【ドラマ感想】『ウルトラマンデッカー』

あらすじ

 ウルトラマントリガーと地球防衛組織GUTS SELECTが地球の危機を救ってから7年が経った世界。地球は突如、宇宙から飛来した謎の生命体スフィアの襲撃を受ける。煎餅屋を営む青年アスミ・カナタもスフィアの攻撃に巻き込まれ命の危機に瀕するが、戦火の中、彼は光の巨人ウルトラマンデッカーに変身する力を得る。デッカーとなりスフィアを退けたカナタは、対スフィア部隊として再編された新生GUTS SELECTの隊員となり、仲間たちとともに街を襲う怪獣たちとの戦いに身を投じていく。(2021-2022年放送、監督:武居正能 ほか)


評価

★★★☆☆ 3.7点


予告編


感想

昨年放送のウルトラマントリガーの直接的な続編となる本作。ドラマとしては今一歩のまとまりを欠いた前作を受けて、本作では作劇が大幅に見直されている印象を受ける。

前作ではウルトラマントリガーに敵対するヴィランとして、3人の闇の巨人がシリーズを通して暗躍するという形を取っていたが、そのために闇の巨人と何度も再戦することになってしまい、物語にマンネリと停滞感が生じていた。本作でも、物語の黒幕としてバズド星人アガムスがシリーズを通して登場するが、彼の登場は後半2クール目の頭と遅く、その後は1回のスポット参戦を挟んで、主として登場するのは最終話4話のみというかなり抑えられた登場回数となっている。

前作の闇の巨人たちが全25話を通しての縦軸の物語を牽引していく立ち位置だったのに対して、本作のアガムスの役割はどちらかというとデッカーの物語に切りの良い終わりを設けることである。そのため、トリガーと闇の巨人との戦いというストーリードラマとしての側面が強かった前作トリガーに対して、本作デッカーは、GUTS SELECTとウルトラマンデッカーが毎回様々な特性を持つ怪獣たちに対し作戦を練り、これに立ち向かうというレギュラードラマとしての色合いが濃い。

これが本作では功を奏しており、登場回数が少ない分、アガムスを軸とした縦軸のストーリーの密度が高いため、シリーズ全体を通しての中弛みがなく、また、彼が登場しないレギュラー回はその回のゲスト怪獣にしっかりスポットを当てられるため、相乗効果でシリーズ全体が締まったものになっている。また、アガムスというキャラクター自体が破滅的でありながらも、根の優しく真面目な性格が拭い去りきれないという、なかなか特異なキャラクターに仕上がっている点も高く評価したい。



レギュラー回ではその回のゲスト怪獣の生態がいずれもしっかりと描かれており、それをもとにGUTS SELECTの隊員たちがいかに戦略を立てるのかというSF的な面白さが打ち出されていて見ごたえのある回が多かった。そもそも、これこそがもともとのウルトラマンの基本の作劇フォーマットなので、ストーリードラマの要素が強かった近年のウルトラマンシリーズから一周回って原点回帰してきたと言うべきなのだろう。

また、特撮作品の場合、設定をしっかりと煮詰めることが作品全体の面白さを高めることに繋がることが多いが、本作もそのタイプの作品である。「なぜ前作の主人公ウルトラマントリガーは怪獣が出現しても戦いの場に現れないのか」、「主人公アスミ・カナタはどうやって自分の正体を仲間に隠しているのか」、「前作では無人機だった戦闘機になぜ隊員が乗り込まなければならないのか」といった視聴者が持つであろう疑問にしっかりとエクスキューズが設けてあり、さらにそのエクスキューズをきっかけに物語が転がっていくという実に巧みな作劇がなされている。



2013年放送の『ウルトラマンギンガ』からスタートしたニュージェネレーションウルトラマンシリーズは、2016年放送の『ウルトラマンオーブ』のメインヴィランであるジャグラス・ジャグラーの爆発的な人気により、以降、アクの強いヴィランとウルトラマンの戦いを縦軸に敷いたシリーズ構成が基本フォーマットとなっていく。

これが上手く作用している作品もある一方で、近年ではこの構図に注力しすぎて物語の進行が停滞する例も多くなってきていた。特にこの4年ほどはこの構図をとったためにストーリーが上手く転がらなかった『-タイガ』、『-トリガー』と、この構図から脱却して人気を博した『-Z』、『-デッカー』が交代交代で放映されているという状況である。

この流れからするとやはり今の体制では、レギュラードラマ的なシリーズ構成を強め、個々の怪獣の個性を活かした本作のような作劇に徹するのが、今後のウルトラマンシリーズのスタンダードになっていくのではないかと思われる。

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