見出し画像

わたしと、あなたと、みんなの、はじまりの日。


私はコロナ前の、声を出して盛り上がれたPerfumeのライブを、映像でしか知らない。
いつか生で見てみたい、そんな夢はいったんあの日に絶たれてしまったから。

2020年2月26日。
「多くの人がが集まるようなイベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請する」との政府発表があった。

この日から、何もかもが変わってしまった。

この日東京ドームでは、ベストアルバムを提げて行われたPerfumeのツアーの千秋楽が行われる予定だったが、中止となった。
そして彼女たちは「あの日、ライブができなくなったアーティスト」という肩書きを背負うこととなった。


1回目の緊急事態宣言が明けた後、新曲の発表やそれに伴うメディア露出はあったものの、ライブ活動は完全にストップしていた。
その「再開の日」を迎えたのは2021年8月。公演名は「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」。
ファンクラブ会員の限定公演であったため、非会員の私は行かなかったのだが、公演終了後すぐ再演希望が集まったと本人たちが公式Twitterで言ってるのを見て、相当すごいものが出来上がったのだと思った。
そして2022年1月に再演が決まり、参加の権利はファンクラブ以外の人にも開かれた。私はAmazon Prime Videoの配信を見た上で、そちらに参戦した。


私はてっきりポリゴンヴェイヴを引っ提げたアルバムツアーのようなものをイメージしていたのだが、実際はかなりメッセージ色の強いコンセプトライブだった。

特にコンセプチュアルだと思ったシーンは、中盤、3人のモノローグとELEVENPLAYのダンスのつなぎから入る「ポリゴンヴェイヴ」だった。

まず、モノローグが入るというライブもあまりないので新鮮だった。本来伝えたいことは音楽で伝えて、MCで補完すればよいわけなので。
でもこのライブには必要だった。包み隠さない言葉で、でも澱みない言葉で、自分達の想いを客席に伝える必要があったからだ。

そしてELEVENPLAYの皆様は衣装が真っ黒で、まさしく「黒子」状態だった。
私はPerfume3人の「陰」の部分を具現化したものだと解釈している。

中盤のモノローグの冒頭はこうだ。

夢は嘘、本当?
黒い髪、黒い瞳、黒い影
あなたの声は、私の声は、みんなの声は
あなたの存在は、私の存在は、みんなの存在は
あなたの気配は、私の気配は、みんなの気配は
私を、私に、してくれる
でも、それは届かない。

そしてスクリーンと、そこから地続きになったスデージには砂嵐が流れる。そしてステージに残っていたELEVENPLAYの一人が頭を抱えてうずくまる。

コロナになって、活動がストップして、ライブ会場からお客さんの姿が見えなくなって、声も聞けなくなって、自分を見失いそうになるような苦しい状況を経験したということが、これだけで容易に想像できた。

そこから、モノローグはこう変わっていく。

私は誰?何ができる?何をする?
一人、二人、三人?
白い肌、白い光、白い気持ち
私の声は、私の声は、私の声は
私の存在は、私の存在は、私の存在は
私の気配は、私の気配は、私の気配は
私が、私になっていく
今、それを届ける

言葉が「黒」から「白」に変わる。初めはステージに映し出されていた手の影に捉えられそうになっていたELEVENPLAYの皆様も、その手から抜け出してステージを去っていく。
最後、自分達を取り戻した3人がソロダンスを披露して、2021年の新曲である「ポリゴンヴェイヴ」を歌うことで完成される演出だった。
初めてアマプラで見た時鳥肌が立ったけど、現地で見たらもう涙が止まらなくなった。

あの日から1年半、自分達にとってライブとは何なのか、ライブを見にきてるお客さんは自分達にとってどんな存在なのか。
その「答え」が結集されていた。


「私が、私たちになる。私たちが、みんなになる。みんなが、私たちになる。」

ライブ冒頭、3人が登場した後に流れるこのモノローグが全てだ。
会場に来てくれるお客さんがいるから、自分たちはステージに立てる。
大好きな人たちがステージに立ってくれるから、会場に行きたいと思える。
そうやって想いが循環して、私が私になっていく。

ステージセットなど、色んなことを含めて「コロナ禍だから」できた公演だった。
でもそれ以前に、止まってしまった1年半の間で考えていたこと全てを吐き出さないと、あの日から止まってしまった時を動かせなかったのだろう。
だからあの公演は、彼女たちのために絶対に必要だったのだ。
お客さんの声が聞こえなくても、ちゃんとそこにいるってことを3人があのタイミングで感じられなかったら、もしかしたら今はなかったかもしれないと思うほどに切実だった。
だから本当に、追加公演も含めてできてよかった。


そして、2022年8月からは、アルバム「PLASMA」を引っ提げたツアーが始まった。

アルバムツアーは、あの中止になったP cubedツアーぶりに開催された。
コンセプトライブもいいけれど、聴き込んだアルバムの楽曲たちを生で聴ける感覚味わうことも結構好きなので、また開催できるようになったことが率直に嬉しかった。
私は埼玉公演の1日目に参加した。

冒頭、Plasmaが流れ、上からステージを覆っていた白い幕が外され、ゴンドラに乗った3人が上から降りてくる。

そして歌われたのは「Flow」。

過ぎる時代が 変わる時代が
あの日の未来が 夢のように
覚めないままで 彷徨うままで
そうさ 僕らは流れ雲になる flow

時代は変わっていく。でも自分達の心は変わらない。それなら流れに身を任せよう。
この歌詞をポジティブに捉えるかネガティブに捉えるかは人それぞれだけど、あの場では優しい声音が会場を包んでいった。3人の姿は本当に美しくて、でもどこか儚くて、始まったばかりなのに少し泣きそうになった。


