奈落の鳥 (アヤの妖怪退治シリーズ)
私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
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■登場人物
語り
アヤ
説明のつかないような怪異が関わる事件の解決を生業としている。
ガラーホワ
アヤの行きつけの喫茶店のマスター
トキエ
今回のアヤの依頼人。鳥に襲われるというのだが?
ヒトシ
トキエの息子。中学生。
鳥使い
トキエの夫。獣使い。主に鳥を使う。
ハル(回想)
アヤの兄。武術の天才。俊敏多才な技を持つ。二十代後半。
素早い飛行能力のあるやっかいな妖怪の群れやっつけた過去があるらしい。
■登場してないけれど話題に出て来た人物
アヤの祖母
???
クラサワ
教会の司祭。もと、反社会的勢力の大物。
ある事件をきっかけに改心する。(「虹色の糸」参照)
カオル
教会の使用人。
ある事件で、ガラーホワに助けられ、クラサワの所で働くようになった。
■1.
ヒトシ: おい!
語り: あるホワイトデーの日のことだった。あたしが、ガラーホワさんのお店に入ろうとしたら、少年が立っていた。あ、この子は……
アヤ: なに?
ヒトシ: えっと、その……
(SE) カランカラン
ガラーホワ: あらーアヤちゃん! 彼氏?
アヤ: 違う!
ヒトシ: 違う!
アヤ: こんなガキと!
ヒトシ: こんなヤンキーと!
ガラーホワ: まあまあ、寒いから、お店に入って入って。
語り: あたしと少年は、凄い力で、ガラーホワさんの喫茶店に引きずり込まれた。
ガラーホワ: さあさあ、座って、お茶入れるから。馴れ初めを聞かせて?
アヤ: ガラーホワさん! そんなんじゃ……だって、この子……
ガラーホワ: あら、禁断の関係?
アヤ: 違います!
ガラーホワ: じゃあ、どういうお知り合い?
■2.
語り: だいぶ前のことだった。加賀トキエという、女性の依頼があって彼女の自宅に招かれた。
アヤ: ……鳥に襲われる?
トキエ: はい……私も息子も。カラスとか、スズメとか、ヒヨドリとか……トビが襲って来たこともあります。
アヤ: なんか……鳥全般?
トキエ: はい。だから、危なくて私も息子も家から出られないんです。だから、申し訳無いとは思ったのですが、家に来ていただきました。
アヤ: カラスだったら、巣の近くを通ると襲われるって聞いたことあるけど……
トキエ: 野鳥に詳しい人に聞いてみたのですが、カラスが雛を守るために襲ってくる時期とも違うし、カラス以外の鳥も襲ってくるのは、ヒッチコックじゃあるまいし……わけがわからないと言われました。
警察に相談しても、警察官の方が来た時は、何も起こらないし……。
アヤ: いつごろからですか?
トキエ: 二週間くらい前に、突然、カラスに襲われて、ハンドバックで防ごうとしたら……
アヤ: ハンドバックぐらいブチ抜くだろうね。カラスどうかするとトビより強いから。で、何か、思い当たることないですか?
トキエ: それが何も……
アヤ: あの……秘密は守るから、隠さないで話して欲しいんですけど……
トキエ: え?
アヤ: なんか、隠してないですか?
トキエ: いや、あの……その……
アヤ: なんか恨まれるような覚え無いですか?
語り: 依頼人は、青ざめた顔になった。やっぱりか。
アヤ: いろんな依頼人に言うんですけど、正直に話してくれないと、結局、助けてあげられない。
トキエ: 主人……元主人……が……、優しい人だったんですけど、事業に失敗してから、お酒ばかり飲むようになって、息子や私に暴力を振るうようになったんです。それで、苦労して、二年前に別れました。
アヤ: …………うん
トキエ: その後、私はお付き合いする人ができて……あの人の暴力で悩まされてたとき、いろいろ助けてくれた方で、その方と……その……再婚しようかという話になって……息子も賛成してくれて……
アヤ: あーあーあー……元旦那さんが、それで、トキエさんに嫌がらせするために、特殊な能力者に依頼して、鳥をけしかけてるのかも。
トキエ: 特殊な能力?
アヤ: 「獣使い」と言って、ほかの生き物と波長を合わせられる人がいるんです。古い記録だとアッシジのフランチェスコは、小鳥と話せたっていうし、明恵(みょうえ)って人は、遠くの生き物の様子を見抜いて、周囲の人が驚いたとか、そんな話があります。
フランチェスコや明恵と違って、それを悪用する者もいる。荒唐無稽で信じられないかもしれないけど。
トキエ:【2-25】 ……いえ、信じます。
アヤ:【2-26】 …………ん?
