【2人/♂1:♀1:不0】例えばそんな未来なら

性別変更【不可】作品

0:登場人物紹介
0:アドリブ等に関してはすべて演者様にお任せします。楽しんでお芝居してください。
0:架空の病気が出てきます。
三月:往時三月(おうじみつき)役の方がタップ。先輩っぽくない優しい先輩。
日向:嚮後日向(こうごひなた)役の方がタップ。後輩っぽくないしっかり者の後輩。
日向:陽南(ひな)と兼ね役。10歳の子供。



三月:例えば僕が君にもっと早く出会っていたら
日向:例えば私があなたと出会わなければ
三月:例えば世界がもっと未来だったら
日向:例えば世界がもっと過去だったら
三月:君をもっと愛せたのに
日向:あなたを悲しませることはなかったのに


三月:例えばそんな未来なら


0:喫茶店のスタッフルームでカレンダーを睨みつける三月。
三月:今年も地獄の日々が始まるのか……。
日向:おはようございま~す。
日向:あれ、往時(おうじ)先輩。早いですね。
三月:あぁ……嚮後(こうご)か。おはよう。
日向:眉間にしわ寄せて何やってるんです?
三月:クリスマスシーズンのシフト。
日向:ようやく出たんですね。
日向:クリスマスの時期は人がいなくて困るって、マスター泣いてましたからね。
三月:毎年だけど、クリスマスはしんどいよな。
日向:この喫茶店、この時期は人気ですからね。
三月:店内利用も多いけど、テイクアウトも増えるしな。
日向:マスターのチキンとケーキは絶品ですからね。
三月:インスタ映えだっけ?
三月:去年はSNSのせいで、店の混雑が尋常じゃなかったもんな。
日向:往時先輩、キッチンからずっと出られなかったですもんね。
三月:嚮後だって……ずっとホールに立ちっぱなしで大変だっただろう。
日向:まぁでも……みんなが笑顔になってくれるのは嬉しいもんじゃないですか。
三月:でも、さすがに2週間連続勤務は辛いだろ。
日向:そうですか?
三月:そうだよ。
三月:………、なぁ嚮後。今年は……その……。
日向:今年も頑張りますよ。往時先輩と一緒に頑張ります。
三月:でも!
日向:一緒に頑張りましょう。ね?三月先輩。
三月:日向……。うん、わかった……。
日向:もう!そんな顔しないでくださいよ、先輩!
三月:うわっ!ちょっと、バカ!抱き着くなよ!
日向:三月先輩……もう、可愛いんだから。
三月:可愛くない!僕は男で、何より君の先輩だ。
日向:男の人でも、先輩でも、可愛いものは可愛いんです!
三月:う……。
三月:あの……日向さん?ここ、店なんですけど?
日向:今は先輩と私の二人だけのシフトです。
日向:マスターは八百屋さんに買い物に行っちゃいました。
三月:そうかもしれないけど!
日向:先輩……大好きですよ。
三月:ちょっと!待てって!
日向:今日も頑張りましょうね。
三月:はぁ……そうだな。でも無理は禁物だからな!
日向:はぁい!じゃあ、表に看板出してきますね。
三月:おう、よろしく。

三月:(モノローグ)
三月:ここは、都会の路地裏にひっそりと佇む『喫茶ヤドリギ』
三月:僕はかなり前から、ここのキッチンでアルバイトをしている
三月:落ち着いていて大人な雰囲気の店に惹かれたのもあるけど、何よりもマスターが作るメニューが絶品で、料理人を目指していた僕は一目惚れならぬ、一食惚れをしてここで働くようになった
三月:そして彼女は、僕の一つ年下で仕事仲間の『嚮後日向(こうごひなた)』
三月:僕より一年あとにこの店に入った可愛い後輩だ
三月:彼女は、しっかりしていて笑顔が素敵で、太陽みたいで
三月:……僕の憧れだった


