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浪花心霊オプ・文楽太夫変死事件(最終話)

11.

 「BODYMAKER presents GLADIATOR030」
 スクリーンに白抜きの文字が躍った。
 リングアナウンサーが高らかに開幕を告げると、コールに合わせて入場してきたMMAファイターたちがケージの中と外にずらりと並んだ。
 (これぞ血沸き肉躍る光景や。)
 大仕事を終えた沼澤は、ケージファイトの観戦に来ていた。横井への礼も兼ねて、チケットは横井に頼んだ。
 会場は人であふれかえっていた。176boxのキャパを上回る盛況で、前売りは早々に完売したと聞いていた。
 (横井さんに頼んどいて正解やった。)
 ホテルからも謝礼が出たのでVIP席を奮発した。
 見通しが良くケージが近い最高の座席で、贅沢な時間を堪能した。
 
 あれから、太夫の変死に関して意外な真実が明るみに出た。
 太夫の体内から検出された毒物は、女が持参したワインに含まれていたことがわかった。
 太夫はワインの中に毒物が含まれていることをどうやら把握しておらず、女を絞殺したあとで、ワインを一本開けて泥酔し死に損ないを装って自分だけ助かる算段であったが、女がそれを読んでいた。
 とどのつまり太夫を殺害したのは不倫相手の女性だったが、呪い殺されたのではなく、毒物による殺害だった。
 太夫の周辺で惨死した者のほとんどが自分らに襲い掛かってきたロイヤルミヤコホテルインペリアルスイートルームでの一夜。不倫相手の女性だけが連座していなかったことを鑑みると腑に落ちる話だと、沼澤は思った。
 

 休憩時間に、横井レフリーが近づいてきた。
 「お疲れさん。沼澤さん。」
 「横井さん、めっちゃ良い席や。どうもありがとう。」
 「沼澤さん、サウナで仲良くなった人形遣いさんからも、呼ばれてるのと違いますか?」
 沼澤は頷き「あれからサウナで会うたびにいろいろ教えてもろて、文楽にも興味は湧いてる。せやけど・・・。」
 
 「あっちは世界で既に認められた大阪発祥の伝統芸能やけどな、こっちはいま大阪から世界を目指しとる。いまここから、これからや。俺がきょうここで見た選手がRIZINで名を上げてUFCに出て行ってアレックス・ペレイラやショーン・オマリーにKO勝利決めてくれるかもわからん。それを思うと、ワクワクしてくるんや。」
 
 
 リングアナのアナウンスが響いた。
 「まもなく試合が再開します。お席にお戻りください。」

 横井は、沼澤に耳打ちした。
 「うちとこの会長さんの知り合いにビジネスホテルのオーナーがおってな・・・。そっちの心霊現象も調査してくれってゆうてきとる。また連絡するわ。」
 「ギャラ聞いといてくれ。」
 横井は笑いながらジャッジ席へと戻っていった。
 
  「地獄の沙汰も金次第や。命懸けた仕事の値段は、負かりまへんで。」
 沼澤はひとりごちて、ニヤリと笑った。

 終
 
 
 

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