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neko's note #8|財務分析について

 本日は財務分析を行う際に日頃考えていることについて書いてみたいと思います。「財務分析」というとなんだか仰々しくなってしまいますが、グロース株の投資検討を行うに当たってはそこまで難しいことを考える必要は無いかと思っています。特に今の相場だとファンダをガッツリ見ても無意味だったりするケースも多いので、あまり過去の業績について細々と見すぎる必要も無いかと考えています。

 一方で、とは言え投資前に投資仮説を立てるに当たって見ておかなければいけない点というのはいくつかある訳で、その様な観点に絞って記事を書いてみようと思います。細かい財務分析のやり方についてはSaaSやEC、SNSなど業態によって着目すべきポイントが全く異なりますので一般論で語ることにあまり意味もなかったりしますので…業種別の話はまた後日。

1.財務分析とは?

 先ずはそもそも財務分析とは何のことなのか。一般的には「企業の過去の財務諸表を読んで企業の現状を把握すること」です。「財務諸表」とは基本的にはPL・BS・CFの財務三表を指します。それ以外にも原価計算書やら包括利益計算書やら株主資本等変動計算書やら色々あると言えばあるのですが、このPL・BS・CFだけを見れば大丈夫です。PL・BS・CFとは何ぞやという話はネットに記事も溢れていますので、色々調べて見てください。

 米国株においては決算書はForm 10-Q/10-Kと呼ばれる書類です。日本でいうと、10-Qは四半期報告書、10-Kは有価証券報告書に該当します。IPO企業の場合は目論見書(Form S-1)の中に財務諸表も掲載されています。
 ADRで上場している企業についてはForm 6-Kが四半期決算が、Form 20-Fに年次決算が掲載されます。

 これらの決算書を読み解いて、対象となる企業の業績が過去にどの様に推移しているのか、何故その様に推移しているのか、今の財務状況はどの様になっているのか?を確かめる作業が「財務分析」です。
 会計基準をしっかり理解していると、財務分析によりかなり細かい示唆を出せたりもするのですが、現実問題としてそこまでは難しいと思います。あとはそもそも今の相場ではそこまで細かく分析しても意味が無かったりもします。今の相場は雰囲気(あるいはフォース)が大事です。

 そこで本記事では要点を絞って、最低限この様なことは見ておく必要がある、という所を簡単に書いてみたいと思います。

2.財務分析のポイント

 最低限見ておく必要のある(と個人的に考えている)ポイントについて、グロース株を分析することを念頭に置いて書いてみたいと思います。

2-1.PL分析

 PLは「STATEMENTS OF OPERATIONS」などと言ったタイトルが付いているものになります。私はまずPLから見るため、PLの説明から始めます。

①売上の構造
 PLで先ず一番初めに見る必要があるのは、売上の構造です。企業によるのですが、売上がいくつかのセグメントに分かれて記載されていたりします。例えばRokuの場合はデバイス販売と広告売上に分かれていたり、Squareの場合はトランザクション売上・サブスクリプション売上・ハードウェア販売・ビットコイン販売に分かれていたりといった形です。

 第一ステップとしてはその売上がどの様に分かれているかを確認し、それぞれの売上の性質の違いや重要度などを確認することが必要になります。
 例えばRokuの場合はデバイス販売によって顧客を獲得し、その後顧客の積み上げに伴い広告売上が伸びていくといった形であり、デバイス販売の伸びは顧客獲得スピードを表し、広告売上の伸びは利益の伸びを表しているといった意味があります。
 このような考え方で、売上の各項目がどの様な性質のものなのか、どの様な意味を持っているのかを理解することが重要です。

 会社の開示方針にもよるのですが、売上セグメントごとに売上原価(Cost of Revenue)を開示していますので、その場合はこのタイミングで売上セグメントごとの粗利率も確認しておきましょう。まずは直近期だけでも大丈夫です。

 場合によっては売上額の調整を手元で行ったりもします。例えばSquareの場合はビットコインの売上額を全額売上計上していますが、本来ビットコインは金融商品なので、会計基準上金融商品の売上は手数料のみを計上するのが通例です。ここでいう「手数料」はビットコイン販売の粗利に相当する額に近くなりますので、手元のExcelでビットコイン売上を粗利の金額に置き換えていったりもします。

 あとは売上の季節性があるかないかも見ておきましょう。広告ビジネスやECの場合はクリスマス商戦のある12月が含まれる四半期の売上が大きくなる傾向にあったりします。

②売上の成長率
 
続いて、グロース株で気になるのは売上(トップラインの成長率)ですよね。トップラインがどの程度のスピードで伸美ているのかはグロース株の良し悪しを判定する上では重要なポイントになります。
 蛇足ですが売上の事を実務上「トップライン」と呼ぶのは、PLの一番上(トップ)の列に売上が記載されているからですね。反対(?)に利益はPLの一番下の列に記載されるので「ボトムライン」と呼んだりします。

 ここでの注意点としては、売上全体の成長率を見るのが良いのか、一部分だけを切り取るべきなのかを見極める必要があるという所になります。

 Rokuの例でいくと、デバイス販売は会計基準上確かに売上は立つのですが、利益を出すことを想定していないプライシングのため、デバイス販売と広告売上を合計して成長率を計算すると違う結論が出てしまう懸念があります。本来は利益が出る広告売上がどの程度成長しているのかを見極める事が重要であるからです。

 さて、その様にして、どの切り方で売上成長率を見ていくかの整理がついた前提のもとで、見るべきは以下の3点です。

(A)利益の出る売上セグメントの成長率が高いか?
(B)急激に売上成長率が減少していないか?

