【4人/♂2:♀2:不0】猫のウエディングドレス

原則性別変更【不可】※変更希望は要相談(DMへ)

0:アドリブ等に関してはすべて演者様にお任せします。楽しんでお芝居してください。
アネラ:アネラ役の方がタップ。未来の飼い猫。オッドアイの瞳を持つ黒猫。
リヒト:リヒト役の方がタップ。永久の飼い猫。ふわふわした毛並みの白猫。
未来:未来(みく)役の方がタップ。アネラの飼い主。
永久:永久(とわ)役の方がタップ。リヒトの飼い主。
0:(M)はモノローグとなっています。



アネラ:(M)薄暗い檻。恐怖に震える声。
リヒト:(M)僕とアネラは、この世の終わりのような場所で出会った。
アネラ:………ねぇ……ここがどこだか知ってる?
リヒト:わからない……。
アネラ:お母さん……お姉ちゃん……お兄ちゃん……
リヒト:君は……家族とはぐれてしまったの?
アネラ:……うん。突然知らない猫(こ)がおうちにいて、びっくりして……そしたら、おうちがわからなくなってしまって……
リヒト:そうか……
アネラ:君は?
リヒト:僕は……たぶん、捨てられたんだと思う。
アネラ:捨てられた?
リヒト:うん……兄弟がたくさんだったから……僕はいらないって……
アネラ:そんな!
リヒト:……たくさん街を彷徨って、必死で生きてきたんだけど……人間につかまっちゃった。
アネラ:捕まる?ここはどこなのか知っているの?
リヒト:………。
アネラ:ねぇ、教えて?ここはどこ?どうしてみんな怯えているの?
リヒト:ここはね……たぶんだけどさ、あの世の入り口なんだと思う。
アネラ:……どういう、こと?
リヒト:世話になったじぃちゃんに教えてもらったんだ。人間につかまったら最後なんだって。
アネラ:最後?
リヒト:人間につかまったら暗くて冷たい場所に押し込められる。そして7日後……僕たちは……殺される。
アネラ:……どう、して?
リヒト:どうしてだろうね……僕にもわからない。でも、ここは多分そういう場所。
アネラ:……ここにきて、何日経ったっけ……。
リヒト:ちょうど3日目かな。僕たちが生きられるのは、あと4日だけさ。
アネラ:……ヤダ、死にたくない!なんで!
リヒト:なんでだろうね……どうしてだろうね……
アネラ:……君は、怖く……ないの?
リヒト:怖いよ。……でもそれ以上に疲れてしまったんだ。生きていくことに。
アネラ:生きていくこと?
リヒト:君は外で生きてきたことはなかったんだよね?
アネラ:えぇ……
リヒト:外の世界はね……辛いことばかりなんだ。寝る場所も食べる物もなくて、毎日毎日探して回る。たまに優しい人間もいたけど……でも、酷いことをする奴らもたくさんいた。
アネラ:………。
リヒト:何度も命を落としかけた。移動するにも命がけだった。
アネラ:そうなのね……。私……知らなかった。
リヒト:知らない方がいいさ。こんな世界……知らない方が幸せなんだ。
アネラ:………。
リヒト:だから僕は死ぬのは怖いけど、生きることも辛いから、正直どちらでもいいかなって。
アネラ:……私は……。
リヒト:……怖がらせてごめんね。君はきっと大丈夫だよ。
アネラ:え?どうして?
リヒト:君はおうちから飛び出してしまっただけだろう?だったらきっとすぐに迎えが――
アネラ:あのね、たぶん私も同じ。
リヒト:え?
アネラ:ほかの猫(こ)がいて驚いて飛び出したって言ったでしょ?
リヒト:言ったね。
アネラ:飛び出したのは……おうちじゃなくて、段ボールの箱だから。
リヒト:え……
アネラ:ご主人様がね、ごめんねって言いながら私を……私たちを箱に入れて知らない場所に置いて行ったの。
リヒト:それは……
アネラ:私も……君と同じで捨てられたんだよね、きっと。
リヒト:……ごめん。
アネラ:ねぇ、君。私にいろんなことを教えて。外の世界のこと。
リヒト:……楽しい話なんてほとんどないぞ?
アネラ:いいよ、私の知らない世界を教えて。
リヒト:あぁ……いいよ。あと4日の命だけど……。
アネラ:ありがとう。生きられる時間を後悔したくないもの!
リヒト:……そうだね、その通りだ!じゃあまずは――


