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植物に聞いてみた ~ソテツ

私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
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語り: 校庭のソテツによりかかって、僕は、休んでいた。あっちの隅の方で、女子が男子に、チョコレートらしきものを渡しているのを見た。僕はため息をついた。
 
ソテツ: あんな砂糖菓子が、羨ましいのか……菓子屋が仕掛けたカラクリが続いているだけだぞ。
 
語り: なんか声が聞こえた気がした。
 
少年: おかしいな……
 
ソテツ: おかしくないぞ……?
 
少年: なんか、声が聞こえる。
 
ソテツ: そりゃ、私が話しかけてるからな。
 
少年: え?
 
少年: あ? ソテツ? 樹木?
 
ソテツ: そうさ。
 
少年: おかしいだろ! 植物がしゃべるなんて!
 
ソテツ: 波長が合って、まれに話せるようになることもあるのだ。
 
少年: 僕と、あんたと波長が合ったの?
 
ソテツ: 年上に向かって、あんた呼ばわりか?
 
少年: なんて呼んだらいいんだよ!
 
ソテツ: ソテツさんと言って欲しいな。菓子をもらうのが、うらやましいのか?
 
少年: ……もう羨ましくもないよ。
 
ソテツ: …………なぜ?
 
少年: あんなの別世界だから……
 
ソテツ: 別世界? お前くらいの年齢の男は、女の子のことしか考えない奴が多いのだがな。
 
少年: ……ゆとりがないよ。
 
ソテツ: ゆとり?
 
少年: 僕の兄貴、なんたらいう脳の病気でさ。当たり前のことができない。帰ったら、バイトにでかける母親と交代で、面倒見なきゃいけないんだよ……まだ、僕、アルバイトできる年齢じゃないからよ。
 
ソテツ: ………………そうか、大変だな。でも、無理してないか?
 
少年: 無理してるとか、してないとかじゃないよ! しなきゃいけないんだよ!
 
ソテツ: でも、ため息ついて、羨ましそうにしてるように見えたぞ。
 
少年: 疲れてたんだよ! あいつらと僕は世界が違うんだよ!
 
ソテツ: 世界が違う? 少なくとも彼らと同じ世界に生きてるだろう。
 
少年: ソテツさん! 僕の話聞いてた? どうしろっていうんだよ! 放り出すわけにいかないだろう!
 
ソテツ: 人間は、そういう問題を手伝ってくれる仕組みが無かったか?
 
少年: 母さんが、家に他人が入って来るの嫌だって言ってるんだよ。自分の子が障害者で恥ずかしいんだろ?
 
ソテツ: …………お前も、恥ずかしいと思ってないか?
 
少年: ああ、もう! そうだよ、恥ずかしいと思ってるよ! 友だちに、涎出して動けない兄貴の世話してる姿なんて、見られたくないよ! だから、僕は、あんな甘ったるい世界と関係無いだよ!
 
ソテツ: …………ソテツ地獄というのがあってな……
 
少年: ソテツ地獄? 
 
ソテツ: 私は、根っこに微生物を飼っていてな。
 
少年: は?
 
ソテツ: 窒素固定と言ってな。その微生物は、植物に必要な養分の一つ、窒素を抱え込んでくれるお陰で、私たちは、痩せた土地でも生きることができる。
 
少年: は? 自分で足りない栄養を作る能力があって凄いねとでも言って欲しいの?
 
ソテツ: だから、南の島の人たちは、私たちを荒れ地に植えたんだ。
 
少年: へえ。
 
ソテツ: 食べるために。私たちの幹には、デンプンが結構あるのだ。
 
少年: へえ。ソテツさん、食べられんの?
 
ソテツ: 結構強い毒があるがな……
 
少年: は? 食べられないじゃん!
 
ソテツ: 私の毒は水に溶ける。だから、何度も水に晒して日光に干せば食べられる。
 
少年: なんで、そんなめんどくさいことを……
 
ソテツ: 広い畑が作れない上に、大きな産業が無くて、たびたび食糧不足に陥ったからだ。毒を抜くには、日数が必要だ。飢えで、その日数を待てなくて、死んだ人も出た。その飢餓状態をソテツ地獄と呼んだのだ。
 
少年: ……なんだよ! お前なんか、食事が食べられるだけマシだって言いたいのかよ!
 
ソテツ: そうじゃない。生きることを諦めないで欲しいと思っただけだ。
 
少年: は? 諦めてないから、放り出してないんだよ!
 
ソテツ: いや……なんだか、問題を一人で抱え込んで、幸せに生きることを諦めているように見える。
 
少年: だから、どうしろっていうんだよ! 
 
ソテツ: 南の島の人たちは、毒のある私を利用してでも、生きるのを諦めなかった。おせっかいかもしれないが、君も、幸せに生きることを諦めないで欲しいと言うのは酷か?
 
少年: 何、青臭いこと言ってるんだよ! ああ、もう!じゃあ、言わせてもらうけどさ! なんで、その南の島の人たちや、俺は、そんなめんどくさいことしなきゃいけない運命なんだよ!不公平じゃないか! 世界が違うんだ
 
ソテツ: なぜ、そういう運命を授かる人がいるのかは、私には、わからない…… でも、諦めないで欲しいと思うのだ。君は、まだできることをやってない。恥ずかしいという気持ちを捨てて他人に、悲しさや辛さを話し、助けを求めることを、だ。
 
少年: なんでそんな無茶苦茶言うんだよ!
 
ソテツ: 君は、あの人たちと同じ世界線に生きている。それは、確かだ。自分とは世界が違うと言って、ガラスの壁を作り、自分の心も凍り付き、体は生きているが、心が死んでしまった人間をいっぱい見てきたからだ。ああなって欲しくない。君からも、死の匂いがする。心を閉じて、一人でいたら、本当に生ける屍になるぞ。でも、君はまだ手遅れじゃない気がした。ほら……
 
語り: …… 同じクラスの穂村キョウコが、何か包みを持って、ゆっくり歩いてくるのが見えた。
 
ソテツ: 彼女に何かしてあげたんじゃないのか?
 
少年: 教科書忘れたっていうから、見せてやっただけだよ……でも、彼女と付き合えたとしても、俺と世界が違……
 
ソテツ: 今は、話しやすい通信機器なんかがかあるのだろう?
 
少年: もし、長く付き合えたとしても、俺の家がやっかいな家だってわかったら……
 
ソテツ: なぜ、やってみないうちから、諦めるんだ。理解してくれる子もいるかもしれないじゃないか?
 
少年: 女なんて、金持ちのイケメンしか……
 
ソテツ: そうやって、数十年前に自分の人生を生きることを諦めようとしてた少年、戸田マサヒロという子に声をかけたことがあったのだ。彼も、どうせ、一生独りぼっちに違いないと言っていたな。
 
少年: え?……………… まさか………父さん?
 
ソテツ: なんか、君は懐かしい少年と同じ匂いがしたから、無茶を言ったのだ。女なんて金持ちのイケメンしか…… と言っていたのもそっくりだな……私は、君と出会って、彼がどういう人生を辿ったのか想像した。
嬉しかったのと同時に、君が彼と同じように自分の人生を諦めようとしている状況が、悲しかった…… 。失礼かもしれないが、彼もリッチでイケメンではなかったろう? 大変な人生だったかもしれない。死んでしまいたいくらい理不尽なことも多かっただろう。でも、少なくとも君のお父さんは、独りぼっちではなかったんじゃないか?さあ、君は、どうする?
 
少年: 僕は……
 
語り: 穂村キョウコが、すぐそばまで来ていた。
 
穂村: あの戸田くん……

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