(A)利益の出る売上セグメントの成長率が高いか?
 利益が出る売上セグメントの成長率が高いことはグロース株投資においては極めて重要です。肌感ですが超大型株でもない限り売上成長率が30%を越えていないと話になりません。中小型株の場合は50%くらいを自分の中での足切りラインにしています。
 またこの売上成長率をどの期間で区切るかですが、私は四半期ごとの前年同期比で見ています。

(B)急激に売上成長率が減少していないか?
 売上成長率の推移も重要なポイントです。売上成長率自体も徐々に伸びているのが理想的な状態ではありますが、中々そんな会社はありません。普通は徐々に成長率は落ちていきます。
 ちょっとずつ下がっていくくらいなら普通なのですが、急に成長率が半分になったりとかしている場合は要注意です。例えば先日上場したC3.aiなどはあまり理想的な状態ではありません。

 完全にアウトなのは、前年同期比で見て売上成長「額」が減っている場合ですね。コロナなどの一過性の要因であればまだ良いのですが、売上成長「額」が前年同期比で減っている様な場合はかなり注意が必要です。
 売上成長「率」は前四半期と比べても良いですが、売上成長「額」は季節性も考慮して「前年同期比」で見ないといけない点も注意してください。

③コスト構造:売上原価・粗利率
 
グロース銘柄は営業利益が出ていないケースがほとんどなので、基本的には粗利を見ます。事業構造によって望ましい粗利率は変わりますので、これくらいは無いとといった水準は特にありません。が、例えばSaaSであれば最低70%は粗利率が無いと話になりません。

④コスト構造:販売費および一般管理費(販管費)
 個人的にはあまりちゃんとは見ないのですが、日本で言う所の販管費も一応見ておく必要があります。急に販売費(Sales & Marketing)が増えたりしていないか、研究開発費の比率が多すぎないか、などをザクっと見れば良いと思っています。
 成長フェーズではコスト高になるのは当たり前なので、販管費の多寡を見る事で何らか深い示唆を出せるケースは正直あまり多くないかなと思っています。

⑤売上に関連するKPI
 
売上に関連するKPIも一緒にチェックしておきましょう。SaaSであればNRRやARPUやChurn Rateやら、SNSであればMAUやらARPUやら、ECであればMAUやらTake Rateやら色々あります。
 売上の推移とKPIの推移を並べてみて、それぞれどの様に関係している指標なのかをざっくりつかんでおく事が必要です。
 売上予測を立てようとする場合には、KPIから売上を計算するロジックを作り、KPI予測を作った上で売上予測につなげるというやり方となりますので、ガッツリ分析する場合にはKPIもしっかり押さえておく必要があります。

2-2.BS分析

①現預金残高
 現預金がどの程度あるのかもまずは見ておきます。そもそも現金が枯渇する様なケースはレアケースだと思うので、基本的には投資余力・買収余力がどの程度あるのかといった観点でのチェックになります。
 ちなみに現預金とはCash and cash equivalentがメインですが、Short Investmentも現預金同等物と見なして良いかなと思っています。Short Investmentの項目次第ではあるものの、基本的には余剰資金を低リスクの社債・国債で運用しているだけのため、いつでも現金化できる場合が多いからです。

②純資産残高
 
米国マーケットだと純資産マイナス(=債務超過)だから上場廃止、ということも無いのであまり気にしなくても良いのですが、一応見ています。
 純資産が薄いと現物株による資金調達も考えているのかも…?と予想をしたりする程度です。

③有利子負債残高
 
有利子負債については、どの程度借入の返済や金利の支払いが重いのかに関係してくるので必ず見る様にしています。借入の返済については財務キャッシュフローと併せて見ていく必要があります。
 最近話題になっている銘柄で有利子負債が重い会社はZoominfoとRoyalty Pharmaあたりになります。

 ④資金調達余力
 
成長率を維持するために買収を行う必要があるフェーズに差し掛かっている会社もあったりします。その際に重要なのが手持ち現金の投資余力もそうですが、どの程度追加で資金を引っ張って来れるのかといった観点です。
 追加の資金調達には借入(=有利子負債)と新株発行(いわゆる公募)がありますが、ざっくり以下の計算をしています。

【調達限度額の目安】
・借入限度額=(売上の0.8~1.0倍) - (有利子負債残高)
・新株発行限度額=時価総額の5~8%

 もちろん会社によってどこまで調達できるかは全く異なるのですが、上記の計算をしておけば桁を外すようなことは無いかなという感覚です。

2-3.CF分析

①フリー・キャッシュ・フローの推移
 CFについては先ずは「フリー・キャッシュ・フロー」を見ます。個人的に良く見ているのはフリー・キャッシュ・フロー(FCF)の対売上比です。
 FCFは営業CF-投資CFで表されますので、事業を行った結果発生したキャッシュフローの総和と見る事ができます。このFCFがプラスなのかマイナスなのか、売上対比の割合は増えているのか減っているのかあたりを見ています。

 また、SaaSの場合はRule of 40のチェックにFCFマージンを使ったりもしますので、重要な指標になります。

②キャッシュフローの推移
 キャッシュフロー全体がプラスで推移しているのか、マイナスで推移しているのかも重要な観点ですよね。全体の推移を見つつ、変に大きな金額の変動があればその原因の確認もします。個人的に調べたいと思うほどの銘柄であれば基本的にここに問題がある事は少ない為、あまりちゃんとは見ていません。キャッシュフローがずっとマイナス、とかであればPLのチェックの部分で引っかかっていたりしますし。

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ざっくりとですが、以上です。SaaSやEC、FinTech、SNSなど業種ごとの財務分析方法みたいな記事も書きたいなと思いますが、SPACのお勉強も興味があるので、書けるタイミングで書くようにします。


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