0:太陽の光がさんさんと降り注ぐリビングにゆったりと寝転ぶアネラ。
0:十年後の世界。
未来:アネラ~?アネラ?……どこ行っちゃったのかな、アネラ~?
アネラ:んん……未来?ここよ、リビングにいるわ。
未来:アネラぁ……ってこんなところにいた!
アネラ:今日も未来は元気ねぇ、おはよう(あくび)
未来:本当に君はここが好きだねぇ。それにそのブランケット……今日は、それ洗濯するよ?
アネラ:だって……ここは暖かくて気持ちがいいんですもの。それに未来との思い出がいっぱい詰まったコレは安心できるんだから仕方ないでしょう。
未来:ほーら!アネラ、ごめんね。洗濯するからもらうよぉ!
アネラ:やだ!ちょっと~持って行かないでよぉ。
未来:あぁもうダダこねないでよぉ!
リヒト:……アネラ、お前、いつまで未来に迷惑かけてんだよ。
未来:あ!リヒト君!いらっしゃい。よしよし。
リヒト:邪魔するよ、未来。
アネラ:ちょ!リヒト!離れなさいよ!
リヒト:うるさいなぁ~。アネラ、君、どっちに妬いてるの?
アネラ:や、妬いてるってなに?
リヒト:未来に?それとも僕に?
アネラ:ば、ばかじゃないの!リヒトなんかになんでヤキモチ妬くのよ。
永久:ほーら、二人とも。今日はどうしたんだ?いつもは仲良しなのに。
未来:永久もいらっしゃい。
永久:未来、おはよう。
未来:おはよう。永久。朝ごはんはもう食べた?
永久:いや、向こうで食べるかなと思って。
未来:軽く食べておいた方がいいよ。たぶんそんな時間ないだろうし。
永久:あ……確かにそうだな。
未来:今、用意するから待ってて。
永久:ありがとう、あぁそうだ。これ。
未来:何これ。
永久:アネラとリヒトのおやつ。
未来:わぁかわいい!ありがとう。アネラ~、リヒトく~ん!おやつだって。
アネラ:永久くん、なんか買ってきてくれたの?
リヒト:あぁ……前にアネラが美味しいって言ってたケーキだよ。
アネラ:ほんと!
リヒト:ほんとだよ。
アネラ:リヒト、ありがとう。
リヒト:いや、僕じゃないし……買ったのは永久で――
アネラ:でもリヒトが選んでくれたんでしょ?
リヒト:………。
アネラ:ありがとう。
リヒト:どういたしまして……。
未来:永久、はい、どうぞ。
永久:あぁありがとう。……いただきます。
未来:アネラとリヒト君も。どうぞ。
アネラ:いい香り。いただきます。
リヒト:僕もいいのかなぁ。
アネラ:いいのよ!それに未来のご飯は絶品なの知ってるでしょ?
リヒト:うん、僕、未来のご飯好き。
アネラ:ふっふっふ~!
リヒト:……なんでアネラがドヤ顔するんだよ。
アネラ:さすが私の未来だなぁって!
未来:ほら、アネラ!慌てて食べるとつっかえるよ?
永久:リヒトも美味そうに食べるなぁ~。うちよりよく食べる。
未来:そうなの?
永久:あぁ、未来のご飯は美味しいのかな。本当によく食べるよ。
未来:別に変わったものじゃないけどねぇ~。
永久:未来は本当にいいお嫁さんになるよね。
未来:え?
永久:美味しいご飯作れるし、気配り上手だし。
未来:……褒めても何にもでないわよ?
永久:別に何かが欲しくて言ってるわけじゃないんだけどなぁ~。
未来:……アネラとリヒトが仲良しで本当に良かったよね。
永久:ん?あぁ。まぁさ、引き取るときから仲良しだったじゃん。
未来:そうだね。もう十年前になるのかぁ。