0:回想シーン。誰もいない店内で、カウンターに座る日向。
三月:嚮後、お疲れ様。
日向:往時先輩~。今日は混みましたねぇ……。
三月:今日は十五夜だから、限定セットを最後に食べたいってお客さんが多かったな。
日向:おかげで完売御礼でしたけどね。
三月:急に田中が熱で休みで、嚮後一人に任せることになっちまって……悪かったな。
日向:いえいえ、大丈夫ですよ。
三月:嚮後の見事な客捌きには、脱帽ですよ。
日向:往時先輩が料理する姿も格好良かったですよ。すごくキビキビしてて。
三月:まぁ僕のは慣れだから。
日向:なら、私のもの慣れですよ?
三月:そうかなぁ~……
日向:今日の先輩、本当に頑張ってましたね。お疲れ様です。
三月:ちょっと!嚮後!頭撫でるなって。
日向:だって、頑張った子はちゃんと褒めてあげないと!
三月:あのねぇ……僕、君の先輩なんだけど?
日向:先輩でも関係ないです!頑張ったらいっぱい褒める!これが私のスタンスですから。
三月:そう……。
日向:はい。
三月:それじゃあ……頑張った嚮後にも、ご褒美あげないとな。
日向:へ?
三月:ちょっと待ってて。
日向:え?往時先輩?

0:キッチンから小さな誕生日ケーキを持ってくる三月。
日向:おう、じ……先輩?
三月:嚮後……今日、誕生日だろ?
日向:え?なんで知ってるんですか?
三月:それは……その、マスターに……
日向:……可愛い。先輩、すごく美味しそうです。
三月:あのさ……嚮後を、その……イメージして作ったんだ。
日向:往時先輩……
三月:いつも嚮後に助けてもらってるからさ。
三月:だから……嚮後のために何かできないかなって思って。
三月:僕は、ほら、こうやって料理くらいしかできないから。
日向:……先輩、すごくうれしい。
三月:嚮後……。
日向:私、先輩の料理大好きです。
日向:だから、先輩が私のために考えて作ってくれたっていうだけで、凄くうれしい。
三月:よかった。
日向:食べてもいいですか?
三月:もちろんだよ。はい、紅茶もどうぞ。
日向:わーい、じゃあ……いただきます。
三月:……どう、かな。
日向:すごく……すごく、美味しいです!先輩!
三月:よかった!甘さは少し控えめにして、ピスタチオをアクセントに入れてみた。
日向:それにオレンジの香りがすごく好き。
三月:オレンジは嚮後をイメージしたんだ。
日向:え?
三月:嚮後の笑顔はさ、太陽みたいに輝いていて……。
三月:僕、すごく好きだなって。
日向:……往時、先輩……。
三月:あ!ご、ごめん!変な意味じゃなくて!
三月:いつも元気で明るい嚮後が好きっていうか、あぁそうじゃなくて!
日向:……そうじゃないんですか?
三月:いや、そうじゃないってことはないんだけど……
日向:先輩?
三月:……あ、あのな……嚮後!
日向:はい、なんでしょうか?
三月:……誕生日……おめでとう。
日向:ありがとうございます。
日向:先輩の手作りケーキでお祝いしてもらえるなんて、幸せです。
三月:……その、それでなんだけどさ。
日向:はい……。
三月:……好きだ。
日向:……。
三月:ごめん、いきなり。でもずっとさ、嚮後のことが好きだったんだ。
三月:だから誕生日を祝いたくて……
三月:僕にできることがしたくて……それで、その――
日向:先輩、ありがとうございます。
三月:嚮後……
日向:私、先輩の料理が大好きって言いましたよね?
三月:あぁ……
日向:料理だけじゃないんです。
日向:料理をしている姿も、一生懸命頑張る姿も、失敗して落ち込んでる姿も……
日向:怒った顔も、笑ってる顔も……
日向:全部全部、好きです。
三月:嚮後。
日向:往時先輩……
日向:ううん。三月先輩。大好きです、私も。
三月:嚮後……いや、日向。僕も……君が好きだ。大好きだ!
日向:……短い間ですけど、よろしくお願いしますね!先輩。


