【5人/♂4:♀1:不0】不器用恋愛方程式

《注》こちらはBL作品となっております。内容をよくご確認の上,上演をお願いいたします。

【登場人物一覧】
悠斗:伊丹悠斗。幸子の息子。博貴のことが好き。高校生。幼少期に実の父親にいたずらされたトラウマあり。
博貴:伊丹博貴。幸子と遥香の幼馴染。幸子のことが好きで、悠斗の面倒をよく見ていた。再婚して現在は悠斗の父親で幸子の夫。
幸子:伊丹幸子。悠斗の母親で博貴の幼馴染で,現在は博貴の妻。遥香の恋人だった。夫が息子に手を出していたことを知り離婚。その後女手一つで育てていたが、色々と苦労があり、博貴と再婚した。
達也:篠崎達也。悠斗の幼馴染。悠斗のことが好き。
健司:伊藤健司。悠斗の父,バイセクシャルで自由奔放な人。スキンシップが異常な人。

《セリフはないがキャラクターとして登場》
遥香:博貴・幸子の幼馴染。事故で亡くなっている。幸子の恋人だった。

【本編】
博貴:(M)俺は何を間違ってしまったんだろうか。
博貴:(M)叶わぬ恋だと諦めた。でも君を諦めることなんてできなくて……。
博貴:(M)だから君の大切なものを大切にしようとした。
博貴:(M)俺ができる精一杯のことで。
博貴:(M)それなのに……

悠斗:博貴さん……、いいよね?

博貴:(M)どうして、こうなった!?

タイトルコール「 不器用恋愛方程式 」

0:朝、キッチンで朝食の準備をする幸子。二階にいる悠斗の部屋に向かって声をかける。
幸子:悠斗~。
悠斗:んん……
幸子:ちょっと、悠斗!
悠斗:もう少し……。
幸子:こら、バカ息子!いつまで寝てんのよ!
悠斗:……うっせぇ……。
幸子:ご飯冷めちゃうわよ!いい加減に――
博貴:まぁまぁ、俺が起こしてくるよ。
幸子:ひろくん……、いいの?
博貴:いいっていいって。それよりさっちゃんは今日出社でしょ? 準備してきなよ。
幸子:何か、毎回悪いわね。
悠斗:………。
幸子:じゃあ、お願い。
博貴:うん、任せて。
悠斗:……。

0:階段を上がり、悠斗の扉をノックして入る博貴。
博貴:悠斗君、入るよ?
悠斗:……。
博貴:悠斗君、とりあえずカーテン空けるね。
悠斗:……んん……。
博貴:ほら、起きて。朝だよ?幸子さんも心配してるし,ご飯食べよ。
悠斗:……いらない。
博貴:え?
悠斗:……大丈夫だよ、一人で起きられるし準備もできるから。
博貴:なんだ、起きてたんだ。おはよう。
悠斗:……。
博貴:悠斗君?
悠斗:……出てって。
博貴:えっと……
悠斗:着替えるから出てって! 僕は大丈夫だから!
博貴:あ……うん、わかった。
0:博貴は静かに部屋を出ると1階へと向かう。
0:悠斗はもう一度布団に潜り込むと小さくため息をつく。
悠斗:僕のことなんて……ほっといてくれよ……。

