見出し画像

【ケーススタディーその3】電気カーペットから出火した事故の判決から予防を考える (8/10手直ししました)


土庫澄子です 電気カーペットからの出火事故でカーペットに欠陥はないとしたPL判決から予防のヒントを探ってみます 

判決文にはさまざまな事情が隠れているのはよくあることでしょう わたしのホームケア経験もあわせて想像してみると、法律的な争いとなった点とはまるで別なところに予防のヒントがあるのでは?とおもうのです

まずは事案から。

事案

平成20年4月、原告の養母さんが使用していた電気カーペット(平成13年に大手メーカーが製造したもの)から出火して火災となり、養母さんがなくなりました 

原告は電気カーペットに欠陥があったとしてPL訴訟を起こしましたが、裁判所は欠陥を認めませんでした(東京地裁平成24年8月31日判決)

火災原因判定書ー現場の状況から出火源が記録される

消防士さんは火事の消火をしたあとの現場で、これからの予防や統計を作っておくために一番燃えたところやなにが原因で火災となったか、現場の状況をみたまま書いて書類を作っているそうです これは火災原因判定書と呼ばれるもので、今回のケースでも出動した消防署はこの判定書を作っています

この判定書によると、カーペットの電源コードには4つの短絡痕(2つは電源側、2つは器具側)がありました 電源コードが挿入されていた壁付きコンセントのある内壁が床面から天井まで扇状に消失していたことから、判定書は、電源コードがなんらかの要因で短絡し、コードの被覆に着火したと推定しています

消火のあとのこの書類は現役消防士さんにとって、なかなか面倒だとおっしゃる方もあるようですが、火災になったPL事件ではこの判定書の役割はとても大きいとおもっています

もちろんPL裁判では、火災原因判定書ですべてが解決することはほとんどありません 判定書が現場の状況から発火源が製品(このケースは電気カーペット)だといっていることをスタート地点として、むしろそこから、製品に欠陥(←これが法的な責任のあるなしに関わります)があったかどうかが問題になるわけです

ということはつまり、PL裁判では、判定書が書いている出火源から出火した原因が問題となるわけです(←問題は入れ子状態になっていますね)

裁判で争われたことはなにか?

今回のケースでは、判定書が書いている出火源、つまりカーペットの電源コードからの出火の原因がどこにあるか、その原因がいつ生じたのかといったあたりが問題となります

原告側の主張は、カーペットの製造販売時にすでにカーペットの電源プラグ部分に欠陥が存在して、この欠陥によって出火したというものでした

これにたいして、被告となったメーカー側は、この出火は購入後にユーザーの使用によって危険が生じたためだといって争いました

裁判所はカーペットの出火の原因は購入後に生じたといって、製造販売時に欠陥があったという主張をしりぞけています 

裁判所がカーペットの欠陥を否定する決め手となったのは、コードのどの短絡痕が先に短絡したかと、短絡痕の形状です 先に短絡したのはコードの器具側にみつかった短絡痕で(←もし電源側の短絡が先だとすると、通電が切れるので、器具側の短絡が起きないから、というのが理由です)、その箇所は斜め方向の鋭利な形状をした断線部であるとしています 

裁判所は、鋭利な斜めの断線がカーペットの製造工程でできるとは考えにくいから、この断線は購入後に後発的にできた可能性があると考えて、製品に欠陥はないと判断しているのです  

Step1 事故のシナリオを探す

裁判所が描く事故のシナリオのおおすじをたどってみると、こんな風になるとおもいます

養母は平成14年12月21日、電気カーペットを購入し、自宅で使用をスタートした 火災が発生した平成20年4月19日まで、原告の父と養母はカーペットの電源コードに断線ができるようななんらかの外的圧力を加えて5年超にわたって使用していた 
平成20年4月19日、午後8時25分頃、養母が自宅1階でカーペットを使用中、コードの器具側の断線部が短絡した その後、スパークしてカーペットの上に敷かれた布団に着火し、電源コードと電源プラグの被覆部が炭化し、トラッキングがおきた 
器具側の断線部からプラグ内のコード分岐点まで火花が走り、器具側のコードの短絡痕と電源側のコードの短絡痕の間の素線が消失した
この火災で2階建1棟延べ100㎡のうち20㎡、内壁、天井等10㎡が燃え、養母はなくなった

Step 2 事故の要因を探す

シナリオのなかで、火災につながるおそらく決定的な要因は、カーペットの使用中に電源コードになんらかの外的圧力がかかっていたことだとおもいます

メーカー側は、この外的圧力は何か?をあえていえば、父親と養母さんが電気カーペットを介護ベッドの上で使用し、カーペットの電源コードが介護ベッドの可動部に挟まれたなどの可能性だといいます

原告側は、父親と養母さんがカーペットを通常の用法で使用していたといっているのみで、介護ベッドの上で使っていたかはわかりません(←子である原告が父親や養母さんと同居していたらきっと事情を知っていたはずとおもいます) 

Step 3.  事故につながるほかの要因を探すー介護ベッドのうえで使用していた!?

