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空想物語・『大雨の夜のこと』第3章


カエルの学んだこと

カエルが優しく答えてくれたので、
わたしの方もなんだかワクワクしてきてわざと気取った口調で尋ねてみました。

『ジェレミーさんそれは良いですね。
では例えばどんな事を学んでおられますか?』と。

するとカエルは喉袋を膨らませてゲコっと鳴いてからまた話しだしました。

『例えばまぁ、(キレイな目をキョロっと上に向けて記憶を辿るような顔つきをしてから)
人間には動物に酷い事をする者と
親切にしてくれる者の2種類がいる。とか。

猫は本当はチョコレートが食べたいが、
チョコレートは猛毒だからけっして食べない。
とくにカカオニブなんかは、ホントに齧りつきたいのだか、死にたくないから我慢している。
とかね、話しはいろいろです。

そう言う話をきいてわたしは世界の事を学んでいるのですよ。』

カエルはちょっと誇らげに胸を張ってみせました。
今夜は区営団地の下で行われる猫の集会に参加するのだ。とも。

猫の集会なんかに参加したら、カエルが危ない目にあったりしないかしら。
と心配になりましたが、
そんなわたしの心を読むかのように

『お嬢さん、心配はいりませんよ。
猫はねとても怖がりなんです。
わたしのようなカラダの大きなカエルには噛みついたり引っ掻いたりなんてしやしないのですよ。それはそれはフレンドリーなのですよ猫はね。

そうだ!
お嬢さんも一緒に来て勉強しませんか?
学ぶ事はとても楽しい事です。』

とカエルは少し興奮ぎみに"ビードロの眼”をキラキラさせて、
わたしを猫の集会に誘ってくれたのです。

カエルのお誘いは嬉しかったし猫の集会へも行ってみたいと思いましたが、
わたしは寝巻きのまま飛び出して来たもので、
体がすっかり冷えてしまい、だんだんと眠たくもなってきました。

ですからカエルには
『お誘いはありがたいのですが、
わたしは帰ってもう寝ます。
今夜はお話ししてくれてありがとう。』
と丁寧にお断りしました。

するとカエルは『そうですか、ではごきげんよう、おやすみなさい、良い夢を。』
と、ケロっとした顔で言うと深くおじぎをしました。

『お休みなさい。』とわたしも言って立ち上がり家の方へ向き直りました。

信号が青になりわたしは横断歩道を家へと引き返しましたが、何か気になって後ろを振り返ってみたのです。

そうしたら、カエルさんも振り返ってこちらを見ているではありませんか。

カエルは頷く(うなずく)ようにちょこんと頭を下げて会釈(えしゃく)をし、また区営団地の方へ歩きだしました。

青信号がチカチカと替わりそうになったので、
わたしは急ぎ足で横断歩道を渡り、
家の前でもう一度、
道路の向こう側を見てみましたが、
もうあの大きな深緑色のアマガエルの姿はありませんでした。


アマガエル・ジェレミーから学んだこと

朝の光が窓から差し込んでいました。
夜中、窓を開けてみた時にカーテンを閉めわすれていたのでしょう。

ぐっすり眠ったわたしはとても清々しい気分で布団から飛び起き、窓のところまで行って
ガラッと窓を開け外を見てみました。

横断歩道はまだ濡れていて、
濡れた路面が朝陽にキラキラと輝いているのが見えました。
もちろんあのカエルの姿はありません。

わたしは夜中にカエルが話していた事を思い出して、
わたしも、もっといろんな事が知りたい、
たくさんのいろいろな世界をみたいと思いました。

早く学校へ行って『朝読書』の時間にどんな本を読もうか?図書室でなんの本を借りようかとワクワクが止まりません。

『そうだ、今度、隣のお爺さんの庭へカエルさんに会いに行ってみよう。』
そんな事を考えながら朝ごはんを食べました。

おしまい

井の中の蛙大海を知らず
池の中のジェレミー
池が溢れて大海を知る
byトマソマリ

あれから

結局その後、隣の庭へ行く事はありませんでした。

長い歳月が経ちました。
お隣のお爺さんも亡くなって
あの小さな池がどうなったのかも分かりません。

わたしですか?
まだ住んでいますよ、そこに。
大雨の夜には外を眺めることもあります。
あの大きなアマガエルが横断歩道を渡るのが見えるのではないかと期待しながら。





アマガエルのご紹介♡
お話しに出てくるジェレミーはアマガエルですが
とても大きな体をしています。ジェレミーが言うには兄弟の中でも自分が1番大きくて寿命もアマガエルの寿命をとうに超えているとか。
兄弟たちは天寿をまっとうし皆、先に天国へ行ってしまったそうで、寂しいとも言っていました。

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