見出し画像

猫又のバラバラ書評(おかめ八目)

今や世界は右翼ポピュリスムの台頭が無視できない状況であることは、誰もが感じていると思う。多くの人がナチの時代との類似を感じ取っている。

 この本もまた、ナチズムに対して、個人がどうそれに対したかを読み取ることができる書籍である。

「ゲッペルスと私 ナチ宣伝相秘書の独白」ブルンヒルデ・ポムゼン+ト=レ・D・ハンゼン 著 監修=石田勇治 翻訳=森内薫・赤坂桃子

 本書は映画「ゲッペルスと私」の政策のために行われたインタビューを基に構成されている。当時ポムゼンは103歳であり、ヒトラーの政権中枢を知る人物としては多分最後の生き残りの人物ではなかったかと思われる。彼女はゲッペルスの速記秘書としてゲッペルスのいわゆる宣伝に関わる多くの問題を知る職務にいた。しかしこのインタビューで彼女は一貫して、自分は何も知らなかったと主張している。それが事実なのか、みずからの保身なのかは読んでみても判別できない。彼女はナチが政権に就いた時の国民の歓喜を見ている。友人にはユダヤ人もいる。そのユダヤ人がいなくなっても、それはもっといい土地で生活するために移住したと信じている。彼女の願いはただ良い仕事につき、それが認められ、地位が上昇していくことの誇りだけが語られている。ナチスのユダヤ人殲滅について知ったのは戦後であると語っている。そしてそれはドイツ国民のほとんどがそうだというのだ。唯一白バラ抵抗運動について触れられているが、それは若者の未熟さで、黙っていれば彼ら彼女らには未来があったと感じている。

 それでも彼女が自己正当化であれ、自分に罪はなかったが、無関心であったこと、自らすすんで見なかったことは反省すべきだと述べているのは印象的だ。思い出すのはハンナ・アーレントンが言う「悪の凡庸さ」である。

 本書の約3分1をしめるこのインタビューを行ったトーレ・D・ハンゼンの解説「ゲッペルスの秘書の語りは現代の私たちに何を教えるか」が非常に明快な現代の世界的な政治情勢への警告が書かれていて有効である。むしろ日本の政治情勢の分析ではないのかと思えるほど、印象的である。またドイツの右翼ポピュリズム政党AfDの台頭を危惧している記載があるのだが、先日その予言が的中したようなことがあった。ドイツの地方都市で選挙でAfDが躍進し連立ではあったが首長に選出されてしまった。危ないーーと思っていましたが、ドイツではこの首長就任に反対の抗議が行われ、わずか1日で辞任に追い込んだという。まだ、止められることを示している。

 しかし、日本政治を省みる時、このような自浄作用が国民の中で働くであろうか?

私は知らなかったーーーという言い訳はできないところに私たち日本国民は立たされていることを、強く感じさせられる本である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?