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横浜グリッツ,戦略的成功と戦術的失敗

    初投稿なので、とにかく読み苦しい形になるかと思います。
何卒お許しいただきたい。敬称略してます。
 筆者はHC栃木日光アイスバックス(以下バックス)の熱烈なファンではありますが、中立なアイスホッケーファンの視点で書いております。

    日本のアイスホッケーにおけるトップリーグである、アジアリーグアイスホッケーの最も新しいチーム「横浜グリッツ」は2020年7月に結成された。
「デュアルキャリア」を旗印に社会人でも全選手がバリバリ働き、アイスホッケーもトップリーグで闘うというチームの方針を持つ。
 アイスホッケーでは実業団が無くなりプロチーム化した。グリッツはプロ契約の数が多い(デュアルの選手もいる)他のプロチームとは一線を画している。

結成当初は勝ち星を挙げられず

 当初の意気込みで横浜グリッツは「優勝を目指す」と豪語したが、現実は厳しかった。
 初年度はコロナ騒ぎもあって調整や選手確保が難しかったとは思う。
有力な選手はNHLを目指す平野裕志朗以外は、若干のアジアリーガーが加入するのみであり、筆者の評価は「アジアリーグ」のチームでなく「社会人A」のチームであった。そのため相当苦戦するであろう、というのが周りの評価であり、筆者もそれを支持した。
 結局、初年度は16試合で全敗し勝ち点1。2年目は28試合でようやく初白星を挙げて2勝26敗、勝ち点8であった(前後期通算)。
 しかも2シーズンでホーム新横浜での勝ち星もなかった。
 普段アイスホッケーに興味のない大手マスコミのこたつ記事では「お荷物」チームとまで書かれる始末であった。
 そして3シーズン目である22-23シーズン。
 選手も、チームも、フロントも、そしてグリッツのファンも、とにかく「勝ち星」に飢えていたし、絶対に勝ち取らねばならなかった。3シーズン目は早くも「チームの存在価値」がかかるシーズンとなっていた。

情報封止したグリッツ

 アジアリーグアイスホッケーのシーズンは9月から翌年3月頃まで行われる。各チームは、8月のプレシーズンマッチで新加入の選手を含め、実戦でどう戦うかチームの仕上がりの感触を掴む。しかし、1、2シーズン目は当然行っていた横浜グリッツのプレマッチの日程は唯一全く無かった。
 2シーズン目からバックスからFW岩本、東北フリーブレイズ(以下ブレイズ)からFW鈴木ロイがすでにグリッツに加入している。新メンバーはクレインズから日本代表DFの簑島、FW泉のアジアリーグ勢や助っ人外国人のFWアレックス・ラウターとDFティモシー・シュープが加入した。新人のFW杉本、GK石田らも加入し、グリッツ当初のメンバー(筆者の思う社会人レベル)はすでに大幅に減少していた。
 様々な問題を巻き起こしたマイク・ケネディは去り、ヘッドコーチにはジェフ・フラナガンが就任した。浅沼監督は留任した。
 相当戦力は強化されていたのは一目瞭然だったが、他チームにとっても、ファンにとってもグリッツの様子が伝わらない。
 グリッツの今シーズンの目標は、現実的に6チーム中4位以上の「プレーオフ進出」すること。 
 結局よくわからないまま「今期のグリッツは未知数」というのが評価であった。
 これが結果として奇襲となる。

封じ手が大成功!3勝1敗で開幕スタート!

