【2人/♂1:♀1:不0】夫婦の誕生日

性別変更可【可能】作品

尚史:西川尚史(にしかわ なおふみ)。博美の夫。
博美:西川博美(にしかわ ひろみ)。旧姓、東仙(とうせん)博美。尚史の妻。
繁:東仙繁(とうせん しげる)。博美の父。尚史役の方が兼ね役で。


0:朝日が差し込むリビング。朝食の支度をする博美。
尚史:(あくびをしながら)おはよう……。
博美:おはよ、尚史。今日は随分ギリギリのお目覚めで。
尚史:今日の会議資料が全然まとまらなくてさ。
博美:ごめんね、先に寝ちゃって。
尚史:いいよ、別にさ。博美が作ってくれたホットミルクのおかげで集中できたし。
博美:ならよかった。ところで朝食食べていく時間ある?
尚史:うん、あるよ。今日は?
博美:今日はフレンチトースト、甘いのもしょっぱいのもあるからね。
尚史:朝から豪華……あ、そうか。
博美:うん。今日はほら、ね。ってもしかして忘れてた?
尚史:いや、忘れてはいないよ。そのための資料作りだし。
博美:ん?
尚史:会議が伸びたら嫌だから、文句を言わせない資料を準備したんだよ。
博美:おぉそれはそれは、ありがとうございます。
尚史:だからそんな顔するなよ。
博美:え?
尚史:淋しそうな顔するなって。
博美:ば、ばか! そんな顔してないって!
尚史:どうだかなぁ~、博美は意外と夢見る乙女だからなぁ~。
博美:……悪かったわね。どうせ私のキャラじゃないわよ。
尚史:そうだなぁ。博美は仕事ができるし、しっかりしてるし、物事もはっきり言うし、どっちかといえば男らしいからなぁ。
博美:馬鹿にしてるでしょ!
尚史:でも、淋しがり屋で甘えん坊で、本当はべたべたな恋愛漫画大好きなんだよな。
博美:悪かったわね!
尚史:あははは、悪くないよ。そんなところが可愛いって思うし。
博美:……急に甘やかすとか、ずるいんですけど。
尚史:照れてる顔も可愛いね~、さすが俺の奥さん。
博美:尚史のばか……、もう知らない。
尚史:あ~ごめんごめん、機嫌直して一緒に朝ご飯食べよう。俺、おなかペコペコだよ。
博美:はぁ……、わかった。許してあげる。
尚史:ありがとうございます、奥様。
博美:じゃあお皿運ぶの手伝ってくれる?
尚史:もちろん。お、やっぱり美味しそうだなぁ。俺、博美のフレンチトーストが世界で一番美味しいって思うわ。
博美:あはは、大げさだって。別に普通の作り方で作ってるんだけどなぁ。
尚史:博美は謙遜しすぎなんだよなぁ。
博美:そう?
尚史:だって、見ろよ! この絶妙なきつね色の焼き加減にふわっふわプルプルの出来栄え。ほのかに甘い香りにアツアツの湯気。添えられている卵とベーコンの食欲そそる焼き加減と博美が丹精込めて作ってくれた自家製のジャムがもう――
博美:あーもう、わかったから。ほら、座って食べよう?
尚史:うん、そうだな。
博美:それじゃあ、いただきます。
尚史:いただきます。

0:食事をしながら会話をする二人。
尚史:やっぱり美味い。
博美:だから大げさなんだって――
尚史:俺は知っているんだからな! これを作るのに昨日の夜から準備をしていたことを!
博美:そりゃ、フレンチトーストにしっかり液染み込ませるには夜から寝かせたほうがいいからであって――
尚史:そうだろうけど、そんだけ手間がかかるのにわざわざ平日の朝食に作ってくれたっていうのは俺のためだろ?
博美:……はぁもう、そうだよ。
博美:だからそれだけ喜んでくれてうれしい。
尚史:博美だって、今忙しいのに本当にありがとう。
博美:それはお互い様でしょ。私は尚史のパートナーなんだから。
尚史:……博美。
博美:ん?
尚史:ありがとうな、一緒になってくれて。
博美:うん、ありがとう。
尚史:その……今年は、大丈夫か?
博美:あぁ……。
尚史:今日、帰り迎えに行こうか?
博美:大丈夫よ、今日は明るいうちに帰るし、人の多い道を通るから。
尚史:そっか。俺も早く帰るから。
博美:うん、尚史こそ気を付けてね。
尚史:大丈夫だろう、さすがにもう俺のほうには来ないって。
博美:だといいんだけどね。
尚史:じゃあ、ご馳走様でした。先に行くな。
博美:うん、行ってらっしゃい。気を付けてね。
尚史:博美も、気を付けていくんだよ。
博美:はぁい。