0:リビングで朝食を食べ始めている幸子。
幸子:どうだった?
博貴:ちゃんと起きてたよ。
幸子:……またうちのバカ息子が何かした?
博貴:いや、大丈夫だよ。
幸子:その顔、大丈夫って顔じゃないよ?
博貴:ははは、さっちゃんはなんでもお見通しだな。
幸子:当たり前でしょ? ひろくんとはどれだけ長い付き合いと思うの。
博貴:あんなに懐いてくれたのになぁ……、ひろくんひろくんって。
幸子:ホント、あの子はひろくんにべったりだったもんね。
博貴:中学生くらいになって急に大人びたかと思ったら……。
幸子:まぁ思春期の少年には色々あんのよ、きっと。
博貴:……やっぱり、お母さんが取られちゃうって思うのかな。
幸子:ぷっ……あははははは、そんなのないない。
博貴:そう?だってさ、ずっとさっちゃんと二人で過ごしてきて、急に友達だった男がお父さんってなったら――
幸子:私が大丈夫だって言ってるんだから大丈夫だって。
幸子:これでもあの子の母親よ? あの子が望まない道なんて選ばないもの。
博貴:そうか……。
幸子:そうよ。だから安心して、自信をもっていいわよ。
博貴:そっか。
悠斗:いってきます。
博貴:あ、悠斗君――
悠斗:僕、今日遅いから夕飯入らない。
幸子:ちょっと、お弁当。忘れてる!
悠斗:いらないって言ったじゃん。友達と学食で食べるからって。
博貴:幸子さんがせっかく作ってくれたんだから――
悠斗:だったらアンタが食べればいいだろ!
幸子:悠斗!あんた、パパに向かってなんてこと言うの!
悠斗:余計なお世話なんだよ、毎回毎回。
幸子:いい加減に――
悠斗:じゃあ、僕行くから。
幸子:ちょっと、悠斗!こら!このバカ息子!
博貴:……。
幸子:ひろくん、ごめんね。
博貴:いいよ、大丈夫。悠斗君も高校生だし、色々あるんだよ。
博貴:じゃあ俺も会社行くね。さっちゃん、お弁当ありがとう。
幸子:どういたしまして。いってらっしゃい。
0:博貴が部屋をでる。小さくため息をつく幸子。
幸子:……ったく。あのバカ息子……。
幸子:ねぇ遥香。どうしたらいいのかね、こういう場合って。

0:昼下がりの屋上。うなだれる悠斗とそれを見つめる達也。
達也:なに、また今日もパパさんと喧嘩したの?
悠斗:……喧嘩なんか、してない。
達也:ふーん。まぁいいけどさ。午前中ずっとそんな調子じゃん。
悠斗:そんな調子って?
達也:絶対嫌われた、どうしようどうしようって顔。
悠斗:そんなことねぇよ!
達也:じゃあ今日はちゃんとパパさんと話せたの?
悠斗:…………。
達也:……できなかったのね。
悠斗:……前は普通に話せたのになぁ。
達也:だから再婚も賛成したんだろ?
悠斗:………。
達也:だけど、実際に目の前で母ちゃんとイチャつかれたら、そりゃあ萎えるよなぁ。
悠斗:……るっせぇ。
達也:はぁ……。
悠斗:……再会したらさ……、博貴さん、さらにかっこよくなってて……。
達也:相変わらず老け専だねぇ。
悠斗:イケオジ好きって言えよ!
達也:はいはい、さーせん。
悠斗:大丈夫だと思ったんだよ、ちゃんと受けら入れられるって。ちゃんと息子として向き合えるって。
達也:だけど……再会したらさらに好きになっちゃった?
悠斗:………うん。
達也:うわ~……めっちゃ乙女じゃん。
悠斗:仕方ねぇだろ!自分でもこんな風になるなんて思ってねぇんだよ!悪いかよ!
達也:悪いなんて言ってねぇよ、可愛いなって思っただけ。
悠斗:……馬鹿にしやがって。
達也:馬鹿にしてねぇって。俺を誰だと思ってんだよ。
悠斗:誰だよ。
0:ぐいっと悠斗の肩を抱き寄せて、耳元で甘く囁く。
達也:お前を一番に愛している親友
悠斗:ばっか!お前何言って――
達也:ははははは、照れてやんの。顔真っ赤じゃん。
悠斗:達也!お前、ほんといっつも、そういう――
達也:でも本気だぜ。
悠斗:へ?
達也:お前のこと大事だって気持ちは本気だ。
悠斗:えっと……。
達也:じゃあ、俺。顧問に呼ばれてっから先に行くな。
悠斗:お、おう。
達也:また後で、ハニー♡(投げキッス)
悠斗:てめぇ!すぐそうやってからかう――
達也:じゃ~な~。
0:達也を見送ると、ため息をつき空を見上げる悠斗。
悠斗:……普通の親子になれるって……思ってたんだよ。

