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neko's note #6|イスラエルDeep-Techスタートアップの資金調達動向

 今年3~4月の外出自粛で生じた暇な時間を使ってイスラエルのDeep-Techスタートアップの資金調達状況について調べていたので、その際に書いた記事のリライト版です。追加調査は行っていないのでこの半年のアップデートは抜けてしまっている点はご了承ください。

 未上場会社でも盛り上がっている領域があれば近々上場株マーケットにも影響するのかも?と思い調べていた次第です。上場株投資をやる場合でもたまにこうしたリサーチをやっていると知識の幅も広がって色々活かせると思うので、余力のある方は色々調べてみると良いと思います。

 結論としては「自動運転」「ヘルスケア」「サイバーセキュリティ」が凄い盛り上がってたという形なのですが、上場株マーケットも今となっては似たような盛り上がりを見せていますね。

 イスラエルのIVC Research CenterGrove Venturesが作成しているイスラエルDeep-Tech企業のカオスマップを参考にして各領域ごとに資金調達状況の調査を行いました。
 このカオスマップには150社弱の会社がリストアップされているのですが、Crunchbaseというサイトを使って過去3年の資金調達の動向を洗い出しています。

1.Deep-Techとは?

 そもそもDeep-Techと語られる領域には、内訳としてどの様なテーマがあるのでしょうか。例えば、BCGの記事ではDeep Techを「novel technologies that offer significant advances over those currently in use」と説明した上で、以下の7テーマを挙げています。

①Advanced materials
②Artificial Intelligence
③Biotechnology
④Blockchain
⑤Drones and robotics
⑥Photonics and electronics
⑦Quantum computing

 個人的に上記以外にも入れても良いのかなと思うテーマとしてては、3Dプリンター、MaaS/自動運転、宇宙関係、CleanTech、VR/AR、ヘルスケア、IoT、サイバーセキュリティあたりでしょうか。線引きは正直難しいですが。

2.イスラエルDeep-Techスタートアップの会社数

 Grove Ventures(以下「GV」)のレポートでは合計で145社の企業がリストアップされています。(一部、完全に国外に移転した会社を除いています)
 また、GVレポートではDeep-Techの領域を13個に区分しており、それぞれの領域ごとの会社数は以下の様になっています。

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 領域別で会社数が一番多いのは、ヘルスケアセンサーですね。センサーについては実はそのほとんどが自動運転車向けのセンサーの会社になっています。

3.各領域の概要

 GVのレポートでは、13個の領域に分けてスタートアップをリストアップしています。それぞれの領域の内容と資金調達の傾向を2~3行でハイライトすると以下の様になります。

①ROBOTICS
名前の通りロボット関連の領域です。AGVや自動倉庫なども含まれます。投資額は増加傾向にあります。

②SEMICONDUCTORS
半導体です。AIや機械学習向けのチップセットの会社が多いイメージでしょうか。Intelに2,000億円で買収されたHabanaが有名ですが、それ以外の資金調達額は減少傾向です。

③AI
汎用AIなどの領域です。AIを活用した特定分野向けのソリューションは外されています。そのせいもあってか資金調達額は少ないです。

④INTERNET OF THINGS
IoT関連のソリューションやデバイスなどの領域です。資金調達の面では、規模/成長率ともにそこそこといったイメージです。

⑤NEXT GEN HEALTHCARE
医療関連のAI/ソフトウェアや医療ロボット、創薬などの領域。
資金調達の面では規模/成長率共に飛び抜けています。ユニコーン級の企業もいくつかあります。

⑥STORAGE
AI/HPC向けや超大容量(PB級)のストレージの領域。資金調達額は大きくは無く、直近は減少傾向です。

⑦ADVANCED VISION
AR/VRや画像認識系です。リテールテック分野のユニコーン企業のTraxがこの領域の資金調達のほとんどを占めています。

⑧ADVANCED MATERIALS
バッテリー材料や再生可能材料などです。資金調達の面では規模はそこそこですが、成長率は高くありません。バッテリー開発のStoreDotがユニコーン企業です。

⑨3D PRINTING
3Dプリンタ。資金調達は観測できず。上場会社だとストラタシスが有名ですが。

⑩COMMUNICATION
ネットワークやサイバーセキュリティなど。2019年に入り急激にこの領域への投資額が増加しています。主にサイバーセキュリティです。

⑪SENSORS
センサーやLIDARなどですが、ほとんどが自動運転車向け。
ヘルスケアと並び、資金調達額は規模・成長率共に飛び抜けています

⑫SPACE 2.0
宇宙産業。資金調達はあまり観測できず、ステルスにやっている企業も多いと思われます。

⑬QUANTUM
量子コンピュータや量子暗号。SPACE2.0と同様、資金調達はあまり観測できず、ステルスにやっている企業も多いと思わます。

4.Deep-Techスタートアップの資金調達額推移

 イスラエルのDeep-Techのスタートアップ145社が2017年~2019年に調達した資金調達額は以下の様に推移しています。

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 緑が今回私が調べた範囲で観測できた資金調達額、灰色がGVのレポートで言及されている資金調達額の合計ですが、緑の方はCrunchbase+αの情報源から集計したものですので、観測しきれていないものもある事をご了承ください。当然ながらGVレポートの灰色の数字の方がより正確な数字です。

