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ストーミングは幻?プレッシング戦術の歴史と進化

嵐を呼ぶ



こんなこと言うと「映画クレヨンしんちゃん」ですけど、英語でstorm。嵐という意味の言葉。天候で言うならば例えば台風ですけど、嫌ですよね。小学生の時は「明日もしかしたら休みになるんじゃね?」と淡い期待を抱いてむしろ台風来い来いと期待しながらも、夜中に荒らすだけ荒らして朝起きたら過ぎ去ってめっちゃ天気いいなんてこと、あるあるです。

基本、嵐は世の中をカオスにします。公共交通機関はマヒしますし、昨年の静岡は台風の影響で断水もしましたからね。実家の近くに浜崎あゆみが生活水を運んで来てたみたいですけど、悪天候で世界は混乱します。


これはサッカーに例えても同じです。
ストーミングと言われるプレッシングを軸に置くゲームモデル。統制のポジショナルプレーとは異なり、カオスを束ねるこそストーミングです。今回はそんな多数のフォロワーがいるこのスタイルを研究していきます。



カオスをもたらす者

■ストーミングの歴史

ストーミングの起源は芸術の国オーストリア。
ストーミングのアイコンである人物、ラルフ・ラングニックはドイツ人ですけど、ラングニックはレッドブルグループのSDとして、ドイツ・ブンデスのRBライプツィヒを筆頭にしたMCO(マルチ・クラブ・オーナーシップ)にてストーミングのプレーモデルを確立しています。この話はまた後で。

現オーストリア代表監督でもあるラルフ・ラングニック

ラングニック前ですと、革命的なプレッシング戦術の1つでもある「ゾーンディフェンス」を確立したアリゴ・サッキ。

アリゴ・サッキ

ボールを軸とした新たな理論でもあったゾーンディフェンスですけど、ボールに対してのプレッシング戦術ですね。そのサッキが影響を受けた人物が、オーストリア人のエルンスト・ハッペル。

この人

僕もあんまりよく知らないんですけど、亡くなってもう30年は経つらしいです。ポジショナルプレーにおけるペップやクライフがラングニックやサッキだとすれば、ハッペルはリヌス・ミケルスみたいな人。
主な経歴として、凄い人です。1970年にフェイエノールトでUEFAチャンピオンズカップ(当時)を制し、1978年W杯アルゼンチン大会ではオランダ代表を率いて準優勝。外国人監督のW杯準優勝は歴代で2人しかいないですけど、そのうちの1人です。その後、ブンデスのハンブルガーSVでもチャンピオンズカップを制して、史上初の別クラブでの欧州チャンピオン獲得を達成。凄いですね。

1970年代は現代サッカーに影響を与える指導者が数多くいます。ハッペルはプレッシングで、ミケルスはポジショナルプレー。あとアルゼンチン人のセサル・ルイス・メノッティはボールポゼッションの哲学において、現代サッカーの礎になってます。

ストーミングの流儀はハッペルが起源なのかな。ハッペルからプレッシング戦術の影響を受けた人が多くて、サッキの他にもラングニックもそうだし、フェリックス・マガトやマルセロ・ビエルサも同じく。ゲームモデルを確立したのはラングニックですが、そこから更にいろんな指導者がプレッシング戦術を模倣していきました。



■「ゲーゲンプレス」と「トランジション」の確立

ラングニックの築いたRBグループですけど、ライプツィヒを頂点に置くほか、オーストリア・ブンデスのRBザルツブルクも大きな役割を果たしています。実際にザルツブルクからは有望な選手が次々と輩出されており、その筆頭がアーリング・ハーランドですね。ゲーゲンプレスの流れを汲むと、代表的なのがハーランドと同時期にリバプールへ移籍した南野拓実。

ザルツブルク時代

そして、南野より先にプレミア、サウサンプトンですけど上陸したサディオ・マネ。

こちらもザルツブルク時代

ハーランドはドルトムントですけど、南野はユルゲン・クロップの下に。マネは後にそのクロップの下へ行きますけど、サウサンプトンではロナルド・クーマンの下に。たぶん、フェイエノールトの影響を受けてるクーマンは、バルサの監督で「なんか違うな」とは思ったんですけど、ポジショナルプレーよりストーミングの影響をかなり受けてると思う。