0:放課後,商店街を二人で歩く達也と悠斗。
達也:でさぁ、最後の思い出にしたいからキスしてくださいとか言ってくんだぜ?
悠斗:それだけ達也のことが好きだったんだろう。それくらいしてやったっていいじゃん。
達也:はぁ? じゃあ悠斗は好きでもない奴とキスできんのかよ。
悠斗:それは……嫌だけどさぁ。
達也:だろ? 俺だって,そんなのお断りだね。
悠斗:まぁそれはいいよ。
悠斗:確かに好意を持ってくれている子に対して、それは紳士じゃないと思う。
達也:紳士って――
悠斗:けど! 僕を巻き込むのは違うだろうが!
達也:悪かったって~。だからこうしてクレープ奢ってやってるだろう?
悠斗:告白現場まで付き添われた挙句,告白断って僕に抱き着いてくるとか,正気じゃないだろうが。
達也:でも一番効果的だろ? 恋愛に興味ないって言葉にするよりも一発で分かるじゃん。
悠斗:あの子の僕を見る目……。思い出しただけで……(憂鬱な表情)。
達也:そのおかげで、お前はうまいクレープが食えて,こうして放課後親友の俺と素敵なひと時を過ごせてるんだからいいだろう?
悠斗:意味わからん。
達也:……元気出たみたいだな。
悠斗:へ?
達也:悠斗,朝から元気なかったからさ。心配してたんだぜ?
悠斗:……さすが達也。ほんと,よく周りが見えてるよな。そういうところかっこいいよ。
達也:……それはお前だから(ぼそっと)
悠斗:なんか言ったか?
達也:いや、なんでもねぇよ! それよりこの後――(達也の携帯が鳴る)
達也:……悪い,バイト先からだ。
悠斗:いいよ、それより早く出なよ。
達也:もしもし,篠崎です。はい、はい、……え、今からですか? えーっと……
悠斗:僕は大丈夫だから,行ってやんなよ。
達也:(小声)悪いな……。あ、わかりました。それじゃあ今から急いでいきます!
   本当にすまん!この埋め合わせは絶対するから!
悠斗:大丈夫だって。達也にはいつも助けられているし、埋め合わせなんていらないから。
達也:それでも! そうだ、来週誕生日だろ!そこで埋め合わせさせてくれ。
悠斗:え、う、うん。
達也:……なんか予定、あった?
悠斗:ううん、何にもないよ。母さんも仕事だし,暇してるところだった。
達也:そっか、じゃあ来週楽しみにしてろよ!
悠斗:わかった。頑張って来いよ!
達也:おう!じゃあな!
0:達也を見送る悠斗。
悠斗:さてと……どうしよ。夕飯入らないって言っちゃったしな……。ゲーセンあたりで暇つぶすか。


健司:あれ、悠斗じゃないか。
悠斗:え……。
健司:久しぶりだなぁ! 随分でかくなったじゃねぇか。
悠斗:なんで、あんた、が……。
健司:なんだ、幸子と一緒じゃねぇのか。久しぶりにアイツにも会いたかったんだけどなぁ。
悠斗:勝手なこと言うなよ! 母さんを傷つけといて何言ってんだよ。
健司:はいはい、悪かったって。そんで、お前は何してんの?
悠斗:別に……。
健司:……ふーん。
悠斗:なんだよ。
健司:お前、恋してるんだ。
悠斗:は?
健司:肌艶がよくなってる。
悠斗:何気色悪いこと――
健司:ちょっとこっちこいよ。
悠斗:痛っ、なんだよ、離せよ。
0:路地裏に引きずり込む。
悠斗:いい加減離せよ!
健司:ちょっと黙ってろって。(手の自由を奪う)
悠斗:っ!?
健司:やっぱり見ない間に色気が増したなぁ。さすが幸子と俺の息子だ。
悠斗:やめ、ろって……
健司:お前に色気が出たのも、恋がきっかけだったもんなぁ。
悠斗:?!
健司:なんて言ったっけ、幸子を好きな男。あいつを気に入って懐いて……そしたら色気でてきたもんなぁ。
悠斗:なんの、話だよ! 離せよ!
健司:俺、そういうの敏感だからさ。隠さなくていいんだぜ? 父ちゃんに話してみろって。
悠斗:……やだ……。
健司:強情だなぁ……、じゃあちょっとばっかし身体に聞くか。
0:健司が悠斗の首筋に舌を這わせる。
悠斗:っ!
健司:(耳元で囁く)やーっぱり,悠斗はここが弱いなぁ。あの頃と変わってなくて安心したよ。
悠斗:や、だ……はな、して……。
健司:大丈夫だって,ちゃんと優しくしてやるから――
博貴:その手を放してください。
健司:は?
悠斗:ひろ、き、さ……。
博貴:うちの息子に何してるんですか。貴方は接触禁止のはずですよ?
健司:……あぁ、思い出した。幸子の男。
博貴:伊丹です。伊丹博貴。そして伊丹悠斗の父親です。
健司:“いまの”だろ?
博貴:そんなことはどうでもいいです。貴方が悠斗の元父親であろうが,いまはその権利はない。
   ましてや……(悠斗に目をやる)
   うちの息子にこんなことを……ただで済むと思わないでください!
健司:単なるスキンシップじゃねぇか。親子のスキンシップ。
博貴:嫌がってる相手に対してスキンシップという言葉は使いませんよ!
健司:はいはい、わかったわかった。離れますよ。
   (悠斗の耳元で)よかったな、王子様の登場で。
博貴:(胸ぐらをつかむ)あんた!!
健司:はいはい、俺は退散しますよ。
博貴:ただで済むと思わないでくださいね。後ほど然るべき処置を取らせてもらいます。
健司:いくらでもどうぞ。ただ一つだけ言っとくけどな。
   (博貴の耳元で)そんなに大事なら,ちゃんと心の奥まで聞いてやれよ。
博貴:そんなことあなたに言われなくても――
健司:そんじゃあなぁ~!幸子によろしくぅ!
0:悪びれもなく商店街の人込みに消えていく健司。
0:しばらく無言の二人。ぽつりぽつりと雨が降ってくる。
博貴:えっと……大丈夫かい?悠斗く――
悠斗:っ!(博貴に抱き着く)
博貴:……怖かったよね、もう大丈夫だよ。俺がついてるから。
悠斗:ひろ、き……さん……。
博貴:とりあえず、家に帰ろう。風邪ひいちゃうから……。
悠斗:……。