トキエ: 元主人は、生き物と話すことができました。本当に、その生き物が、彼の言う通りに動くので最初は、びっくりしました。こんなこと誰に言っても信じてくれないし……。
アヤ: あらま………雇ったんじゃなくて、本人が能力者なのか……
トキエ: 結婚する前……主人と付き合い始めたとき、不思議な人で、凄いなあと思ってました。シャイな人だったけど、凄く優しくて……でも、仕事がダメになったらすっかり変わってしまって……。
アヤ: なんだ……最初から犯人の目星はついてたんじゃないですか! ……たぶん、その元旦那が、鳥をけしかけてるんだと思う。
トキエ: …………どうしたら……?
アヤ: その元旦那を捕まえたい所だけど……って、息子さんは?
■3.
(SE) 二人が走る音
語り: あたしとトキエは、走って息子を探していた。
トキエ: ……気をつけてたんですけど……
アヤ: まあ、思春期の子が無理やり引きこもらされたらねえ……うーーーん……この流れは……
語り: トキエは、青ざめた顔のまま、走っていた。そしたら、傷だらけの二人の男子が走ってきた。
アヤ: おい! どうした?
少年A: カラスが!
少年B: カラスが襲ってきて……夢中で逃げてたら、いつの間にか、ゴカ神社の森に入り込んじゃって……ヒトシが!
アヤ: あー……誘導された……
トキエ: 誘導?
語り: うん。おっと!
(SE) 羽ばたく音、鎖の音、ビュンという音とバキっという音。
語り: あたしは、ボーラを取り出して、襲って来たカラスを始末した。
ボーラは、紐や鎖で重りを繋いでいる武器だ。
アヤ: ……罠だよなあ……。
トキエ: え?
アヤ: ヒトシくんが、誘導された森に、たぶんヒトシくんだけでなく元旦那もいる。トキエさんも森に誘い出して……
(SE) カラスの鳴き声と羽ばたく音。
トキエ: きゃあ!
アヤ: うおっと!
(SE) カラスの鳴き声、ビュンという音、バキっっという音。
語り: 森の上には、カラスがたくさん舞っているし、鳴き声がこだましている。あたしは、立ち止まった。
■4.
トキエ: え?
アヤ: 応援を呼ぶ!
語り: あたしは、携帯電話を取り出した。
トキエ: 急がないとヒトシが!
アヤ: 森の上を見てよ! あんな数を一人や二人では、無理!
ばあちゃん? 加賀トキエさんの件。相手は、獣使い! カラス数百を使役(しえき)! 依頼人の子どもが危ない! 場所はゴカ神社の森。大至急、誰でもいいから、たくさん……え? みんな、遠くに出払ってる?
ヒトシ:うああああああ!
トキエ:ヒトシ!
語り:トキエは、止める間もなく森に走っていってしまった。あたしは、改めて森の上空を舞ってるカラスたちを見た。
アヤ:(唾を飲みこむ)あ、あたしが、あれ全部、相手すんの………………?
あああああーーーー! もううううううう!
語り: あたしは、ゴカ神社の森に入った。もうこの神社は、後継ぎがいなくて荒れ果てている。トキエさんに追いついた。
トキエ: ヒトシ!
語り: 少年が、傷だらけになって、倒れていた。トキエさんが、駆け寄った。ヒトシは、重傷ではないが、かなり痛めつけられたようだ。あれ? カラスの攻撃、止んだ?
(SE) 邪悪な気配全開の音
語り: 禍々しい気配が立ち込めていた。木々の枝には、無数のカラスが集まってきていた。
そして、一斉に鳴きやんだ。カアカア鳴かれるより、これだけの数の鳥が、静かになるほうが恐ろしかった。
タイミングを見て総攻撃って感じか?
アヤ: (呼吸法を使う感じ)ふー!
トキエ: こ、これって……
語り: ちっ! 祠があるけど、三人は入れそうにない。
アヤ: 二人で、そこの祠(ほこら)に入って。まず、中に、鳥がいないか確認して。あたしが、合図するまで、絶対に外に出ないで!
トキエ: え? え? え? え?
アヤ: ああ、もう! 急いで! 早く!
(SE) 襲ってきたカラスを、二匹倒す音。
(SE) 足音と、祠を閉める音。
語り: 入っていったトキエさんやヒトシが大騒ぎしてないから、祠の中に伏兵はいなかったようだ。
■5.
アヤ: ふー! もうちょっと、マシな武器持ってくればよかった!