日向:(モノローグ)
日向:三月先輩は、私の言葉に不思議そうな顔をした
日向:普通だったら「これからもずっと」という言葉を言うべきだったのだろう
日向:でも……
日向:私にはその言葉は言うことはできなかった
日向:だって私に残された時間は僅かだったから
日向:
日向:睡眠時衰退症候群
日向:通称、眠り姫病……
日向:
日向:通常、人が寝ているとき、身体は回復をしようとしていく
日向:しかし、この病気は眠っている間に通常の倍以上の速度で内臓の機能が老化していく
日向:まさに眠っている間に月日が一気に過ぎていくことから、「眠り姫病」と呼ばれるこの奇病は、原因・治療法ともに謎のまま、死を待つだけの不治の病であった
日向:私はこの病気に冒されていた
日向:見た目は全く変わることはない
日向:でも身体の中はどんどん年老いて、そのうち死ぬのだ

三月:(モノローグ)
三月:眠り姫病……
三月:ニュースでその名前は見聞きしていた
三月:治ることのない、ただ死を待つだけの病気
三月:ありったけの勇気を出して、大好きな彼女に告白をして……
三月:僕の大好きな輝く笑顔で返事をもらったのに
三月:彼女の言葉は「これからも」ではなく「短い間」だった
三月:そのあと、彼女から病について聞かされた
三月:頭が真っ白になった
三月:だってこれまでの彼女も、目の前の彼女も、病気で死ぬようには見えない姿だったから
三月:彼女が死ぬ?
三月:そんなの冗談だって思った
三月:だって、彼女は「笑顔」で話すから


0:開店前の店内。日向がカウンターで朝食を食べる。
三月:紅茶のおかわりは?
日向:あ、欲しいです。
三月:はいよ……、はい、どうぞ。
日向:いい香り……。
三月:さっきも言ったけど……いいのか?あんなにシフト入って。
日向:クリスマスシーズンは忙しくなるんだから誰かが頑張らないと!
三月:でもさ……身体のこと考えたら無理は……
日向:大丈夫ですって。別に起きているときは普通なんですから。
日向:それに……
三月:?
日向:三月先輩と……少しでも一緒にいたいし。
三月:日向……
日向:だめ、ですか?
三月:……ちゃんと休憩はするんだぞ。
日向:わかってますって、先輩……ありがとう。
三月:うん……僕も、日向と少しでも長くいたい。
日向:いますよ、ずっとずっと……
三月:あぁそういえば今日は日向の方が早く上がりだよな?
日向:えぇ、でも……待ってますね。
三月:大丈夫だって、先に帰ってな。
日向:嫌です!一緒に帰るの!
三月:日向……今日は?
日向:先輩のおうちで大丈夫です。
三月:そっか。じゃあスーパー寄って帰ろうか。
日向:はい!


0:時刻は十九時。駅前で待つ日向の元に駆け寄る三月。
三月:ごめん!遅くなった!(抱きしめる)
日向:ちょ!み、三月先輩?
三月:……やっぱり冷えてる。外でずっと待ってたんだろ。
日向:だって……先輩と早く合流したかったから。
三月:暖かいところで待ってろって、いつも言ってるのに。
日向:でも、三月先輩が暖めてくれるでしょ?
三月:心配だから……。今度からは店の中で待っててくれよ。
日向:えー……。
三月:えーって……。どれだけ僕が心配してると――
日向:こうやって待ち合わせデートっぽいの、恋人らしくていいじゃないですか。
三月:……そうだけど。
日向:三月先輩、暖かいです。
三月:走ってきたから。
日向:先輩の音……好き。
三月:……あの、日向?とりあえず離していいかな……。
日向:え~?なんでぇ?
三月:いや、ここ駅前だし……人も多いし……
日向:先輩が抱きしめてきたくせに?
三月:……夢中だったから。
日向:いいですよ。じゃあ、とりあえずスーパー行きましょうか。