0:博美、カレンダーのしるしを見つめて幸せそうに微笑む。
博美:11月22日、今日で10歳。
博美:(背伸び)ん~、よし! 今日も頑張っていこう!


0:昼休み、博美の携帯が鳴る。
博美:ん? 尚史から……もしもし?
尚史:もしもし? 博美、いま大丈夫?
博美:うん、ちょうど休憩時間だけど、どうしたの?
尚史:いや、なんか声が聞きたくなって。
博美:ぷっ……何、可愛いこと言ってんのよ。
尚史:仕方ないだろ、聞きたくなったんだから。
博美:突然電話してきたから、今日は遅くなるって電話かと思った。
尚史:そんなことは絶対にありえない! むしろ今すぐにでも仕事終わらせて博美のところにいきたい。
博美:はいはい、ありがとう。私も早く会いたいよ。
尚史:じゃあ早く会おうか。
博美:は?
尚史:会議さ、無事に終わったんだよね。午後の仕事も全部片づけた。
博美:こらこら、私はまだ午後の業務が残ってるんですけど?
尚史:わかってるよ。だからさ、あの喫茶店で待ってる。
博美:いまから?
尚史:う~ん、残りの仕事をちゃちゃっと片づけて、1時間くらいで出る。
博美:わかった、終わったらすぐ行くね。
尚史:おう、待ってるぜ!
博美:本当に自由なんだから。
尚史:博美が大好きなだけ。
博美:……。
尚史:あ、いま照れてるだろ。顔赤くして可愛いなぁ。
博美:ちょっと、見えてないでしょ! 勝手な憶測で言わないでよ。
尚史:憶測じゃないよ、確信を持った発言です。
博美:あぁもう……叶わないな。なるべく早く上がるから待ってて。
尚史:おう、待ってる。
博美:今日だけだからね。
尚史:うん、今日だからだよ。

0:電話を切る博美。
博美:……とかいって、いつも理由を付けて連れ出してくれるんだからなぁ。
博美:よし! さっさと仕事終わらせちゃうか!


0:バスから降りて駅前の商店街を歩く博美。
0:父親の繁が登場します。尚史役の方は兼ね役でお願いいたします。
博美:ちょっと遅くなっちゃったけど、まぁいつもよりは早いしいいよね。
博美:おっとそうだ、お花……。
繁:博美。
博美:……お父……さん。
繁:ようやく見つけた。
博美:なんで、ここにいるの。
繁:さぁ帰るぞ、お前がいつまでも帰ってこないから心配していたんだぞ。
博美:どうして……。
繁:母さんの電話にも出なかったのは、あの男のせいなんだろ? なぁ、そうだよな?
博美:もう関わらないでって言ったら何度わかるのよ。
繁:ふざけるな! お前は東仙(とうせん)の娘だ。東仙を継ぐ人間だ。帰ってこい、いや帰らなければならない。
博美:やめてよ! 私はもう東仙じゃない、私は、私は西川博美なの!
繁:……お前の意見など聞いていない。
博美:……。
繁:お前は東仙家の人間だ。俺と母さんの大事な一人娘だ。ほかのやつにやった覚えはない。
博美:お父さん……。
繁:さぁ帰ってきなさい。父さんたちも、おばあさまたちも皆待っている。
博美:……返事は変わらない。私は帰りません。
繁:博美!
博美:お父さんにもお母さんにも、おばあちゃんたちにも感謝はしているわ。親不孝なことをしていることも分かっている。
繁:なら――
博美:でも! これが私の決めた道だから。私が生きたいと思った道だから。
繁:博美……。
博美:これ以上、近づくならまた警察を呼びます。お願い、お父さん……。
繁:……また来る。
博美:……。
繁:もう一度言う、お前は東仙博美だ。
博美:私は、西川博美よ。
繁:……またな。
博美:……さようなら。