介護ベッドの上で電気カーペットを使っていたかどうかは、裁判所が描く事故のシナリオ外の事情で、シナリオのおおすじを左右するものではありません

とはいうものの、もし父親と養母さんが5年余りの間、暖房器具が必要な冬には介護ベッドの上で電気カーペットを使っていたとしたら、カーペットの電源コードがベッドの可動部に繰り返し挟まれて、斜め方向の鋭利な断線ができたり、ほぼ垂直な断線ができたりすることは十分考えられるわけです

Step 4 事故のシナリオを修正するーレンタル介護ベッドの場合を想定してみる

カーペットの電源コードにかかったなんらかの外的圧力が介護ベッドの可動部に挟まれたことだ、としてみると裁判所が描く事故のシナリオは修正されるでしょう

父親と養母さんが使っていた介護ベッドがレンタルだった場合、こんな風になるのでは?とおもいます(←もちろん、介護ベッドを購入して自宅で使う場合もあります 買うと一般のベッドよりもおそらくかなり高額でしょう 以下の修正バージョンのシナリオは介護ベッドを介護保険でレンタルしていた場合を想定しています)

平成14年12月、養母さんは電気カーペットを購入し、父親はレンタルした介護ベッドの上で使用していた その後、平成20年4月まで、養母さんも冬になると父親と同じようにレンタルした介護ベッドの上で電気カーペットを使用した
父親と養母さんは、それぞれ介護保険を使って介護ベッドをレンタルしていた それぞれのレンタルの際に使い方の説明をひととおり聞いたけれど、介護ベッドの上でコード類が可動部に挟まれるリスクを理解しないまま、冬になると介護ベッドに電気カーペットを敷いて使い、5年余りが過ぎた  
この間、電気カーペットの電源コードは可動部に挟まれたことによる損傷があちこちにできていた コードの被覆が斜めに削れたような痕や、素線のよじれ、断線がいくつもできていた

Step 5 予防のヒント

やっとStep 5にきました 責任うんぬんはひとまずおいて、介護ベッド使用中のコードの破損や火災につながるリスクをできる限り合理的に低減する方法を考えましょう

介護ベッド製品に同梱される取扱説明書(トリセツ)にはコード類の挟まれリスクが命にかかわるリスクだと知らせる注意や警告が書くものがあります(←介護ベッドのコード類を扱うときのリスクを警告するだけのものもあるようです)

たとえばこんな感じですね

ベッド以外のコード類をベッドの下に通さないでください。キャスターや可動部に挟まれてコード類が破損し、感電・火災のおそれがあります。
サイドレールやベッド用グリップのすき間にコード類を入れないでください。背上げなどベッドの操作をするときに、コード類を挟み、事故や破損の原因となります。

介護ベッドを購入している場合は、トリセツの警告を読み、いつでも見られるようにしておくことが大切でしょう 

でもレンタルの場合、トリセツは介護ベッドとともにレンタルユーザーにもれなく渡されているのでしょうか? とくに介護保険のレンタルユーザーにはトリセツを渡していないことが多いかもしれない!?とおもいます

わたしは親のホームケアのために介護保険でレンタルした介護ベッドを使った経験があります レンタル契約のときや、自宅で組立ててもらいこれで今日から使えますよというときにひととおりの説明を聞きましたがトリセツはありませんでした(←介護保険レンタルの場合がすべてこうなのかはよくわかりません。。)
いざ操作して使ってみると介護ベッドはホームケアの介護者にとって便利な反面、さまざまな場面でわからないことが次から次へ出てきて、周囲の方々によく相談していました
自宅ではじめて介護をやってみて、アドホックで細かな相談がスムーズにいかない場合が多いのでは?と心配になったものでした

レンタルの介護ベッドを使っているときのコード類の挟まれリスクについてベッドの利用者や介護者がもし気づかなかったり、理解できていなかったりすると、今回とりあげたような火災や事故につながる可能性があるとおもいます

おなじ介護ベッドですから、使用上のリスク情報は購入したユーザーにとってもレンタルユーザーにとってもおなじように重要なはずです こうしたギャップはなんとかして埋めていく必要があるとおもいます

たとえば、介護保険レンタルの場合、レンタル契約書と一緒にトリセツを渡すとか、レンタルユーザーが電子化されたトリセツ情報にアクセスできるようにするとかそれほどコストをかけずにできる方法はあるとおもいます

判決を書いた裁判官は介護ベッドの話に踏み込まず(←シナリオ外におかれている、あるいは介護ベッド上でカーペットを使用していたかどうかはどちらでもよいということですね)、このケースが介護ベッドの上で電気カーペットを使用していたケースかどうかはわかりません

ですが、この判決をよくよく読んでみると、介護ベッドをめぐる事情は事故のシナリオの外におかれているとはいっても、おなじような悲しい事故がおきないための予防のヒントをくれるとおもうのです

ここまでお読みいただいてありがとうございました☆





読んでくださってありがとうございます いただいたサポートはこれからの書き物のために大切に使わせていただきます☆