0:十年前、未来の自宅。パソコンの前に座る未来と永久。
0:回想シーン
未来:……こんなにたくさんいるんだね。
永久:そうだね。知らなかった。
未来:夏休みの自由探求……。日本のペット産業についてなんて、気軽に選んだけど……正直、これ見るとしんどい。
永久:こんなに、たくさんの犬や猫が殺されているんだね。
未来:……救ってあげたい。でも、こんなにたくさんは……。
永久:これをさ、どうにか広める方法を考えられないかな。
未来:……そうだね、それも提案していこう。こうなったら徹底的に調べて、まとめて問題提起してやる。
永久:さてと、じゃあ俺は飼育禁止のペットの情報を――。
未来:あ……。
永久:……ん?どうした、未来。
未来:この子たち……。
永久:……あ。期限、明日……か。
未来:………。
永久:……仕方ないよ。あと2日だけど、いい人が見つかることを――
未来:お母さーん!お母さん!ちょっと相談がある!
永久:え?ちょっと、未来?
未来:永久、ちょっと待っててね。お母さ~ん!
永久:いや、待てよ!正気か?
未来:何が?
永久:確かに可愛そうかもしれないよ?だけど、そんなこと言って他の子たちはどうするんだよ。期限が近い、明日には殺されるから引き取るって言ってたらキリがないだろう!
未来:……わかってるよ。
永久:未来の気持ちはすごくわかるけど……仕方がない――
未来:ごめん、でもこの子達は違うの。
永久:未来?
未来:どうしてかわからない。もしかしたら一目惚れなのかもしれない。
永久:……。
未来:こんなこと言ったら他の子たちに失礼なのかもしれない。でもすごく気になったの。すごく惹かれたの。
未来:明後日には殺されちゃうから可哀そうって気持ちももちろんあるよ。でも、それだけじゃないの。
未来:可哀そうというよりもこの子達が呼んでいるような気がしたの。だから……
永久:……未来はときどき不思議なこと言うよな。
未来:え?
永久:わかったよ。ちょっと待ってて。(スマホを取り出す)
未来:永久?
永久:あ~、母さん。俺。うん、急にごめん。
永久:あのさ、実はお願いがあるんだ。うん。本当に急なんだけどさ猫を一匹飼いたいんだ。
永久:そう、猫。違う違う、ペットショップで買うんじゃなくてさ。
永久:ほら、今、未来ん家で夏休みのレポートやってるじゃん。あれでさ、保健所の殺処分とか調べててさ。
永久:……うん、うん。ありがとう。
未来:えっと……永久?
永久:ほら、未来もおばさんにお願いしに行っておいで。
未来:……あの――
永久:さすがにいきなり2匹飼いたいって言ったら、おばさんもびっくりするし許してくれないだろ?だから二人で迎えに行こう。
未来:なんでわかったの?
永久:俺と未来の仲だろ?未来の考えていることなんてお見通しだよ。
未来:……ありがとう。
永久:うちは大丈夫だっていうから、ちゃんと説明してくるんだよ。
未来:うん!いってくる……。お母さ~ん!あのね~――


