猫又のバラバラ書評「おかめ八目」

 怪しい、表紙の写真のパンダの表情は怪しい。絶対何か隠している。さらに追い討ちをかけるように帯がさらにけしからん。「乱倫なパンダ、売春するペンギン、トイレで婚活する怠け者・・・」。というわけで周囲を見計らい素知らぬ顔で手にとって慌てて購入した(笑)。

 「子どもには聞かせられない 動物の秘密」ルーシー・クック著 小林玲子訳

 著者は有名なドーキンスに教育を受けたイギリスの博物学者だそうで、研究者であるとともにドキュメンタリーを撮影したりしている女性であるらしい。ここで博物学者と名乗っていることの意味は大きい。現代では動物学者と名乗ることが多い分野であるが、中世から近代初頭まで動物・植物の境目も定かではなく、宇宙の森羅万象に目を向ける博物学者というのが定説であったから、彼女がそう名乗っているということは単なる動物の行動にだけ目を向けているという認識ではないということが前提にされている。そして私たち現代においても、かわいいがまず思い浮かぶ価値観なのだが、その多くはディズニーの映画やらで擬人化された動物の外見の形態に目がいっている証拠である。

 しかし著者(なんとナマケモノが大好きなんだそうだ)が動物の生態に深くコミットすればするほど、外形のかわいさとは裏腹にその種が現在まで生き延びた秘密が隠されていることに思い至るわけである。さらには歴史的に古代から人間サイドの倫理観がそれぞれの動物に反映されて、とんでもない誤解が付与されてしまう、動物の形態の描写がとんでもなく歪められたり、特に性的な有り様がまるで嘘が積み重ねられたりしてきたらしい。現在だってうなぎの生誕地がなんだかよく分からないということだってあるから、GPSや顕微鏡がない時代に動物がどこで生まれ、あるいは鳥が突然現れ、突然いなくなり、また突然現れたりすれば不思議な現象だということで畏敬のの念こそ感じていたであろうことは想像に難くない。

 さて本書であるが、ともかくおかしいのだ。著者は笑わせるために書いているわけではなく、事実を(幾分誇張はあるかもしれない)きちっと書かれると、そんなー、嘘〜と思ってしまうことが多々出てくる。しかし動物にとっては大きなお世話で、自分たちが生き残るための涙ぐましい長い長い時間の中で獲得してきた生存のための能力なのだから笑うほうがいけないのだ。人間の勝手で動物も植物も種の絶滅が言われて久しい。生物の多様性こそが地球存続の鍵だし、ひいては人間の生存もその生物の多様性の元でしかありえないのだが、その観点から見ても種の維持のための姿は崇高であると言わなければいけないとは思いながらも、笑ってしまうのである。昔誰かの本のタイトルに「他人のセックスを笑うな」というのがあった気がするが、動物も多分クックに見られながらそう言っていたに違いない。そのあれこれを書いてしまったらネタバレしてしまうから、どうぞ本書を読んでみてください。なおひとつ注意があります。電車の中では読まないほうがいいです。つい声を出して笑ってしまう箇所がかなりありますので。しかし表紙のパンダは何を隠しているのだろうか? 

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