「オーダーメイド」

気が付けばここに居た。

自分が誰かも解らないような状態で廃墟のような扉の前に立っていた。

ボロボロの癖に何処か作られたような、それを隠そうとしたような、そんな廃墟だ。

何故かその先に行かなければならない気がして、僕はその扉を開いた。

ギィィっと錆びた扉が開く。

部屋に入ってまず目に入ったのが…

「雀…卓…???」

中央に置かれた麻雀の卓だった。

何処か懐かしく感じながら、なぜ懐かしいのかも分からずその卓に近づく。

「いらっしゃい…」

卓の向こう側から声がかけられた、白い髪、いや銀髪の少女だった。
片側を三つ編みのお下げにして、少し露出が強めの赤い服を着ている少女。

「まぁ、色々意味は解らないとは思うんだけど、とりあえず座らない?」

そう言うと少女に卓の椅子を勧められた。
何も解らないけれど勢いに押されてとりあえず卓に座る。
今から麻雀でも打つというのだろうか?
二人しかいないが?


「そうね〜、似たような事をした事もあるけど今日は少し違うかな〜」


ケタケタと笑いながら彼女は対面に座る、イタズラっぽい笑い方はとても特徴的に感じられた。


口に出した覚えは無いのに心を読まれたように返される、なのに不快さを感じないのは不思議な感覚である。


「実はあなたに色々と聞きたいことがあってね?、それでこの部屋に呼んだの、色々突飛な事を聞くし意味が解らないかも知れないけど答えてくれると嬉しいかな?」


少女はフィンガーレスグローブを付けた指でそっと手元の牌に触れた。


「まずはそうね〜」


コトリっと2つの牌を倒す。
倒されたのは1萬と9萬。

「あなたはここに来る前を知らない、ここから何処に向かうかも解らないと思うのだけど私からのプレゼント。
未来と過去どちらか1つを見えるようにしてあげる。
どっちがいい?」


そう言われて2つの牌を目の前に指し出される。


1萬が過去で9萬が未来だろうか?


頭待ちでどちらにした方が来るのだろうか考える方が楽な気がする。


「ん〜、それじゃあこっちで。」


少し考えて1萬を選び出す。
少女は理由を聞きたそうに僕を無言で見つめている。

「いやね、麻雀って何が来るか解らないから面白いと思うんだよね。
だから未来が見えたら面白くないし台無しかなって?
それに牌譜とかって本当に勉強になるし、見れなくなると困る。
麻雀が強いだけじゃなくて、好きで居たいし。」


僕が一通り言い終えると少女はキョトンとした顔をした後に呆れたように何処か楽しそうに笑った。


ひとしきり笑った後、笑い涙を拭いながら少女は続ける。


「ふふ、あ〜、おかし…。
なるほどなるほど、わかった、じゃあ次に行こう、つぎ。
次はあなたの姿の話」


少女はまた手元から1枚づつ牌を私の前に置き出す。


「なんと私からの特別サービス、腕も足も手も耳も目も、心臓も胸も鼻の穴も2つずつ付けてあげる!
これで便利快適効率的、間違いなし!
ほら七対子みたいで素敵だし!
なんなら胸は大きめにしてあげるよ!」


なるほど、確かに2つずつなら七対子だ…
いや、しかし…


「でもそれ明らかに多牌じゃない??」


ギクリっと少女の肩が揺れる、なんだこの子は、僕で遊んでいるのか?


「口は1つだけで良いよ、よく頭の中で喧嘩するのに口が2つもあったらそれこそ1人で喧嘩しかねないし。」


そう答えた後にふと不思議に感じた。
自分はなんでこんな事が解るのだろうか?
ここに来た経緯も理由も良く覚えていない。
忘れたいような、でも忘れたくない、忘れられない、そんな不思議な感覚だ。


そんな思いに少し頭を回していると目の前の少女は不機嫌そうな顔で頬杖を付いていた。
正論で返されて機嫌を損ねたのだろうか…、とても人らしい。


少女は不機嫌な顔のまま、また仕方なく話し始めた。

「じゃあ1番大事な心臓は、両胸に付けてあげるからね?
良いでしょう?
1つが止まっても気にならない、そのまま歩き続けられるから…」


そう言われて少し考える…。
2つあってもいいかも知れない、その方が楽かもしれないと。
でも…


「……いや…、心臓も1つで良いよ、1つが良いよ。
だってどっちも待ちたいもん…、1人とだけキスが出来るように、大切な人を抱きしめた時に2つの鼓動が鳴るのが解るように。
1人でなんて生きていかないように…ね?」

少し悩んでそう答える。
その方が良い気がする、その方が素敵な気がする。

「両方捨てないなら結局多牌じゃん…」

「はは…、多牌だね…」


そう答えてお互いに笑った。

~~~~~~~

これで話し合いは終わりだろうか、それならそろそろ立つべきだろうか?

そう思って席を立とうと腰を上げる。


「あぁ、ごめんそう言えば最後にもう1つだけ」

立ち上がろうとする私を引き止めるように少女の声がかかった。


「涙もオプションで付けようか?
無くてもぜんぜん支障はないけど、面倒臭いから付けない人も居るよ?どうする?」


椅子に座り直して少女の正面に向き直る。
そして僕はその少女にお願いした。


「付けといて欲しいかな?
強い人より優しい人に、なれるようになれますように…、大切って言うのがなんだか解るように。」


なるほど…っと少女は一考した後に続ける。


「じゃあちなみに涙の味だけど、貴女の好きな味を選んでよ。
酸っぱくしたり塩っぱくしたり辛くしたり甘くしたり、どれでも好きな味を選んでよ?
どれがいい?」


そして僕は…

「望み通り全てが、叶えられているでしょう?
だから涙に暮れるその顔をちゃんと見せてよ。
さぁ、誇らしく見せてよ…。」

少女が笑う、泣いている僕を見て、何かを許すように、見送るように、楽しそうに。


~~~~~~~~~~

しばらく少女の前で泣いて、泣いて、泣き止んで…立ち上がった。

「ほんとにありがとうございました。
色々とお手数かけました…」

少女は気にしてないよ、と小さく手を振っていた。

僕はその姿に背中を押されるように、扉を開けて歩を進めた。

「あ、そう言えば…最後に1つだけいいですか?」


ふと思い出した疑問を後ろの少女に向ける。

「どっかでお会いしたことありますか?」


~~~~~~~~


あとがき

読みにくい文章を最後までお読み頂いてありがとうございます。
解釈違いやキャラクター象に違和感等ありましたら申し訳ございません。

参考背景にお借りした楽曲は
RADWIMPSの「オーダーメイド」となります

この文章は私の個人的な解釈や妄想の塊です。

ちなみに胸は不機嫌な彼女の彼女に対する少しばかりの八つ当たりということでどうか1つ(うそついた?)。



私は彼女なら彼女を許すんじゃないかな、っと思います。


きっと自分自身とよく話して、泣いて、許して、そして"今"を決めたのではないかと、私はそう思っています。

強い人より優しい人なんだと思います。

だから胸を張って今を楽しんで欲しい…泣いた分以上にもっともっと笑って欲しいと、私は素直に今そう思います。

過去も含めて今だから。

そういう優しくて素敵な人だと思うので私は今ここにいるし、駄文ながら筆を取らせて頂きました。

二人とも私は好きですし今後も1推しですよ。


彼女の道行に幸多い事を願って、締めとさせていただきます。


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