アネラ:今日でもうお別れなのね。
リヒト:……そうだな。
アネラ:今日のご飯、美味しかったね。
リヒト:あぁ……あんなもん、食べたことなかった。
アネラ:……最後だから、なのかな。
リヒト:そうだな……
アネラ:痛い……のかな。
リヒト:それは……わからない。最後がどんな場所で、どんな感じなのかは……知っている奴は生きていないから。
アネラ:そうだね……
リヒト:……。
アネラ:私ね、君と出会えてよかった。
リヒト:どうして?
アネラ:たくさんのことを知ることができたから。
リヒト:……大した話じゃなかったさ。
アネラ:それでも……何も世界を知らないで死ぬのは嫌だったから。
リヒト:面白くもなんともない話ばかりだったのに?
アネラ:ううん、楽しかった。ありがとう。
リヒト:最後まで……そばに――
アネラ:どうしたの?
リヒト:……よかったな、君は救われたよ。
アネラ:え?
未来:こんにちは。猫ちゃん。
アネラ:……誰?
未来:私は未来。あなたを迎えに来たのよ。
アネラ:どういう、こと?
リヒト:君は助かるってことだよ。この子が君を迎えに来たんだ。もう怖い思いをしなくていい。
アネラ:待って!嫌よ!君は?君はどうなるの?
リヒト:僕は……いいんだ、僕はこのまま――
アネラ:いや!君も一緒じゃないと嫌!どこにもいかない!
リヒト:わがまま言うな!生きられるんだ!死ななくていいんだ!
アネラ:どうして!私は一人で生きていたくない!君と一緒が――
未来:よしよし。大丈夫……怖くないよ。
アネラ:私は嫌!私だけ行くなんて嫌よ!あなたとなんて行かない。
未来:大丈夫、もう怖いことなんてないよ。
アネラ:怖くてもいい!私は――
永久:お待たせ、手続きがちょっと時間かかっちゃった。あ、いたいた。
リヒト:え?
永久:おいで。君を迎えに来たんだ。
リヒト:僕、を?
アネラ:……お迎え?
未来:私たちはね、君たちを迎えに来たんだよ。
永久:二人とも心配しなくていい、離れ離れになんてならないから。
アネラ:……どういう、こと?
リヒト:この人たちが僕らを連れて行ってくれるんだよ。
アネラ:僕らって……、君も一緒?
リヒト:……あぁ。一緒だ。……夢みたいだ。
永久:住むところはちょっと違うけど……いつでも会いに行けるようにするから。
未来:隣同士だしね、なんだったらお泊り普通にすればいいしね。
永久:そうだな、それにしても……本当に寄り添ってるんだな。
未来:保健所の人の話じゃ、別に兄妹とか同じところで保護されたとかじゃないんだって。
永久:じゃあここで仲良くなったのかな?
未来:そうじゃない?
永久:よくこの二匹が仲良しだってわかったよな……
未来:う~ん……勘?
永久:……すごいよなぁ、ほんと。
アネラ:これからもずっと一緒にいられるの?
リヒト:そうだよ、僕らはこれからずっと一緒だ。
未来:さぁおうちに帰ろうか、『アネラ』
アネラ:アネ、ラ?
リヒト:名前だよ。君の名前。
アネラ:名前?
リヒト:よかったね、名前をもらえるってことはもう本当に何も怖いことはないってことだよ。
アネラ:そうなんだ。じゃあ君は――
永久:ほら、『リヒト』も行くよ。
リヒト:あ……
アネラ:『リヒト』だって!
リヒト:……。
アネラ:私たち、名前をもらったよ!
リヒト:うん……名前だ。僕の、名前……。
アネラ:私はアネラ……、アネラ!ねぇリヒト!私を呼んで!
リヒト:あぁ、アネラ。
アネラ:うん!リヒト!
リヒト:リヒト……僕は、リヒト。
永久:それにしても『アネラ』に『リヒト』ねぇ。どういう意味なの?
未来:アネラっていうのはね、天使っていう意味なんだ。
永久:天使……。
未来:この子さ、天使みたいじゃない?
永久:じゃあ『リヒト』は?
未来:光とか希望って意味だよ。
永久:ふーん……希望ねぇ。
未来:……私、今日のことも含めてブログを書こうと思うの。
永久:この子達のこと?
未来:うん。それでね、日本中の人に知ってもらいたいって思った。この現実を。
永久:……そうだね。
未来:この子達が、捨て猫とか捨て犬とかの女神になり希望になってほしいから。そしてそうなるように私ができることを一生懸命したいの。
永久:あぁ、そうだな。
未来:偽善ってこともわかってる。
永久:未来……。
未来:でもね、綺麗事ばかりって言われても偽善者だって言われてもいいの。ほかの子を救えないのは悔しい。でも、少しでも将来につながればって思ってる。
永久:未来がしたいようにすればいい。俺はそれを全力でサポートするから。
未来:永久……ありがとう。
永久:よし、じゃあうちに帰るか。リヒト。
リヒト:えっと……貴方が僕のご主人?
永久:ん?あぁそっか……俺は永久。よろしくな、リヒト。
リヒト:とわ……永久!
永久:よしよし、いいこだな。リヒト。
未来:ほら、アネラもおいで。
アネラ:うん!えっと……未来!


0:回想シーン終了
0:十年後の世界。未来の自宅。
アネラ:はぁああ、おなかいっぱい……
リヒト:僕も……
永久:ご馳走さまでした。
未来:お粗末様でした。
永久:未来、もう行ける?
未来:うん。大丈夫。
未来:アネラ~、今日はちょっと永久と出かけてくるからね。リヒト君と仲良くしててね。
アネラ:そうなの?わかったわ。行ってらっしゃい。
未来:よしよし、いいこね~。
リヒト:永久、頑張って来いよ。僕も頑張るから。
永久:リヒト……。お互い頑張ろうな。
リヒト:おう。
アネラ:ん?リヒト?永久くん?どうしたの?
リヒト:え!いや、なんでもないよ。
未来:永久~?どうしたの?早くしないと混んじゃうよ?
永久:あぁ、悪い!今行く。じゃあな、リヒト。アネラも。
アネラ:いってらっしゃい!
リヒト:いってらっしゃい。
未来:行ってくるね。
永久:夕方には帰るから。