 グリッツの開幕戦の相手のブレイズに、チーム史上初のホーム新横浜での初勝利、そして初の連勝。
 次のカードのひがし北海道クレインズ(以下クレインズ)に対して、初戦は1点差で落としたものの、2ゲーム目は接戦を勝ち切り、クレインズには不戦勝を除くと初勝利となった。
 グリッツにとってグリッツファンにとって、まさに最高のスタートだった。

 この「最高のスタート成功」を冷静に分析すると、理由は二つある。
 一つ目はラウターとシュープという助っ人外国人が大当たりだったことである。この二人の過去の実績を見れば「チームと合えばこれは侮れない」というのが筆者の評価であった。その予想は当たった。
 プレマッチを全くやらなかったグリッツに対し、他チームは新選手の研究も対策もできなかった。また簑島や泉らの加入は、確実にグリッツの選手層を厚くした。新人の杉本の活躍も大きかった。
 戦力を把握しきれず、いきなりぶつかったブレイズはツイてなかった。

 二つ目は、前シーズンまでの「油断」と対戦チームの調整不足であろう。
どうしても前年の「弱いグリッツ」「3ピリまで足が持たない」などの侮った印象が残る相手チームは、当然グリッツに「油断」をしていた。
 あわせてブレイズもクレインズも開幕時の調整がうまくいってなかった。
 昨シーズン逆転プレーオフを果たしたブレイズは、最もプレマッチの数を行って周到に仕上げるはずが、人里キャプテン、DFデニーシモンと早田の要の選手が抜けてしまい、ブレイズの歯車はまるで合っていなかった。
 プレマッチ相手のバックスファンからも、ブレイズは大丈夫なのか?と言われる具合であった。あげくにコロナで欠場者が続出したバックス相手に、ホームでまさかの開幕2連敗。その次の相手がグリッツだった。

    クレインズは経営難によるゴタゴタが続いてベテランは大幅に抜けてしまい、新体制による新人中心の若いチームになっていた。22年12月の時点では斎藤新監督が相当仕上げてきたが、シーズン当初はまだチームが固まってはいなかった。

そこから勝ち続けるほどアジアリーグは甘くなかった

 しかし強豪で優勝候補であるレッドイーグルス北海道(以下イーグルス)やHLアニャン(以下アニャン)と対戦すれば、はっきり言えば「歯が立たなかった」。
 接戦は確かにあったが、内容的にはどれも危なげなく寄り切られ、点差のついた大敗も多い。この2チームからの勝ち星は、シーズン前半を終了してもまだない。
 正直、後半戦でもイーグルスとアニャンに、グリッツが1つでも勝てる可能性は薄いと考えている。

 スタートの奇襲が成功してあげた3勝1敗のあとは、10月に霧降でバックス、11月に八戸でブレイズにともに延長(OT)で各1勝しただけで、実に2勝20敗。シーズン前半は5勝21敗でブレイズと同率の5位。プレーオフで追うクレインズとの差ははるか遠い。すでにプレーオフ4チームは固まっている。

なぜグリッツは勝てなくなったのか?

   11月26日新横浜での横浜グリッツ対日光アイスバックス戦を見て考えてみよう。
3位のバックスは、前節の帯広でクレインズに手も足も出ず連敗し、完全に下がり調子。一方グリッツはブレイズと2試合とも接戦。日曜にOTでブレイズに勝ち、シーズン5勝目をようやく挙げて上がり調子。そんな対決だった。

 グリッツの第一セットはFWにラウター、鈴木ロイ、杉本、DF簑島とシュープ。このセットがグリッツの最強武器であり、限界のセットでもあった。
 試合は開始早々、バックスがポンポンとGK黒岩から2得点を挙げて、バックスの楽勝ムードが漂った。
 しかしこの日は「グリッツの日」のはず「だった」。
 鈴木ロイがうまく1点を返し、第1ピリオドはシュート数がグリッツが14でバックスの9を上回った。
 バックスファンが首をかしげ始める。
 第2ピリオドもグリッツが優勢、松渕が決めて同点に持ちこんでの第3ピリオドに突入する。グリッツが互角以上の展開、いわば想定通り。
 勝ちたい気迫は、バックスよりグリッツの方があきらかにある。
 このような試合展開だと、もう先に1点を取った方が勝つ試合だ。
 その勝ち越し点を挙げたのはグリッツだった。 
 第3ピリオド、バックスGK福藤が痛恨のミスで転倒している隙に、熊谷が回り込んでネットに決めてついにグリッツが勝ち越し。勢いはグリッツ。
 「勝負あり」
 誰もが思った。
 その後も再三のチャンスはグリッツの方にあった。だが決められない。ミスでの失点でテンションが下がってる相手にトドメを刺しきれない。
パワープレイでも決めきれない。レフェリーへの判定の詰めもベンチは今一つ弱い。ベンチが選手を鼓舞しきれていない。
 グリッツはトドメよりも1点しかない点差を守りに入る。
 これは弱い側のチームによくある「勝ち切れない」致命的な展開だった。
 なんと、バックスのFW寺尾の天才肌の技術で、実にあっさりと同点に追いつかれてしまったのだ。
 延長戦、3ON3のOT、がっくりしたのはグリッツだった。
 もう足は第3ピリオドで限界だった。
 バックスのGKをあげてゴールをがら空きにした決死の4人攻撃の前に、グリッツは力尽きた。トータルシュート数はグリッツの方が上だった。
 「グリッツの日」のはずが、グリッツの手のひらから勝利がこぼれ落ちた瞬間だった。
 翌日日曜の試合は1-6でバックスに完敗した。
 第一セットは土曜と同じメンバーであった。