次に歌ったのは「ポリゴンヴェイヴ」。
「Perfume LIVE 2021 [polygon wave]」では上述したとおりこの公演の核として披露されていた。でも裏を返せば、一番伝えたいメッセージを伝えるという大きな使命を背負ってしまっていたと思う。
しかし、このツアーではあくまでも「アルバム収録曲の1曲」として歌われていた。
3人とも歌っている時以前よりすごく楽しそうに見えた。この曲が過去から未来に解き放たれた気がしてまた涙腺が緩んでしまった。


4曲連続で歌が続いた後、3人からの挨拶と共にMCに入る。

PerfumeのMCは3人で挨拶をした後、1人ずつ交代しながら話していくスタイルなのだが、この日あーちゃんのMCのメインとなったのは、ツアーの仙台公演1日目のことだった。
この公演は声出しを可能としたのだが、その発表時点ではキャパの32%しかお客さんが集まっていなかったのだ。

このツアー、当日券が販売されている公演が多いとは思っていたが、その日に関しては32%しかチケットが売れていないということにかなりの衝撃を受けたし、Twitterにもその反響が多く寄せられていた。
この会場に平日赴くことは立地上難しいという意見も散見されたが、コロナ前なら客入りもまた違ったはずだ。ライブにお客さん側として参加する私からすると、一定期間ライブを絶たれた人たちが、全員元通りに参戦できるようになったわけではないとその現実を改めて突きつけられたと同時に、それはもう仕方がないことだよなと思っていた。

でもライブを提供する側のあーちゃんはこう言った。
「これまで土日にやっていた会場に平日チャレンジさせてもらった。でも、行きたいけど平日仕事終わりにあの会場に駆けつけるのは難しいという声ももらった。私たちはお客さんのことを第一に考えられていなかった」
「(客入りが少ないことに対し)私たちはお客さんが2人だった時代もあったし、いくら傷ついたっていい。でもお客さんを残念な気持ちにさせてしまったのではないかと考えていた」
「32%のお客さんにどうしたら楽しんで帰ってもらえるか考えて、許諾をとって声出しを解禁した。でも声出し解禁は私たちよりお客さんたちの方が環境変わるものだと思う」

元々お客さん、スタッフなど周りのことを考えられる人だと思っていたけど、ここまで考えてくれていたなんて。ここまで苦しんでいたなんて。

私は声が出せないことも、参戦できる人が少なかったことも「仕方がない」と思っていたけど、3人はコロナ前のライブの形を取り戻すというよりも、みんなが安心して楽しんでもらえるようなライブをどうしたら作れるのか、たくさんのことを考えていた。もう、前だけ見据えて歩いていた。

そして、今まではファンクラブに加入しているお客さんをメインで大事にしていたとのことだけど、「もっとみんなと近い距離でありたい、そのために3人のInstagramを開設したいと思うけど、どうですか?」と投げかけてくれた。
会場は大きな拍手に包まれた。


そんな日に、「STAR TRAIN」はぴったりの選曲だった。
星に見立てた光が煌めく中、会場のみんなが、泣いたり、体を揺らしたり、それぞれの形で彼女たちの決意を受け止めていた。

I don’t want anything
いつだって今が
Wow 常にスタートライン
Music is everything
遥かなユニバース
Wow 走れ Star Train


最後、あーちゃんが「名残惜しいけど、未来に帰らないと」と言って「さよならプラスティックワールド」に入ったところも心に残った。イントロで「私たちの未来は明るい!」と言ってくれたのも嬉しかった。

そして、ゴンドラに乗って3人が去っていくシーンで、彼女たちは未来から来た設定であることが明かされる仕掛けだ。

当然だって思ってた運命が
変わる
変わる
変えるよ

「Flow」と同じく時代は変わっていくという世界観でありながら、自らの意思で未来を切り開いていくという強いメッセージが込められた歌詞に、背筋がしゃんと伸びた。
去っていく彼女たちを見ながら、名残惜しさよりも、この後の日々を負けずに生きていこうという気持ちが強くなった。


私は、コロナ前のPerfumeのライブを知らない。
でもこの先Perfumeが生み出すライブを、一緒に体感していくことはできる。

埼玉でのMCを聞いて、Perfume、お客さん、スタッフ全員が最高のライブだって思えるようなものを一緒に作りたいと思った。
「最高のライブ」の定義は人それぞれだと思うけど、きっとあの場にいた全員がこの想いを通じてひとつになったのを、歓声が聴こえない中でも感じていた。


Perfumeのライブは、上述のとおり2021年に再始動したけれど。

苦しみを吐き出して、歩き始めて、新たなチャレンジをしてみて感じたこと、そして次にやりたいことを伝えてくれた、2022年10月29日。
ここが彼女たちのライブの本当の「はじまりの日」になった。
あの日全員で手を繋いだ。足並み揃えて、せーのって踏み出した。
未来を明るくするために、みんなで楽しい空間を守るよ。

そして「あの日ライブができなくなったアーティスト、じゃなくて、最高のライブができるアーティストって言ってもらいたい」
それが、コロナ禍のPerfumeを見て抱いた、今の私の夢だ。


最後に、「かくめいの日」と呼ばれた、この日のツイートを置いておく。
声出しを戻すことが全てではないけれど、明るい未来を作るんだと、決意と願いを込めて。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?