永久:仕事は順調そうだな。
未来:うん、おかけがさまで。動物愛護に関するNPO法人って全国にいっぱいあるからコンタクトとるのが大変だったけど、だいぶまとまってきてる。
永久:動物たちを守ろうとする人たちをつなげる仕事か。
未来:アネラたちを引き取って、いろいろ勉強して……。アネラみたいな子たちを守りたいって思っている人たちはたくさんいるのに、それを繋げるネットワークがないから、なかなか前に進めなかったって気づけた。
永久:それで、動物と飼い主を繋ぐじゃなくて、それを運営する者同士を繋ぐって考えたんだよな。
未来:まさかこんなに多くの人に賛同してもらえるなんて思わなかったけどね。
永久:未来、頑張ったもんな。
未来:永久も仕事忙しいのにいろいろ手伝ってくれてありがとう。
永久:ん?あぁ……未来のサポートするって言ったろ?
永久:それに俺がやったことなんて、ホームページやらソフトの開発やらそんなもんさ。
未来:それが凄いんだって!私にはそんな技術ないし、エンジニアなんて雇うお金だってうちにはなかったから……。
永久:まぁ未来の役にたって、リヒト達みたいな子がたくさん幸せになれる手伝いができるのは楽しいよ。
未来:ありがとう……。
永久:さて、今日は久しぶりに息抜きできるんだから、目一杯楽しもうぜ!
未来:……うん。そうだね!


リヒト:アネラ……。
アネラ:ん~?なぁに?
リヒト:ちょっとさ、散歩に行かないか?
アネラ:え、どうしたの?急に。
リヒト:いや、ほら……天気もいいしさ。
アネラ:未来が心配するからダメ~。
リヒト:いや、それは多分大丈夫。
アネラ:え?
リヒト:永久たちが帰ってくるまでには帰ってくるさ。
アネラ:そう?でもなぁ……
リヒト:連れて行きたい場所があるんだ!
アネラ:えっと……
リヒト:………。
アネラ:もう、そんな顔しないでよ。リヒトがそんな我がまま言うなんて珍しいわね。
リヒト:えっと……
アネラ:いいわ、行きましょう。確かにお天気もいいものね。
リヒト:あぁ!


未来:はぁ~楽しかった!
永久:未来は絶叫系得意だもんな……
未来:えへへ!永久は苦手なのに、よく頑張ったね。
永久:まぁ未来が乗りたいっていうんだから、そりゃ付き合うよ。
未来:なんでそんなに甘やかしてくれるの?
永久:え?
未来:本当にさ……。永久は私に甘いよね。
永久:そうか?ま、俺の大事な幼馴染だからなぁ。
未来:そっか……。
永久:なぁ未来……最後にさ、観覧車乗ろうぜ。好きだろ?
未来:うん、好き……
永久:ちょうど夕焼けが綺麗な時間だからいいんじゃないかな?
未来:……。
永久:いくぞ!
未来:うん。

0:観覧車に乗り込む二人。夕日の赤で染まる世界。
未来:……綺麗だね。
永久:そうだな。
未来:……永久、今日はありがとう。
永久:どういたしまして。最近忙しそうだったから……気分転換してほしかったんだ。
未来:……ありがとう。
永久:顔色もずっと悪かったしな~。ちゃんと体調管理しろよ?
未来:うん……
永久:未来はいつも無理するからなぁ。俺がちゃんと見てやらないとな。
未来:もう子供じゃないんだよ?
永久:でも未来はこうって決めたら突き進むから、いろいろと忘れるだろ?
未来:よくわかってらっしゃる。
永久:だから俺がそばで支えてやりたいんだ。
未来:……永久?
永久:なぁ未来。俺は、これからもずっと未来を支えていきたい。
未来:え……
永久:好きだ。ずっとずっと……愛してた。
未来:………。
永久:これからも未来とずっと一緒にいたい。
永久:だから、俺がこれから先も未来といることを許して――
未来:永久!……永久……、あのね……


リヒト:着いたぞ、アネラ。
アネラ:………すごい。
リヒト:昔さ、話をしたの覚えている?アイリスって花の話。
アネラ:リヒトの最初のご主人様の話ね。
リヒト:あぁ……最初のご主人様が大切にしていた花。白いアイリス。
アネラ:とても綺麗だって言ってたよね。
リヒト:見たいってずっと言っていただろ?
アネラ:あ……
リヒト:僕一人ではどうにもならなかったけど、永久に手伝ってもらって用意したんだ。
アネラ:すごく綺麗……ありがとう!リヒト!
リヒト:……あのさ、アネラ。
アネラ:何?
リヒト:花にはね、花言葉っていうのがあるんだ。
アネラ:花、言葉?
リヒト:名前にはちゃんと意味があるだろ?
アネラ:えっと……私が天使って意味で、リヒトが希望って意味だっけ?
リヒト:そうそう。
アネラ:じゃあ、この花にも意味があるの?
リヒト:うん。
アネラ:どんな意味?
リヒト:……『あなたを大切にします』
アネラ:……え?
リヒト:アネラ、大好きだよ。
アネラ:リヒト、えっと……
リヒト:ねぇアネラ。アネラは僕のこと好き?
アネラ:好き!大好きだよ!決まってるじゃない!
リヒト:ありがとう。
アネラ:あの時……、あの暗くて冷たくて怖いあの場所で、リヒトがいてくれたから頑張れた!
リヒト:僕も。あの時アネラに出会たから今がある。
アネラ:私も、リヒトが大好き。だから大切にしたい。
リヒト:ありがとう、アネラ。
リヒト:じゃあ改めて……。アネラ、僕のお嫁さんになってください。