語り: 祠の前の空間は、余計なものがないから、ボーラを存分に振り回せる。
でも、この数がヤバイ……
飛行能力のある敵、チスイアゲハの群れと戦ったことはあるけど、蝶とカラスでは、スピードと重さが全然違う。そして、チスイアゲハは、三十くらいだったけどう見ても、これ、二百以上はいるだろ……
アヤ: ふぅうううう!
語り: こんな時、ハル兄(にい)はどうするだろうか。ハル兄はもっとヤバイものと戦ってたことがある。あんな速い生き物と戦えるなんて、ハル兄は、どうかしてる……
(回想)
ハル: いいか。余計な事を考えると、体は硬くなる。持久力が勝負の時は、命取りだ。それに、ぐずぐず考えると脳は大量の酸素を消費する。持久戦の最中は、余計なことを考えるだけで、どんどん呼吸が乱れ悪循環する。
(回想終わり)
アヤ: ハル兄(にい)みたいに、天才だったら、余計な事を考えないでも済むかもしれないけどさ……
ふうううううううう……
語り: 術師を倒せば話が早いんだけど、術師の気配は、無数の鳥にかき消されてしまっている。全部やっつけるしかない……
幸い鳥は骨が脆い。一発当てれば、骨が砕ける。
…………そうだ。大型の鳥は、パワーはあるけど、空中衝突の可能性があるから、一斉には来れない。でも、数百…………やっぱり持久力の勝負……
……四方から来るから、視覚だけじゃだめだ。波動の気配をつかんで…………正確に……立体的に……接近してくる……スピードと位置を……
(SE) カラスが襲ってくる音。
アヤ: はあああ!
語り: カラスは相変わらず、黙々と、淡々と攻めて来る。
(SE) 襲ってくるカラスの羽ばたき、武器と体術で、カラスを殺していく音。しばらくの間。
アヤ: はあ、はあ、はあ。
語り: どれだけ戦ったか、どれだけ倒したか、見当もつかない。……
ヤバイ……ボーラのチェーンが、なんか、変だ。数が多過ぎる。チャチなボーラじゃ、耐久力が……
アヤ: あと少し! くそおおお!
(SE) 再び、戦う音。
アヤ: はあ、はあ、はあ、はあ……
語り: ……大きな森でなくてよかった。大きな森だと、カラスは数千羽くらい集まることがあるって聞いたことがある。
アヤ: はあ、はあ、はあ、はあ……出てきていいよ!
■6.
(SE) 扉の開く音。
ヒトシ: ひええ……! こ、これ、全部一人で……?
アヤ: ……ああぁ! もう! カラスは、なんも悪くないのに……こんな殺生したくなかった……
語り: あたしは、気配を感じる方へ歩いていった。骸骨みたいに痩せた男が息を切らしながら、樹木の幹に寄りかかっていたが、男は勝手に倒れた……。
鳥使い: はあはあ……ごほっ、げほっ!
語り: 男は吐血した。
鳥使い: ………お前……何者だ……
アヤ: マジで死ぬかと思った! こいつ、ぶっころ………ん?
語り: なんか様子が変だ。男の命の火が弱過ぎる。
トキエとヒトシがやってきた。
アヤ: ……こいつが元旦那?
トキエ: はい……
アヤ: 帰って……
トキエ: はい?
アヤ: こいつが、二度と付きまとわないようにするから、二人とも帰って。
ヒトシ: こ、殺すの?
アヤ: バーカ! こんなの殺す価値も無い! いいから帰れ!
語り: 二人が去ったのを確認すると、あたしは、男の手首をつかんだ。男の波動を読む。やっぱりだ。
アヤ: …………あんた……病気?
鳥使い: ……それが、どうした……
アヤ: あんたの命の火の弱り方は、不治の病とかだね? そして、数百のカラスの使役。力を使い過ぎだ。……もう、あんたの体力じゃ、二度と良いことも、悪いこともできなそうだね……
鳥使い: はあ、はあ、はあ(息切れ)。くそっ…………!
語り: あたしは、携帯電話を取り出した。
アヤ: あ、クラサワ? 看取って欲しい奴がいるんだけど、いい? そんなに、長くはもたないと思う。もって数日くらいかな……
忙しい!? ふざけんな! あんた、どれだけ、あたしに借りがあるかわかってんの? じゃあ、カオルは? カオルは、大丈夫? それだったら、先生にも連絡しといてよ……
鳥使い: 何を……してる……
アヤ: うーん? あんたが一番嫌がりそうなこと。
鳥使い: ……は?
アヤ: あんたの看取りの場所と人の手配。
鳥使い: なんだと?! やめろ! これ以上、生き恥を……
アヤ: だよね。あー、恥ずかしい!