0:自宅。タオルをもって悠斗の部屋に入る博貴。
0:ベッドに腰かけてうつむいている悠斗。
博貴:悠斗君、タオル持ってきたよ。
悠斗:……ありがとう、ございます……。
博貴:大丈夫、俺がついてるから。まずは落ち着いたら何があったか教えて。
   もちろん話したくないことは話さなくていいから。
悠斗:………。
博貴:怖かった……よね。ごめん、もっと早く駆け付けていれば、こんなことには……。
悠斗:……。
博貴:俺にできることなら何でもするから。遠慮なく言ってくれないかな。
悠斗:……なん、でも?
博貴:うん、なんでも。だって悠斗君は俺にとって大事な存在だから。
悠斗:……じゃあさ……。
博貴:……え?
0:博貴を押し倒すと,覆いかぶさる悠斗。
博貴:ゆ、ゆ、ゆう、とくん!?
悠斗:何でも、してくれるんですよね。
博貴:う、ん。言ったけど……えっと――
悠斗:あの男に触られたところが気持ち悪いんです。
   好きでもない奴に触れられて、愛されて、気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がないんです。
博貴:悠斗君……
悠斗:僕は……僕は貴方が好きです。
博貴:え……
悠斗:貴方に触れられると幸せで、貴方に名前を呼ばれるたびに嬉しくて、貴方に愛されたくて……
博貴:ちゃんと君のこと好きだよ、大切だ。
悠斗:僕の好きと博貴さんの好きは違うじゃないですか。
博貴:それは……。
悠斗:お願いです……ちゃんとこの後は息子に……いい息子に戻りますから……
博貴:悠斗君……
悠斗:僕を愛して、一度だけでいいから……。
博貴:えっと……
悠斗:何でも、して、くれるんでしょ?
博貴:(生唾を飲む)
悠斗:博貴さんのここ……ちゃんと反応してる。
博貴:っ!ま、まって、だ――
悠斗:(耳元で)大丈夫です。僕、博貴さんのためにいっぱい勉強しましたから。
博貴:ゆう、と、く……
悠斗:博貴さん……、いいよね?

0:玄関のドアが開く音
幸子:ただいま~。あら、二人とも~帰ってきてるの~?

悠斗:っ!?
博貴:え、あ……。
悠斗:ご、ごめん、なさい……。
博貴:ちょ、まって、悠斗――
悠斗:ごめんなさい!
0:部屋を飛び出す悠斗。
博貴:悠斗くん!
幸子:え、悠斗?ちょっと悠斗!?どこ行くのよ!