0:スーパーで買い物をする二人。
日向:先輩!今夜は何がいいですか?
三月:そうだなぁ~……寒いし、鍋とか?
日向:ただ切って入れるだけじゃないですか。
三月:いいじゃん、美味しいし。
日向:たまにはしっかり作らせてくださいよ!
三月:えー……そりゃあ、台所に立つ日向は可愛いけど……少しでも長くいたい。
日向:……もう。甘えん坊さんだなぁ。
三月:そういうわけじゃ!
日向:嘘ですよ。でも私も長くいたいから、お鍋にしましょう。
三月:うん。
日向:あ、先輩!見てみて!これ、美味しそうじゃないですか?
三月:いいね、デザートに買っちゃおうか。
日向:やったー!
三月:ついでにお菓子コーナーも見てく?
日向:ポテチ買って帰ります?
三月:いいね、食べながら映画でも見ようか。
日向:じゃあ、先輩一押しのあの映画にしましょう!
三月:え、でも日向はあのシリーズ見たことないって……
日向:だから、テレビシリーズ一緒に見て、そのまま映画見ましょう!
三月:いいの?
日向:先輩ももう一回見たいなぁって言ってたじゃないですか。
三月:そうだけど……日向の好きなものを――
日向:先輩の「好きなもの」を知りたいんです!
日向:先輩の「好き」を全部知りたい。だから今日は先輩のおすすめを見ましょう!
三月:……ありがとう。
日向:ほら、先輩!行きますよ!
三月:うわっ、ちょっと!手!
日向:いいじゃないですか!さぁさぁ!レジに向けてゴー!


0:三月の自宅。
三月:よいしょっと、鍵、鍵っと……
日向:もーらいっと!
三月:うわっ!日向?
三月:って、え?なんで?なんで鍵開けてドア閉めるの?開けてよ。
日向:(ドアの向こうから)先輩!
日向:チャイム、鳴らしてください。
三月:えー……なんで?
日向:いいから、いいから。
0:ピーンポーンとチャイムを鳴らす。
日向:先輩、お帰りなさい!寒かったでしょう、早く入って?
三月:あぁ……うん、ただいま。
日向:今日も一日お疲れ様です。先輩。
日向:先にご飯にします?それともお風呂?それとも……
三月:え?ひ、ひな、た?
日向:あれ?先輩?何考えてるんですか?
三月:う……何でもないよ。
日向:先輩、はい、おいで!
三月:え?
日向:お帰りなさいのハグです。ほら。
三月:いや、荷物。
日向:ここにおいてください。ほら、早く!
三月:……ん。
日向:ぎゅーっ!……先輩、お帰りなさい。
三月:うん……ただいま、日向。
日向:今日もお疲れ様です。いっぱい頑張りましたね。
三月:うん……ありがとう、疲れた。
日向:頑張る先輩、大好きですよ。よしよし、お疲れ様。
三月:……あの、恥ずかしいんだけど。
日向:いいんです!私がやりたいんだから。
三月:そっか……。日向……大好き。
日向:私も……先輩が大好き!
三月:……。
日向:じゃあ、ご飯にするんでちょっと待っててくださいね。
三月:僕も手伝うよ。
日向:え~?……まぁそれもいいかも。
三月:一緒に作ろう?
日向:うん、じゃあ先輩、野菜洗ってください。
三月:おう。