 いずれにしても2018年にやや資金調達額が減少した後、2019年に過去最大の資金調達額となっております。
 2018年にはトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めたり、パレスチナとイスラエルが揉めたりと、地政学的にイスラエルが不安定になっていた時期でもありました。

5.資金調達額の内訳

 さて、上記の資金調達額の推移の内訳はどの様になっているでしょうか?領域ごとの内訳は以下の様になっています。

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 当然ながらと言うところではありますが、2019年の資金調達額が大きい領域は会社数がそもそも多かったSensorHealthcareの2つになっています。
この2の領域だけで、2017年と2019年は総額の40%程を占めています。

 さて、この積み上げ棒グラフだけでは分かりにくい示唆もありますので、別の形のグラフでも見てみましょう。折れ線グラフの形で表してみます。

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 これを見ると、SensorsHealthcareに加えて、Communicationの領域も2019年になって急激に資金調達額が増えていますね。(赤線)
逆に、2019年に入り資金調達額が減少傾向にあるのはAdvanced VisionSemiconductorの領域になります。(黄線)

6.領域ごとの資金調達傾向

 それぞれの領域における傾向を掴むために二軸の散布図を作成しました。
横軸は三年間の資金調達額の合計を表しています。縦軸は三年間の資金調達額の平均と2019年の資金調達額の差分を表しています。

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 この2軸で切ってマトリクスを作るといくつかのカテゴリに各領域を分類する事が出来ます。カテゴリを分かりやすくするために注目領域成長領域失速領域期待領域と分けました。(もっと良いネーミングがあれば適宜ご意見ください)

それぞれ見ていきましょう。

注目領域
 自動運転向けのセンサーやヘルスケア関連ロボット/AIが、過去3年間の投資額も大きく、投資額の成長率も大きい領域です。これは世界的な動向と照らし合わせても特に違和感は無いですね。

成長領域
 コミュニケーション関連、主にはサイバーセキュリティです。2019年になって急に投資が集まっている領域になります。これについても、2019年に入ってからサイバーセキュリティに投資が集まっている動向と合致している様な気がします。

失速領域
 これまでに多くの資金を集めているにも関わらず、直近で投資額が減少傾向にあるのがAR/VRや画像認識、半導体などの領域です。
 半導体については、Habanaが2019年にIntel買収されたことにより、Habanaの資金調達が無くなり2019年を切り取るとマイナス成長になっているという見方が正しい気もします。
 投資が一巡したという事なのか、欧米/中国勢に負けているという事なのか、いずれにせよスタートアップへのPureな資金流入という意味では失速傾向にあります。

期待領域
 ここ3年間でそこそこの200~300億円ほどの投資が集まっているものの、直近で資金調達額では成長性が劣る領域です。IoT、ロボット、ストレージ、先端材料の4分野です。
 IoTやロボットはどちらかというと成長傾向にありますし、他の2領域についても今後の盛り上がりを期待したいという領域です。

その他
 資金調達があまり観測できなかった4分野は、3Dプリンタ、汎用AI、宇宙産業、量子技術関連です。
 これらについては、本当に資金調達がなされていないのか、資金調達を公表せずステルスにやっているかのどちらかになるのですが、事実確認はできていません。

 一つ参考になりうる記事としては、Grove VenturesのGreen氏のブログでは、宇宙産業はこれから伸びるであろうことと、量子コンピュータ領域でイスラエルが遅れを取っているという事が述べられています。(Green氏の肌感だとは思うのですが、いずれにせよそういった傾向はあるという事だと思います)

7.雑感

 ディープテック関連のイスラエルのスタートアップに対しては、領域ごとに投資に偏りがあり、2019年の時点では、投資が集中し注目されているのは、自動運転、ヘルスケア、サイバーセキュリティなどのテーマと一旦の結論付けができるかもしれません。

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 ここまでお読みいただきありがとうございました。ニーズがあれば過去に書いた個別記事もリライトして公開する…かもしれません…

 また、イスラエル企業に投資をするのであればARK Investmentが運営するETFのIsrael Innovative Technology ETF(IZRL)か、そのポートフォリオの企業に投資をしてみるというのが良いかもしれません。


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