0:ファーストフード店前。バイト終わりの達也が店から出てくる。
達也:お疲れさまでした~。……って悠斗?!
悠斗:……たつ、や……。
達也:お前どうしたんだよ、ずぶ濡れじゃねぇか!
悠斗:(泣き出す)達也、僕……どうしたらいいか……。
達也:とりあえず、俺の家に来いよ。な。
悠斗:……。

0:達也の家。
達也:ほれ、タオル。
悠斗:……ありがとう。
   おじさんは?
達也:今日は飲み会があるって言って遅いんだと。
悠斗:そっか……。
達也:……何があったんだよ。
悠斗:……。
達也:……まぁ言いたくないならいいけどさ。
悠斗:……博貴さんを……押し倒した。
達也:は!?どういうことだよ!!
悠斗:だから!博貴さんを押し倒して襲っちゃったんだよ!
達也:なんで急にそんなこと――
悠斗:達也と別れた後、偶然父さんが現れて……
達也:……あのくそ野郎に何かされたのか。
悠斗:ちょっとだけ……でも、博貴さんが助けてくれて……。
達也:……。
悠斗:それで、なんかもう感情がめちゃくちゃで、わけわかんなくなって……
0:悠斗を抱きしめる達也。
悠斗:たつ、や?
達也:怖かったんだよな……苦しかったんだよな……。
悠斗:達也……。
達也:大丈夫だ、俺はお前の味方だから……大丈夫、大丈夫。
悠斗:達也……ありがとう……。
達也:それで、博貴さんに拒絶されて……あんな雨の中にいたのか?
悠斗:……いや、それはわかんない。その前に母さんが帰ってきちゃったから……。
達也:……そっか。
悠斗:……でももう家に帰れないなぁ。
達也:なんでだよ。
悠斗:だってさ、義理の父親が好きだなんてさ……男が好きでも問題なのに、その相手が父親って……。
達也:……。
悠斗:きっと、母さんにも引かれてるだろうな。
達也:……悠斗。
悠斗:だからもう家には帰れない……。
達也:じゃあ、うちにいろよ。
悠斗:達也……。
達也:俺がお前を幸せにしてやる。
悠斗:……はは、ありがとう。やっぱり頼るべきは親友だな。頼もしいよ。
達也:本気だぞ!
悠斗:ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい。
達也:……お前がパパさんに抱いてる気持ちと同じって言ってもか。
悠斗:え?
達也:俺は悠斗が好きだ。ずっと昔からずっとずっと。
悠斗:達也……。
達也:俺なら悠斗のことをすべて受けられるし大事にできる。
悠斗:えっと……。
達也:それともこんなこと言われて、気持ち悪い?
悠斗:ううん、そんなことないよ!そんなことはないんだけど……。
達也:だけど?
悠斗:達也のことは大事だし、好きだけど……同じ好きじゃないというか……。
達也:親友として、好きってことか。
悠斗:うん……。
達也:……なぁ、キス、できるか試してみようぜ。
悠斗:は?何急に――
達也:キスができるってことはちゃんと真摯に向き合うつもりでいるってことだろ?
悠斗:……。
達也:……黙ってるってことは肯定ってとらえるけど、いい?
悠斗:……。
達也:好きだ、悠斗……。
0:悠斗の携帯がなる。ディスプレイには「博貴」の文字。
悠斗:あ……。
0:鳴り続ける着信音。
達也:……でねぇの?
悠斗:……出てどうするんだよ。
達也:………はぁ。(通話ボタンを押す)もしもし?
悠斗:ちょ、達也!?
博貴:もしもし!悠斗君!いまどこ!?
達也:悪いけど、おっさんには渡さない。悠斗は俺のもんだから、じゃあね。
博貴:何を言って、君は――(通話終了)
悠斗:達也!?
達也:俺の悠斗を傷つけたんだ、これくらいしたって罰が当たらねぇだろ。
悠斗:達也!
達也:ほら、やっぱり。
悠斗:やっぱりって……。
達也:大好きなんだろ、博貴さんのこと。
悠斗:……。
達也:素直になれよ。ちゃんと好きな人と向き合えって。
悠斗:でも……。
達也:ダメだったら俺が慰めてやる!いろんな意味で。
悠斗:はぁ!?何言って――
達也:言ったろ? 俺はお前の味方だ。だから大丈夫。当たって砕けてこい。
悠斗:……達也。
0:玄関のチャイム音とドアを激しくたたく音。
博貴:悠斗!そこにいるんだろ、悠斗! 達也君!たのむ、悠斗に話があるんだ!
悠斗:ひろ、きさん……なんで。
達也:すげぇよなぁ、おっさんの悠斗を大切にしたいって気持ち。
   いま開けますから、ちょっと待っててください。
悠斗:………。