敵に情けをかけられて……
鳥使い: だから、止めろ!
アヤ: ふん! DVの上にストーカーしてた奴が偉そうに。しかも、自分は手を汚さず鳥を使って? 最低な癖に、プライドだけは高いんだねえ。
鳥使い: お前に……何がわかるというのだ。どうせ、俺は一人で死んでいく……
アヤ: 自分は寂しく独りで死んでいく。別れた奥さんは、幸せになっていく。それが、悔しかったてか?
鳥使い: 俺と別れる前から、あいつは……
アヤ: 人生がうまくいかないからって、暴力振るうからだろうが! ……殴っておいて、一途に自分を愛せっていうの?
馬鹿も休む休み言いなよ。
寂しいなら、寂しいって言えばいい。悲しいなら、悲しいって言えばいい。困っているなら困っているって言えばいい。
素直に言えたら、人生変わってたかもしれないのに。
鳥使い: 何をわかったようなことを……悲しい、寂しい、困っていると言って通じ合えるような世界だと本気で思っているのか?
アヤ: 詳しい事情は、わからないけど、変なプライドを捨てて、本気で気持ちを伝えたり、助けを求めたりした?
あんたからは、そういうものが伝わらないんだよね。
かわいそうな奴が、魔物になって、やっつけなきゃいけないパターン、もう、うんざりなんだよ!
高級なケアはできないから苦しい時間だろうけど、独りで死ぬよりは、マシだろ?
カオルは優しいから、多分、お前の気持ちを聞いてくれると思う。
ほーら、最後に、あんたが望んだ優しい人に出会えた!(ふざけた感じで)
……骨は拾ってやるよ……
鳥使い: うううう……やめろ……! 放っておいてくれ! 死なせろ! ほんとに……ほんとに……やめて……くれよぉ……(嗚咽)
アヤ: 暴力振るったり、いじけたり、思春期のガキかよ!
ぐずぐず言わないで、いい加減、観念しろっ!
正直、ここで野垂れ死にされても、こっちは寝ざめが悪いんだよ! お前、どうしよもないクズなのに、破格な扱いなんだぞ! 文句言うな!
■7.
ガラーホワ: そんな甘ったれなんて、放置で良かったのに。相変わらず捻じれ(ねじれた)た言い方してるけど、アヤちゃん、人がいいわねえ。
でも、気をつけた方がいいわよ?
かわいそうな人の難しさと危うさ(あやうさ)を、アヤちゃんだって、十分わかってるでしょう?
アヤ: ばあちゃんにも「お前の脳みそは、砂糖菓子か!」って言われました……
ガラーホワ: (笑)おばあさまもアヤちゃんとそっくりなのにねえ。
そういう輩にとっては、アヤちゃんの仕打ちの方が、いろんな意味で堪える(こたえる)かもしれないわね……何が正解なのかしら………………
あら、これ、ブランドの凄く高いチョコレートだわ!
語り: ヒトシが置いていったチョコレートをガラーホワさんは見ながら言った。
アヤ: あー。中坊の癖に無理しちゃって……
語り: ヒトシは、あたしに、チョコレートの包みを押し付けまっすぐあたしを見て言ったのだ。
ヒトシ(回想): アイツのこと……ありがとう……
語り: やれやれ、あのとき帰らないで、あたしと父親の話を隠れて聞いてたらしい。立ち去り際に、振り返って。
ヒトシ(回想): アヤさん、人として凄くかっこよかった! 尊敬する! 本当にありがとう!
語り: うわっと思った。不覚にも、あたしは、ちょっと、胸がきゅっとなった。
ガラーホワ: 最初、素直じゃなかったけど、ストレートないい子だったわね! イケメンだし。ぐっときたんじゃないの?
アヤ: ガラーホワさん……いくらなんでも、中学生は、ちょっと……それに、あたし、甘いものよりは、お酒の方が好きなんだけどな……
語り: といいつつも、あたしは、悪い気はしていなかった。
作品ご利用に関して
・この作品は、朗読、配信などで、非商用に限り、無料にて利用していただけますが著作権は放棄しておりません。テキストの著作権は、ねこつうに帰属します。
・配信の際は、概要欄または、サムネイルなどに、作品タイトル、作者名、掲載URLのクレジットをお願いいたします。
・語尾や接続詞、物語の内容や意味を改変しない程度に、言いやすい言い回しに変える事は、構いません。
・配信の際の物語の内容改変をご希望される場合は、ねこつうまでご相談ください。
・また、本規約は予告なく変更できるものとします。当テキストを用いた際のトラブルには如何なる場合もご対応いたしかねますので、自己責任にてお願いいたします。
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