三月:(モノローグ)
三月:それから二人でご飯を作って食べて、約束していたテレビを見る
三月:日向は楽しそうに笑ったり泣いたりしながら見てくれて
三月:あのシーンいいねとか、このセリフいいねとか他愛もない話をした
日向:(モノローグ)
日向:先輩が嬉しそうに話すのを聞いていると、こっちも幸せになる
日向:何があるわけでもない、ただ一緒にいて、ただ話して……
日向:他愛もないこんな時間が世界で一番幸せだと感じる
日向:ふと隣を見れば、うとうとと眠そうにしている先輩
日向:可愛いなぁ……
日向:そんな先輩に毛布を掛けて、ぴったりくっついてみる
日向:先輩の体温が気持ちいい
日向:先輩の吐息が愛おしい


日向:せーんぱい?……眠たいですか?
三月:ん……ねてない、……よ……んん……。
日向:可愛いなぁ……もう……大好き……。
三月:ん……僕も……。
日向:………好き、です。
日向:好き……大好き……。
日向:
日向:……愛しています。三月先輩。
三月:……僕も、だよ。
日向:……起こしちゃいましたか?
三月:平気……日向といる……。
日向:ダメですよ、先輩は普通の人なんだから……
日向:寝ないと疲れが取れない。
三月:……うん、でも……日向との時間が……大事だから……
日向:……大丈夫ですよ。傍にいますから。
三月:日向……。
日向:……おやすみなさい、三月先輩……(おでこにキス)


0:朝五時。三月の部屋。
三月:ん……。朝……そうだ!日向。
日向:(寝息を立てている)
三月:よかった……今日も、生きてる……

三月:(モノローグ)
三月:日向が生きていることを確認してほっとする
三月:正直、いまだに実感が湧かない
三月:彼女がこのまま、いつか眠るように死んでしまうなんて……
三月:普段の彼女は元気で明るくて、不治の病に冒されているなんて微塵も感じない
三月:それでも……
三月:彼女はいつか、目を覚まさなくなるのだ
三月:きっと彼女は昨夜も遅くまで僕の寝顔を眺めながら寝落ちたのだろう
三月:それが日向の日課だった
三月:そしてそんな日向を起こすのが僕の日課
三月:これがいつまで続けられるかわからない
三月:それでも……


三月:日向?朝だよ……。
日向:ん……三月、先輩?……おはようございます。
三月:うん、おはよう……昨日もずっと起きてたの?
日向:だって……先輩の寝ぼけた姿、めちゃくちゃ可愛いんですよ?
三月:う~ん……そんな可愛い笑みで言われても、納得いかないんだけどなぁ
日向:いいんです、私だけの……特別だから。
三月:うん……日向にだけだよ。甘えちゃうのは。
日向:先輩……
三月:うん?何?
日向:……クリスマス、何が欲しいって聞いてたじゃないですか?
三月:うん……初めてのクリスマスだからな。
三月:なんでも欲しいものを言って?
日向:……じゃあ、先輩……
三月:うん?
日向:……私、先輩が欲しいです。


日向:(モノローグ)
日向:残酷なおねだりかなって思った
日向:私ばかり幸せに浸って満足して……
日向:残される先輩の気持ちを考えたら、残酷なものをねだったかもしれない
日向:でも……
日向:それでも……
日向:もしも、私が眠り姫病じゃなかったら……
日向:最初で最後のクリスマスにはならなかった
日向:来年も再来年も先輩と一緒にいて、昼間は仕事で忙しくて……
日向:でも夜は二人きりで甘く過ごして幸せを感じて
日向:私が例えば健康な子だったら
日向:例えばそんな未来があったとしたら
日向:「今年」焦って求める必要もなかった
日向:でもそんな未来はやってこない
日向:私は先輩を残して逝ってしまう
日向:だから……せめて「あったかもしれない未来」を先輩と過ごしたい

