抱く人が公式に連絡をしてもおかしくない。

これは他人の畑の問題ではない

ローストさん事件は公になっていないだけで様々なケモナーの問題を抱えていた。
しかし、これはある意味オタクたちの反面教師になり得る。
例えば、それは腐女子の感覚だ。
先ほども言った通り、腐女子は最近隠しもせず自分の癖を出すことが多い。
やれ作品の名前を出してBLの話をするやら、やれ夢に対して公式に凸するやら。
中には公式のリプでCPの喧嘩を始めるという地獄もあるらしい。公式も大変である。
これは他人の畑ではない、我々も同じである。
我々オタクが生かされているのは公式の供給があってこそ、その公式に対してありもしない設定、望みもしない事をツラツラと書き連ね、上げるのはいかがだろうか。
公式、ましてや作者が「こんなはずではなかったのだ」と言ってすべて打ち切る可能性だってある。
同人、というのは繊細な問題になりえる。
ファンアートという聞こえの良い言葉は出来たが、やはりファンアートでは収まらない作品も存在しているのだ。
私たちは、畑を間借りして農作物を育てさせてもらっているに過ぎない。
畑を荒らせば、作物は枯れ、実らない。
私たちはこの畑を大事にしなければいけないのだ。

それでも、共存の道はあったのだと思う。

クマリーノの話に戻るが、クマリーノ関係で検索するとこういった意見も見られる。

『これまで接することのないゲイやケモナーと一緒に応援出来たのは嬉しかった。趣味嗜好の関係なく「カワイイ」を共有できた』

このツイートを見る限り、共存の道はあったのだと思う。
好きな物は一緒でも、道が違う。
でも、好きな物は一緒なのだから、お互い応援をするという空間は素晴らしかったのだと思いたい。
押し付けなく、お互いを尊重し合い、純粋にクマリーノという作品を応援出来ればクマリーノは恐らく栄冠をもらっていたのだろう。

願わくば、今度はクマリーノも一緒にサンリオの看板を飾ってもらいたいものである。


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