0:未来の自宅。ソファーで寄り添いながら二人の帰りを待つ二匹。
アネラ:それにしても、どうして急に?
リヒト:うん、永久と約束したんだ。
アネラ:ん?どういうこと?
リヒト:永久と二人で、気持ちを伝えようって。
アネラ:え!それって……じゃあ、いま未来と永久くんも。
リヒト:あぁ。僕はアネラに、永久は未来に。自分の気持ちを伝えるって約束したんだ。
アネラ:そっか……そうなんだ。
リヒト:うまくいくかなぁ。
アネラ:うまくいくわよ!だって未来は永久が大好きだもの。
リヒト:そうなの?
アネラ:そうよ?よく話をしているし、永久くんのことになると、とっても嬉しそう。
リヒト:そっか、じゃあうまくいったかな。
アネラ:永久くんと未来が一緒になるのかぁ。あ!じゃあ私たちも――
リヒト:一緒に暮らせるよ。
アネラ:本当?これからはずっとずっと一緒?
リヒト:あぁ。
アネラ:えへへへ、うれしい。
リヒト:……僕もだよ。

未来:ただいま~。
永久:リヒト、アネラ。帰ったよ。
リヒト:お、噂をすれば。
アネラ:お帰り!二人とも。ねぇ、聞いて聞いて!あのね、今日ね、リヒトからね――
未来:アネラ……(アネラを抱きしめる)
アネラ:……未来?
リヒト:永久、お帰り。どうだっ――
永久:リヒト、おいで。今日はもう帰るよ。
リヒト:え?永久?どうしたんだよ。
未来:アネラ、ほら……リヒトくんと永久にばいばいって。
アネラ:え?いやよ。まだ一緒にいたい。(未来の腕からすり抜ける)
未来:あ……
アネラ:私ね、リヒトのお嫁さんになるんだよ。
未来:アネラ?
アネラ:未来も永久のお嫁さんになるんでしょ?なら、これからは皆ずっと一緒だね。
未来:……。
永久:……未来。
リヒト:永久?
未来:……。
アネラ:ねぇ……二人ともどうしちゃったの?なんでそんなに苦しそうな顔をしているの?
未来:……アネ、ラ……。
リヒト:……アネラ、今日は永久と帰るよ。明日また来る。
アネラ:え?でも――
リヒト:永久、行こう。
永久:……リヒト。
アネラ:えっと……じゃあ、明日ね。
永久:未来……。明日、また来るから。
未来:……。


0:リビングで青白い顔をしている未来。
アネラ:未来?ねぇ……元気ないよ。どうしたの?
未来:………。
アネラ:ねぇ聞いて。今日ね、リヒトからお嫁さんになってって言われたの。
アネラ:未来も永久からお嫁さんになってって言われたんでしょ?
未来:………。
アネラ:そしたら、今度はずっと四人でいられるのよね!
未来:アネラ……。
アネラ:嬉しいなぁ~、リヒトとずっといられるし永久くんもいるし。
未来:アネラ……。
アネラ:未来も永久くんのこと大好きだもんね!大好きな人たちとずっといられるって嬉しい――
未来:アネラ、ごめんね……
アネラ:……未来?
未来:アネラ、ごめん……。ずっと一緒にいるって約束したのに。
アネラ:え?
未来:本当にごめんね……。黙っててごめん、ごめんなさい。ごめん。
アネラ:未来?
未来:私……、私は……ごめんなさい。ごめんなさい……永久……。


リヒト:永久……。僕はちゃんとアネラに言ったよ。お嫁さんになってって。
永久:……。
リヒト:アネラ、すごく喜んでくれた。永久が手伝ってくれたアイリスの花も喜んでくれた。
永久:……。
リヒト:……永久、何があったんだ?
永久:リヒト……。
リヒト:お嫁さんは嫌だって言われたの?でもきっとそれは照れ――
永久:なぁリヒト。未来な……死んじゃうんだってさ。
リヒト:……え?
永久:信じられないよな。だっていつも元気な未来がだぞ?
リヒト:永久……。
永久:今朝だって普通に笑ってたし、遊園地で遊んでる時だってずっと普通だった。
永久:忙しそうにはしてるけど仕事だって普通にしてたし、毎日毎日笑顔で笑ってて、それで……
リヒト:永久、何があったんだよ。


