neko's note #4|Form S-1(目論見書)の読み方
本日は米国の新規上場企業が提出/開示するForm S-1という書類について簡単に書いていきたいと思います。日本でいうところの目論見書に当たる書類になります。
新規のIPO銘柄が出てきたときには必ず読まないといけない書類なのですが、何ぶん量が多いので読むのが非常に大変です。
最近では色々な方がS-1を読んで分析して記事を書いてくれていますが、一個人が一人で書いている以上、私も含めどうしても多少なりともバイアスもかかってしまいますし、量が多いので見落としも発生します。
なので極力ご自身でS-1を読まれることをお勧めしますが、正直隅から隅まで読む必要はありません。
今回の記事ではテクニカルにどう読み解くか、という話ではなく、そもそもどの部分に着目して読むべきか、といった事を書ければと思います。
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1.Form S-1とは?
冒頭も書いた通り「Form S-1」とは日本で言う所の「目論見書」に該当する書類です。新規IPO時にも提出されますし、公募増資などを行うときにも提出されたりします。投資家が投資リスクを判断することができる様に法定の記載事項がしっかりと定められている書類になります。
Form S-1には最初は公募価格等の記載がされていません、S-1を公開し、機関投資家向けのロードショーを行い、市場の需給を見極めた上で発行体企業と主幹事証券会社が公募価格を決定するからです。
公募価格の目線が決まると再度Form S-1/Aというものが公開されます。Aは「Amend」のAですね。
このForm S-1/Aは何度か提出され、公募価格を最終Fixさせた上で提出されるのが「Form 424B4」です。
Form 424B4が最終版目論見書ですが、基本的には公募価格の部分以外は最初のForm S-1と内容の変化はありません。
ちなみに米国外の会社がADRで上場する際には「Form F-1」という内容で提出がなされますが、基本的に内容はForm S-1と同じです。Form F-1はForm F-1/AにAmendされていき、最終版はForm 424B4となります。
またSPAC上場の場合は特殊で、大元になるBlank Check CompanyはS-1を提出するのですが特段何の情報も無く、何らかの事業体を合併していく事になります。上場会社が合併をするときに提出する書類は「Form S-4」であり、この書類が実質的な目論見書といった形になります。
ただしForm S-4はForm S-1よりも記載される内容がかなり少ないので、SPAC上場銘柄はやはり嫌だなと思ってしまいます。
2.Form S-1の典型的な構成
Form S-1というのは法定の記載事項が一定定められているものの、任意で色々と付け足すこともでき、会社によって少々構成が異なります。いくつかS-1の目次の例を見てみましょう。
Unity(U)
UnityのS-1は典型的な構成といった形です。UnityのS-1はManagement Letterが熱いのが特徴なのですが、法定開示事項+Management Letterという構成にしている会社が多い気がします。
Royalty Pharma(RPRX)
次はRoyalty PharmaのS-1です。この会社の目論見書は本当に洗練されていて完成度が高く、不必要な情報もないが足りない情報も無いといった形で流石金融のプロの会社だなと思った記憶があります。
Royalty Pharmaの目論見書の特徴としては、同社の複雑なビジネスモデルの詳細な説明に加え、Non-GAAP指標の説明や、過去の組織再編を考慮したプロフォーマ財務諸表、借入の各種条件など投資判断に必要な情報がしっかりと詰まっています。
Yalla(YALA)
ADR枠ということで、直近記事にもしたYallaのF-1も見てみましょう。Yallaは最低限度の構成という形にはなっていますが、市場についての説明についてはかなりしっかりと記載がされていました。
3.必読な項目
それではUnityのS-1の項目をベースに普段私がどの様な順番で何を読み込んでいるのかを書いていきたいと思います。
たくさん項目がありますが、普段私が読んでいる項目としてはこんな感じです。確実に読むのは6~7個、更に追加で数個の項目に目を通すといったイメージです。①から⑦の数字は私が通常読んでいる順番です。
必読①:Management Letter(経営者からのメッセージ)