三月:(モノローグ)
三月:日向のお願いを聞いて悟った
三月:彼女に次のクリスマスはないのだと……
三月:彼女ともっと早く出会って、もっと早く想いを告げていれば
三月:これが最初で最後のクリスマスになんてならなかった
三月:例えばそんな未来の話だったなら
三月:もっともっと彼女に何かをしてあげられたのに
三月:幸せな想いを、幸せな時間を……
三月:たくさんの愛の言葉も、温もりもあげられたのに……
三月:でも今はそんな未来の話じゃない
三月:一緒に過ごせる時間はもう限られていて
三月:君は、僕を残して逝ってしまう
三月:だから……せめて「あったかもしれない未来」を君に贈りたい


0:クリスマスイブ。仕事を終えて二人で三月の部屋のソファーに座る。
日向:……先輩、今日もお疲れさまでした……
三月:うん、日向も。
日向:……先輩……あの、本当に……
三月:いいよ。約束したでしょ?
日向:ごめんなさい、私のわがままで……
三月:大丈夫。僕も日向が欲しいから……
日向:先輩……好きです……好き、大好き……す、き……
三月:うん、僕も大好きだよ……日向。
日向:……なんか、恥ずかしい……ですね。
三月:照れてる?
日向:そりゃあ……初めてだし……
三月:可愛いなぁ……日向、ほら。こっち向いて?
日向:せん、ぱい……
三月:(キス)……これからもずっと一緒だから。
日向:ん……三月、先輩……。
三月:日向……。
日向:先輩……。


0:翌朝五時。ベッドで寝息を立てている三月。
日向:……先輩?せ~んぱい。
三月:ん……あれ……ひな、た?
日向:おはようございます、先輩。起きました?
三月:んん……おはよう……早いね、日向。
日向:昨日は先輩より先に寝ちゃったから……先輩の寝顔がみたくて早起きしました。
三月:なんだよ、それ……
三月:日向……その……身体、大丈夫?
日向:んっ……えっと……。ちょっと腰が……
三月:ごめん……。だって昨日の日向、可愛かったから――。
日向:ちょっと!先輩!
三月:痛てて、引っ張んなって。
日向:もう……。でも、幸せでした。
三月:うん、僕も幸せ。
日向:……今日も忙しいですけど、頑張りましょうね。
三月:そうだなぁ……うん、頑張ろう。二人でさ。
日向:はい!……先輩。
三月:ん?何?
日向:……ありがとうございます。
三月:うん……こちらこそ。
日向:三月先輩……愛してます。


0:間
0:十年後、十月十五日。リビング。
三月:日向、おはよう。
三月:誕生日おめでとう。……今年もいい天気だよ。
三月:……眠り姫病。
三月:ようやく、治療法が見つかったんだって……
三月:もっと早く見つかっていれば……なんて思ってしまうよ。
三月:でも、例えばそんな未来があったならって願っても、叶うわけがないのにな。。
日向:(陽南)パパ?
三月:あぁ、陽菜。おはよう。
日向:(陽南)おはよう。ママもおはよう!
三月:今日は早起きだね。
日向:うん、だって!今日はパパとお出掛けだもん!
三月:そうだな、最高の誕生日にしような。
日向:(陽南)ねぇねぇ、今年もパパのオレンジケーキ食べられる?
三月:もちろん!陽南のために、飛び切りのバースデーケーキを用意してるよ。
日向:(陽南)やった!パパ大好き!
三月:あぁ……パパも陽菜が大好きだよ。


三月:例えば僕が君にもっと早く出会っていたら
三月:君をもっと愛することができたかもしれない
日向:例えば私があなたと出会わなければ
日向:あなたを悲しませることもなかったかもしれない
三月:例えば世界がもっと未来だったら
三月:君を失うことがなかったかもしれない
日向:例えば世界がもっと過去だったら
日向:こんなにもあなたを大切に感じることができなかったかもしれない


日向:例えばそんな未来なら
日向:そんなことを願うことは今でもある
三月:けれど、こんな未来でも
三月:幸せを感じる手段はたくさんあることを知ったから
三月:
三月:
三月:「日向。君が残してくれたこの娘(こ)と……僕は生ていく。……愛してるよ」

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