アネラ:……未来?大丈夫?
未来:アネラ……聞いてくれる?
アネラ:……もちろんよ。
未来:今日ね、永久と久しぶりに遊園地に行けてすごく楽しかったの。
アネラ:うん。未来はずっと楽しみにしていたもんね。
未来:二人でいっぱい遊んで、笑って、辛いことなんて全部忘れて……。
アネラ:……。
未来:最後にね……観覧車に乗ったんだ。
アネラ:未来が好きなものだね。よく写真を見せてくれたやつ。
未来:夕日がすごく綺麗で、世界がキラキラしていて、このままずっと時間が止まればいいのにって思った。
アネラ:そっか。すごく素敵な景色だったんだね。
未来:………そしたらさ、永久がね。結婚してくれって……。
アネラ:………。
未来:俺の奥さんになってって……。
アネラ:未来はそれが嫌だったの?
未来:……すごく嬉しかった。永久とこれからずっと過ごせるなら幸せだと思った。
未来:それにアネラとリヒトくんもずっと一緒に過ごせるし、きっとすごく楽しいと思った。
アネラ:……未来?
未来:……私に未来(みらい)があったら……、それはすごく素晴らしいものだったと思う……。
アネラ:え?どういうこと?
未来:……アネラ、黙っててごめんね。
アネラ:未来?

未来:私、ガンなんだ。


永久:生きられてあと半年。
リヒト:……そんな。
永久:治る見込みはないって。
リヒト:そんな……だって、そんな素振り。いや、その前にアネラは何も!
永久:未来のやつ……全部ひとりで抱え込んで、黙っていなくなるつもりだったんだと。
リヒト:……。
永久:まるで猫みたいだよな。
リヒト:……そうだな。僕たちは死ぬのがわかるとひっそりと死に場所を探す。
永久:大好きな人たちに心配かけたくないから、黙って消えるつもりだったって。


未来:本当は言うつもりなかったの……。
アネラ:嘘だよね?嘘って言ってよ!……未来、死んじゃうの?
未来:……すぐにじゃないよ。あと半年くらい。
未来:誰にも言うつもりなかったのにな……。みんなに悲しい顔させたくなかったのに……。
未来:でも……。永久から結婚を申し込まれて、すごく嬉しくて……でも同時に一緒にいられないのが悲しくて、気持ちがめちゃくちゃで……結局、永久に全部言っちゃった。
アネラ:未来……。
未来:こんなはずじゃなかったのに。黙っていなくなる――
アネラ:嫌よ!いなくならないで!
未来:アネラ……。
アネラ:未来、嫌だよ……。お願い、最後まで傍にいさせて。
未来:アネラ……。
アネラ:置いていかないで、一人で悲しまないで!だって私たちは家族でしょ?
未来:……永久がね、それでもいいから家族なろうっていうの。
アネラ:……。
未来:アネラ……私、どうしたらいいの?私は永久を置いていっちゃうのに……そんな残酷なこと……。
アネラ:未来はどうしたいの?
未来:アネラ……。
アネラ:未来は永久といたい?
未来:私は……永久が好き……大好き……。本当は最後までいたい。ずっと一緒にいたい。
未来:永久と……アネラとリヒトと、ずっと……一緒に……。
アネラ:それでいいじゃない。
永久:未来が嫌だっていっても、俺は君と結婚するよ。
未来:永久!
永久:……ごめん、やっぱり納得できない。
アネラ:永久くん!あのね、未来ね――
リヒト:大丈夫だよ、アネラ。
アネラ:リヒト?
リヒト:あの二人は大丈夫だよ。安心して。
アネラ:でも……
リヒト:アネラも聞いたの?未来の病気のこと。
アネラ:うん、聞いた……。まるで猫みたいだった。
リヒト:そうだね、一人で死に場所を探すところなんてそっくりだ。
アネラ:……でも、私はもしそうなっても未来やリヒトのそばを離れたくない。
リヒト:あぁ、僕もだ。
アネラ:一人は淋しいもの。
リヒト:そうだね。
アネラ:それに、みんなが悲しむもの。
リヒト:その通りだ。
アネラ:……。
リヒト:だから大丈夫だよ。未来も永久もそれはちゃんとわかってるから。