この項目はどの会社でも付いている訳ではないのですが、入っている場合は私はまずここを読みます。経営者のこれまでの苦労が語られていたり、顧客や従業員への感謝の言葉が語られていたり、会社の将来の夢が語られていたりと、経営者や会社のNatureみたいな所が透けて見える気がするからです。
必読②:Business(事業と市場環境の説明)
これについては読む必要性を説明する必要はないですね。必ず読みましょう。会社によっては事業の説明と市場環境の説明を別の章立てで書いていたりもしますが、両方しっかり読み込みましょう。
まずはここをしっかりと呼んでビジネスモデルや市場環境をきっちりと理解することが重要です。
またちょっと離れた場所に「Company History」の様なタイトルで創業の経緯などが説明されているケースもありますので、それも合わせて読みましょう。
必読③:Management’s Discussion(経営陣による業績の説明)
続いては経営陣による会社の足元の業績の説明・分析・考察などが書かれたパートです。財務諸表を読み込む前にざっと読んでおくと財務諸表の分析のポイントが分かりやすくなったりします。
必読④:Financial Data(財務諸表)
財務諸表。読み込んで好きなように分析しましょう。KPIなどの非財務諸表も別の部分で開示されているケースもありますので、それとも合わせて将来どこまで伸びていきそうかを数字の側面からも見極めます。
必読⑤:Management(経営陣の略歴)
ここについては趣味の部分なのですが、経営陣のバックグラウンド、特に創業メンバーや主要ポジションにいる方の略歴については頭に入れておくことも必要です。
必読⑥:Risk Factors(リスク)
ここは普通は通り一辺倒なことしか書いていないので、読んでもあまり意味が無かったりするのですが、たまに爆弾が潜んでいるので一通り何か無いか目は通しておきましょう。
YallaとかはUS-GAAP対応がちゃんとできていないまま上場しているという事がこのパートに書かれていたりしました。
必読⑦:Prospectus Summary(IPOの概要)
IPOにおいてどの程度の株数をいくらで売り出して、などといったIPOの概要が記載されている部分です。一方で価格が決まらないと読んでも仕方ないので、Form 424B4が出たタイミングで読むようにしています。
4.(余力があれば)追加で読むべき項目
上記の内容は必ず読んでおかないとそもそも会社のことが理解できないという内容ですが、IPO後に主要株主がどの様な動きをして、どの様な株価影響が出る可能性があるか、という事を把握しておくために、余力があれば以下の内容も読み込むことをお勧めします。
追加①:Principal Shareholders(主要株主)
どの株主がどの程度の持分を持っているかを記載している部分です。更に余力があれば大株主のVCやPEファンドがいれば、株を持っているファンドがいつ設立でいつ頃までに売り出されそうかの当たりもつけていきます。
備考欄の部分にどの投資組合で何株持っているかが記載されています。投資組合のエンティティ名でググると、設立年くらいは普通に出てきます。
設立年+10年くらいがファンドの償還期限になることが多い為、その年数に近くなっていればロックアップ期間経過後に継続的な売り圧力がかかる懸念もあると理解すれば良いかなと思います。
追加②:Related Party Transactions(株主等との取引)
こちらは直近数年の大株主との資本取引や業務上重要な契約内容などが書かれているパートです。
あまり示唆が得られないことの方が多いのですが、たまに株主との業務提携の話がしっかり書いてあったりするので、この株主は直ぐには売却には動かなそうだな、などといったあたりを付けられることも有ったりします。
追加③:Shares Eligible for Future Sale(ロックアップ)
基本的にはロックアップ期間について記載されたパートです。最初のS-1の時点ではロックアップの日数が空欄であることも多い為、最後のForm 424B4が出たタイミングで確認するようにしています。
5.さいごに
S-1って長いし英語だし読むのしんどいですよね。でも米国上場の株式に関する書類は全てHTML形式で読むことができます。
何を言っているかというと、全部Google翻訳かけちゃえばいいんです。たまに変な訳になったりもしますが、基本的には問題ないのでそうやって楽をすることもおススメします。挫折しないのが一番大切です。
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