RBグループで、ザルツブルクという配給源を作ったラングニック。ザルツブルクからは選手だけでなく監督も多く出ていて、ロジャー・シュミットもそうだし、マルコ・ローゼ、アドルフ・ヒュッターもそうですね。あと、戦術ブロガーからプロの指導者に転身したレネ・マリッチとか。ライプツィヒからはハーゼンヒュットルが出ています。レンタルですけど、リバプールからサウサンプトンで南野を欲しがって獲得を進言したのはこのハーゼンヒュットルですね。いずれもプレッシング戦術の伝道師です。

ラルフ・ハーゼンヒュットル

間接的に影響を受けているとしたら、サッキ繋がりではファビオ・カペッロとか、ルチャーノ・スパレッティもそうか。
ビエルサから影響を受けたのが、今やサッカー界のマフィアのドン、ディエゴ・シメオネ。

オールブラック!!

そして、やはりこの人でしょう。直接的な繋がりこそありませんが、ラングニック一派と言ってもいいんじゃないんでしょうか。影響はモロに受けています、ユルゲン・クロップ。

ストーミングの流れに戦術的言語化として「ゲーゲンプレス」を生んだのがクロップ。プレッシング戦術において、ゲーゲンプレスというのは既に存在していた戦術だと思います。ゲーゲンプレスという言葉が確立できたのは、もう1つ大切な言語があって、それが「トランジション」。ゲーゲンプレスにおいて、なにが1番大切なのかというと、奪われた瞬間。相手が奪った瞬間。この僅かな、相手全員の意識が統率されていない時間を制す。カオスを起こすのはこの時間帯です。相手11人の意識がバラバラであるというのがサッカーにおけるカオスです。思考が停止してしまうのを狙いに行く。



■ストーミングの概念

かつて、「ポゼッション」vs「カウンター」の対立構造がありました。ボールを保持するのかしないのか、どっちなんだい!が問題定義でしたが、ポジショナルプレーとストーミングは、一瞬ですけどこの対立構造の1つとも思われます。
実際にポゼッション志向の高い監督はポジショナルプレーを、カウンター志向の監督はストーミングです。ですけど、ぶっちゃけボールポゼッション率はここでは全く関係ありません。非保持を主体に考えられたポジショナルプレーもありますし(例えばロイ・ホジソンとか)、ストーミング志向とはいえ、今季ナポリでセリエAトップのポゼッション率の高さを誇るナポリを率いているのはスパレッティです。

ポジショナルプレーはボールポゼッションを利用して相手を不均等にしていくんですけど、あくまでボールポゼッションは手段として最適解なだけなんですね。
ストーミングは、もちろんポゼッションしてもいいんですけど、ポジショナルプレーはポゼッションが1番最適であるのに対して、ボールを失うことに執着せず、ボールを狩り獲ることに全力を尽くす。

ポジショナルプレーは統率取れていることが望ましいので、例えば5レーンとかエリアを凄く細かく分けたりするんですよね。ポゼッションするためにはどうやってボールを前進させるのかは永遠のテーマであって、きめ細かい設定は必要です。
ですけど、ストーミングはポゼッションを第一として考えていないので、そこまでの仕組みを作らなくてもいい。カオスを起こして、相手を内部から破壊していく。5レーンとかは相手を外側から崩すための理論ですけど、ゲーゲンプレスは相手組織そのものがオンターゲットなので、5レーンの概念やってる感はなくて、ハーゼンヒュットルとか5レーンの概念のポジショニングやってないし、最近のリバプールはポジショナルプレーを取り入れていますけど、クロップも就任当初やドルトムント時代はそんなことやってなかったし。ストーミングはそんな凝ったことやらなくても、ポジショナルプレーとは考え方や概念が異なるので、相手組織の崩し方はまた別なのです。



■ストーミングは成り立つのか?