0:喫茶店でコーヒーを飲みながら小説を読む尚史。
尚史:あ、博美! お帰、り……。
博美:ごめんね、遅くなって。といっても定時よりは早く帰ってきたんだから上出来でしょ。
尚史:何かあったか。
博美:なんで? 別に何もないよ。
尚史:博美の何でもないは嘘だからなぁ。
博美:……。
尚史:俺に隠し事できると思ってるの?
博美:はぁ……そうだね、ごめん。
尚史:それで、何があったの?
博美:さっきそこで父さんに会った。
尚史:は? くっそ、去年のことがあったからもう大丈夫だって油断してた……、何かされなかったか? 怪我とかは?
博美:大丈夫だよ、少し大きな声で怒鳴られただけ。
尚史:……怖かったよな。ごめんな、一人にして。
博美:ううん、大丈夫。だってこんなの予想できないしさ。
尚史:うちの近くならまだしも、まさかここで出くわすとは想定外だ……。
博美:そうだね、でももう大丈夫。帰ったし。
尚史:……よし、もううちに帰ろうか。
博美:え?
尚史:早く帰って誕生日パーティーしようぜ。
博美:尚史……。
尚史:今日は俺が博美の大好きなクリームシチュー作ってあげるからさ。
博美:……ふふふ、ありがとう。じゃあ私は、尚史の好きなベーコンクロワッサン作ってあげる。
尚史:ケーキはどうする?
博美:ザッハットルテ、テイクアウトしていこ。
尚史:そうだな。あ、すみません。テイクアウトでザッハトルテとモンブラン。
博美:え、モンブランも?
尚史:好きだろ?
博美:……うん、好き。
尚史:じゃあ、帰ろう。俺たちの家に。
博美:うん。


0:帰宅してキッチンで仲良く料理をする二人。
尚史:混ぜるの手伝おうか?
博美:大丈夫。それより鮭、ちゃんと捌ける?
尚史:まぁ任せておけって。魚捌くのは得意だって、知ってるだろ?
博美:そうだったね。
尚史:博美。
博美:うん?
尚史:誕生日おめでとう。
博美:……ありがとう。というか、普通そういうのは食事のときとかに言わない?
尚史:なんか言いたくなった。
博美:食事の準備中にとか、ムードのかけらもない。
尚史:ごめん、でも仕方ないじゃん。言いたくなったんだからさ。
博美:……うん、ありがとう。
博美:私、尚史のそういうところ、本当に大好き。
尚史:俺も、大好き。
博美:……結婚記念日を誕生日っていうのってさ、最初はなんだか変な感じがしたけどさ。
尚史:うん。
博美:こうやって毎年毎年「西川博美」が成長しているんだって思ったら、すごく幸せだなって思えるようになって、すごく嬉しい。
尚史:それは何より。
博美:尚史、ありがとう。
尚史:……俺さ、ほんの時々さ、俺が博美の――
博美:いいんだよ、これで。私は後悔してない。だって生まれ変わってすっごく幸せだもん。
尚史:そっか。
博美:さぁさぁ! 早くしないといつまでたってもご飯できないよ!
尚史:そうだな。
博美:もうおなかぺこぺこなんだからさ。
尚史:よっし! じゃんじゃん作るぞ~! 美味いワインも用意してあるからな。
博美:やった、大好き!
尚史:博美。
博美:ん?
尚史:これからもいい夫婦でいような。
博美:うん、これからも毎年祝ってね。
尚史:もちろん。「西川博美」をもっともっと祝うから。
博美:「西川尚史」をもっともっと愛します。

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