永久:未来……
未来:永久、ごめんなさい……ごめん、なさい……
永久:いいんだよ、一人でずっと辛かったんだよな。
未来:私、永久が好き。大好き。
永久:うん、ありがとう。
未来:奥さんになってほしいって言われてすごく嬉しかった。なりたかった、永久の奥さんに。
永久:なれるさ。明日市役所に行って、婚姻届け書いて出そう。
未来:無理だよ、だって、永久を置いていっちゃうんだよ?半年しか生きられないんだよ?
永久:それでもいい。未来の半年を俺にちょうだい。
未来:そんな我がまま――
永久:これは俺の我がままでもあるんだ。
未来:……永久。
永久:俺は未来とともに生きられる時間を無駄にしたくない。後悔したくない。
未来:……いいの?私なんかで――
永久:未来がいいんだ。
未来:……うん、うん!私、永久のお嫁さんになる。永久、永久……。
永久:一緒に生きよう。精一杯。


0:間
0:小さな教会にある部屋。
アネラ:なんか苦しい~、ふさふさして気になる~!
未来:こらこら!アネラ、もう少し大人しくしててってば。あぁもう崩れちゃう!
アネラ:これ、本当に着なくちゃいけないの?なんだか、すごく窮屈~。
未来:えっと、リボンを結んで……、あ、あとこれはここに結んで……はい、完成!
未来:ほらみて、可愛いわよ~。
アネラ:あ、これ、未来と同じなの?
未来:ふふふ、お揃い。可愛いでしょ?きっとリヒトくんも喜ぶわよ。
0:ドアのノック音
永久:未来、アネラ。準備はでき………。
リヒト:はぁ……窮屈だな、服ってやつは。永久?どうし……へぇ。
アネラ:あ、リヒト!
未来:永久、リヒトくん。どうかな?
リヒト:綺麗だね、アイリスの花みたいですごくかわいいよ。
アネラ:え?そ、そうかな……。
リヒト:人間はなんでこんな窮屈なものをって思ったけど……うん、なかなか悪くないね。
アネラ:リヒトも、その……似合ってる。カッコいい!
未来:アネラの可愛さに見とれちゃったかな?
リヒト:あぁ、すごく綺麗だ。未来、ありがとう。
未来:素敵なウェディングドレスでしょ!頑張って作ったかいがあったなぁ~。
永久:……。
未来:永久もそう思うでしょ?
永久:うん、すごく綺麗だよ。……未来。
未来:へ?
永久:とっても綺麗で可愛いよ。未来。
未来:ちょっと、永久……
永久:もちろんアネラも可愛いさ。でも未来はもっと可愛い。
未来:そう、かな……。だって、こんなに痩せちゃったし――
永久:俺の奥さんは最高に可愛いよ。
未来:……ありがとう。
未来:夢が叶って……すごく嬉しいよ。
永久:うん。
未来:アネラとお揃いのドレスを着て、こうやって結婚式するの。
永久:そうだな。
未来:……ありがとう。永久。
永久:……うん。
未来:ほら、笑ってよ!これからは四人で家族になるんだから。
永久:……そうだな、うん。ごめん。
リヒト:永久。
アネラ:未来。
永久:あぁ……よしよし。おいで、リヒト。
未来:アネラも、さぁおいで。


0:間
アネラ:未来……幸せそうに笑ってる。
リヒト:またその写真見てるのか?
アネラ:うん。私たちの幸せな写真。
リヒト:そうだな、みんな幸せそうだ。
アネラ:こんな時間を過ごせるなんて……本当にあの時は思わなかった。
リヒト:そうだな。冷たくて暗いあの場所で一生を終えると、僕も思っていたよ。

0:(M)モノローグ。
アネラ:(M)あの素敵な一日から七日後。未来はこの世を去った
リヒト:(M)未来の最後は、永久の腕の中で幸せそうに笑っていた
アネラ:(M)私たちができることは、ただ生きられる時間を精一杯生きること
リヒト:(M)後悔しないように、限られた時間を精一杯

永久:リヒト、アネラ。また結婚式の写真を見てるのかい?
永久:……未来。結局一人にしちゃってごめんな。俺も必ずそっちに行くから。
永久:まぁ現実的な話をしたら、アネラとリヒトが先にそっちに行くと思うから、三人でのんびり待っててくれたら嬉しい。
永久:いつかまた、四人で暮らそうな。それまで俺は精一杯生きるから。
永久:……よし!ほら、二人とも!飯だぞ~。
アネラ:今日は焦げてないでしょうね?
リヒト:せっかく未来にレシピをもらったっていうのに……どうして永久が作るとあぁなっちゃうんだろう。
永久:文句言わずに食べろよな!
リヒト:はいはい。アネラ、行こう。
アネラ:うん。

アネラ:未来!ありがとう!


0:おしまい。

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