現在のサッカー界でストーミングの頂点に立つチーム、リバプール。現在のリバプールは、ボール保持のクオリティを求めてポジショナルプレーの要素を取り入れています。ポジショナルプレーを取り入れなければならなくなった理由としては、相手が「対リバプール」としてボールプレーを放棄したときに相手組織を破壊しきれないということ。ストーミング対策としてストーミングをぶつけるということです。

まず、ストーミングとしてのリバプールです。
今のリバプールのメンツと異なるのが、フィジカル能力やデュエルに長けたタイプが多いというところ。前線のサラーやマネはスピードあれば、中盤は控えにチェンバレンやミルナーも控えており、ファイター揃いです。

ハイプレスに関しては走力勝負なので、前3人がプレスで圧力を掛けて4-3-3のシステムそのものを押し上げる。相手を自陣という檻に閉じ込めて封印し、尚且つ組織をカオスに犯して内部から破壊していく。この辺りは現在のナポリに通じる部分でもありますね。

リバプールのプレッシングの特徴は、ウイングへのパスコースを消す。

マネとサラーがカバーシャドウでSBを消して、ウイングに対してはSBがマンツーマンで対処。つまり中盤、中に縦パスを出すしかないんですけど、

これを狙いたい。中盤はファイターなので、ココに全力プレス。ボールを回収。この一連の展開をネガトラ、相手からするポジトラの僅かな時間で済ませたい。勝負する時間、タイムリミットは本当にごくわずかです。これを機能させるためのフィジカル的な優位面を出していかなければならないし、ポジショナルプレーがテクニックが求められるのに対してストーミングは体力なんですね。あとボディコンタクト。これがリバプールにハマった。オフェンスに関しても、相手は内部崩壊しているので簡単に組織を取り戻すことは出来ないです。だから意外と簡単に点を獲ることができる。カオスとはこういうこと。

ポジショナルプレーと相対するチームは、やられる要因を突き詰めることができます。ですがストーミングと相対すると、カオスに犯されているので、気付いた時にはやられている。何故やられたのかが分からない。内部がカオスということは、やられたという感覚がマヒしているのです。実はこの傾向は組織としてかなりマズいのであって、だから永遠にやられる。リバプールがこのシーズン、開幕から半年以上負けなしで駆け抜けられたのは、ストーミングとしてのロジックが成立していたから。クロップのチームは数少ないストーミングを表現できたチームでした。




■ストーミングは流行しない?

ストーミングを表現できてるチームって、今はそんなになくて、リバプールですら5レーンにアレクサンダー=アーノルドの偽SBをやりだしたくらい。一貫して速さを追求し続けたのはシメオネのアトレティコくらい。スパレッティも、今季はナポリでいいシーズンを過ごせていますけど、インテルを解任された理由はストーミングの弊害をクリアできなかったから。ロジャー・シュミットもゼーマンも長期政権しないのは、ストーミングの先にたどり着く弊害を乗り越えられないから。ポジショナルプレーも同じですけど、なんか寿命はストーミングの方が短い気がする。


ストーミングの弱さ。それはカオスをコントロールできるキャパが選手層によって限られてくること。やはり、フィジカル的な強度を求められるからこそ、その強度に耐えられる層は必要で、リバプールもカオスの強度を極限まで強くしてプレミアを制したとはいえ、翌シーズン(20/21)にファンダイクなど怪我人続出すると自ら興したカオスの強度に自らが耐えきれなくなってしまい自滅する。クロップはハイプレスの罠に対する回答として統制=ポジショナルプレーを選択し、シメオネは選手を積極的に入れ替えるという策にたどり着いた。


ストーミングってやっぱ難しいっすわ。クラブの体力や戦術の幅の広さが求められるからこそ、それをやり続けられるクラブは限られるし、監督の能力は求められるしで。

テクニックが求められるポジショナルプレーとは違って、ストーミングに入りこめる選手ってのは割と多い。だけどその分、タイムリミットも早いというのが難点かな。ランゲラックが離れたライプツィヒも徐々にポゼッションに力を入れてきてるからね。さて、ストーミングの未来はいかなるものなのか。




次回予告

いろいろやりたいことあるけど、候補①レアル・マドリード、候補②トゥヘル後のバイエルン定点観測、候補③レアル・ソシエダのポジショナルプレーとは?


Thanks for watching!!


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