0:玄関で博貴を向かい入れる達也。
達也:どうぞ、奥にいます。
博貴:ありがとう。

0:リビングの扉があく。
悠斗:博貴さ――
博貴:悠斗!
0:悠斗を思いきり抱き締める。
悠斗:博貴、さん?
博貴:ごめん、苦しませてしまって。
悠斗:えっと……。
博貴:ずっと君の気持に気付かなくてごめん。
悠斗:……。
博貴:苦しかったんだよね、ずっとさ。俺がちゃんとしてなかったばっかりに……。
悠斗:違う……、違うよ、博貴さん、僕が、僕が貴方を好きに、なっちゃったから……。
博貴:……ごめんね。
悠斗:っ!
博貴:本当に、ごめん。
悠斗:………いいんです、だって気持ち悪いですもんね。息子に……男にこんなこといわれ――
博貴:そうじゃなくて!
   ……そうじゃなくて、子供の君から告白させてしまって、その、ごめん。
悠斗:え。
博貴:あの時、君に押し倒されたとき……、驚いたけど、嫌とかそういうのは、なかったんだ。
   もちろん戸惑ってるし、どうしていいかわからないのは変わらないんだけど……
   でも君が、悠斗が大事だってことは変わらなかった。
悠斗:博貴さん……
博貴:俺は幸子さんが好きだった。だからその幸子さんが大切にしているものを大切にしようと決めた。
   だから君を心の底から大切にしてた。
悠斗:……。
博貴:君に好きだといわれて、その……嬉しかった。
博貴:幸子さんの代わりとかではなく、悠斗自身が大切なんだって改めて気づいたんだ。
博貴:って、言ってることが滅茶苦茶でごめん。俺自身もまだ整理ができてなくて。
悠斗:……ねぇ博貴さん。
博貴:……なんだい?
悠斗:いまでも母さんが好き?
博貴:好きだよ。でももう恋愛とかではないかな。家族としてだ。
悠斗:じゃあ僕のことは。
博貴:好きだよ。いままでは家族としてだったけど……その、いまは、一人の人間として。
悠斗:………じゃあ、キス、できる?
博貴:………。
悠斗:……やっぱり――
0:軽く触れるキス。
博貴:もちろん、喜んで。
悠斗:っ!?
博貴:その……同性経験とかはないからさ……その……ペースはゆっくりだと助かる、ので。
悠斗:博貴さん!大好きだ!

0:玄関でリビングの様子を見る二人。
幸子:何とか丸く収まったみたいね。
達也:ですね……。
幸子:まぁまぁ失恋なんてよくあることよ、少年!
達也:うちの母さんに失恋したんですか?
幸子:あら、してないわよ?両想い♡
   っていうか、私的にはたっちゃんを応援してたのよ? 愛する人の息子が嫁に来てくれるなんて最高じゃない。
達也:それを言うなら婿じゃないですか? あいつはどっちかっというとネコでしょ。
幸子:よくわかってらっしゃる。
達也:応援してるんならもっと援護射撃してくれてもよかったんじゃないですか?
幸子:えぇ? でもぉやっぱり一番は自分の息子の気持ちだから♡
達也:はぁ……っていうか、おっさんに連絡したの幸子さんでしょ。
幸子:相談に乗ってやってほしいと思ったのに……あいつ、相変わらず斜め上いくんだから困ったもんよ。
達也:その点について、俺、怒ってるんですからね。悠斗に怖い思いさせて。
幸子:それは悪かったって思ってるわ!でもさ……

幸子:結果的にみんな幸せだからいいじゃない。
   人生なんてどう掛け合わさるかわからないんだから。

悠斗:博貴さん、博貴さんも言ってください!
博貴:えっと……その、……好きだよ、悠斗。


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