戦力は揃っている、あとは…

 グリッツの第1セットは他のチームと引けを取らないどころか優れているレベルかもしれない。
 特にラウターやシュープのアシストは秀逸で、絶妙なパスや切込みから杉本や鈴木ロイの得点につながっている。また杉本や鈴木ロイは自力でも決めてきているのは強みだ。
 他のセットも言われるほど悪くはない、危ういセットがあるとは見ていない。
 松渕や角館、簑島もチャンスがあれば得点を決めている。
 GKも石田が加入し3人体制となり、特にベテラン小野の調子は上げ調子である。黒岩も接戦の時は相変わらず粘り強い。
 実はグリッツは2連戦の内、土曜を落としても日曜になぜか勝っている事実がある(土曜1勝、日曜4勝)。
 地力が本当に無いチームならば、土曜日は接戦ないし勝てても、日曜は疲れて大敗すると言われているが、グリッツというチームはそうではない。
 つまり戦術的にうまくやればもっと勝てる可能性がある。地力があるはずだ、とも言える。

 だが、練習時間は他のチームと比較すればグリッツは圧倒的に少ない。
どうしてもレシーブミスが目立つ。パスが通らない。連携が必要なパワープレイの成功率はリーグ最下位。総合力が上回る相手を止めるには、ペナルティをしないと止められない。第一セットはマークと対策が徹底されつつある。他のセットがもっと頑張らないといけない。

 残念ながら開幕のグリッツの勝利は「封じ手」という戦略が、たまたま固まってないチーム相手に真珠湾攻撃が大成功しただけと筆者は考えている。
 その後、各チームとの戦術勝負に移ったが、新ヘッドコーチと浅沼監督の戦術は「正直な正攻法」かつ「おとなしい」。監督の性格がグリッツの作戦によく出ている。

思い切って成功体験を崩してみる

 筆者は浅沼監督の大ファンであるからこそ、苦言を呈する。
直球ストレートよりも変化球も投げてみる、セットをもっと崩して試してみるべきではなかろうか。来シーズンもラウターとシュープがいてくれるとは限らない。
 もしかしたら今がグリッツの戦力のピークで、来シーズンは戦力が維持できないかもしれない。
 もう今シーズンの成績でなく、来シーズンを見据えていろいろチャレンジしてみるのはどうだろうか?
 前ヘッドコーチのマイク・ケネディは、アメリカのホームドラマに出てくるようなジュニアアメフトチームの監督よろしく「弱いチームが勝つためには(危うい手でも)何でもやれ」と言う熱血漢だった。
 それでも戦力の無いチームで2勝した。荒い戦術やベンチでの態度は到底支持はできないが、選手を鼓舞してどうにか勝たせようという情熱や作戦は見習うべきところがあったように思う。
 現在のセットが最良で成功しているため、崩したくないのはよくわかる。だが、各チームからすでに対策をされている以上は勝ち目が薄い。
 グリッツはこのままだと後半戦1~2勝と言う筆者の予想を、爽快に覆してほしい。



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