RAY 4thワンマン「PRISM」 Interlude 1 ダイヤローグ

内山「ねえナツミおいしい、チョコケーキ。」
琴山「でしょう、有名なんだって。濃厚でバターが違うって書いてある。四万十産。」
内山「四万十って四万十川?何県だっけ。」
琴山「高知だっけ。四十万って書いてある。」
内山「ミスかな。」
琴山「ミスでしょ。」
内山「おじいちゃんの家。」
琴山「えっ?」
内山「高知県。おじいちゃんの家。遠いからあんまり行った事ないんだけど、うなぎが美味しいの。」
琴山「ああ、四万十川の。うなぎ私も好き。高いからあんまり食べられないけど」
内山「うな丼でいいんだような丼で。うな重は高過ぎるって。江戸時代は庶民の安い食べ物だったみたい。明治時代に皇族が食べようとして問題になったみたいだよ。うなぎなんて食べさせちゃだめって」
琴山「詳しいね。うなぎ。」
内山「好きなの、うなぎ。」
琴山「チョコケーキ食べながらうなぎ?」
内山「うなぎパイってうなぎの味がすると思ったら全然うなぎ味じゃないからがっかりしちゃった。ねえ、ナツミ、映画のあと行こうよ、うなぎ。冬が一番美味しいそうだよ。」
琴山「あ、四十万って書いてシジマ。」
内山「は?何いってんの。」
琴山「高知県の四万十じゃなくて、石川県にあるシジマ。四十万って書いてシジマ。金沢だって。」
内山「え?じゃあ私達、今なんの話で盛り上がってたんだろ。」
琴山「なんかそれって、マトリックス。」

甲斐「夕飯?うーん、なんだろ。何食べたい?」
月日「ケーキ食べながら相談するかなあ〜?んー、中華は昨日食べたでしょ。あっお給料入ったしうなぎは?」
甲斐「季節じゃなくない?」
月日「冬が美味しいらしいよ、うなぎ。」
甲斐「あっあの駅裏のうなぎ屋さん、味変わったよね。まずくなった、高いくせに。」
月日「アキ、科学の授業で習わなかった?光は質量がないからまっすぐに思えるけど、アインシュタインの相対性理論、一般相対性理論では、重量で光はほんのわずかに曲がるって。ささやかな歪みは大きな歪みに繋がる、だっけな。」
甲斐「周りくどいなあ、このチョコレートケーキぐらいくどい。フユコどういうこと?」
月日「わかんない?んー何が言いたかったんだっけな。」
甲斐「なにそれ。」
月日「あー、うなぎ屋さんの話。味変わったって言ってたじゃん。」
甲斐「うん、不味くなったよね。『江戸から変わらぬ味!』なんて看板にあるのに」
月日「でね、美味しんぼかな、クッキングパパかな、あー食戟のソーマかも。まあなにかで言ってたんだけど、変わらない味を保ち続けるには変わり続けなきゃいけないって。」
甲斐「変わったら、変わるじゃん。」
月日「でも店が変わらなくても、世界は変わるの。ちょっとずつ。60年も経てばかなり変わっちゃう。人の味覚ももちろん。だからそれに合わせて変えていかないとだめってこと。」
甲斐「なるほど〜回りくどいや。」
月日「そう、回りくどいの。回りくどく変わっていっちゃうの。何もかも。光線も味覚も、駅裏のうなぎ屋さんも。」
甲斐「ちょっと、寂しいな。」

内山「でもさ、うな丼とうな重ってそんなに味は変わらない訳でしょ。カレーライスとライスカレーの違いくらいなものじゃん。それであんな値段が違うのって理解できないな。」
月日「でもそのちょっとの違いが、値段を変えて、ドラマを紡ぐんだよ。」
甲斐「光がずっとまっすぐだったらわかりやすいんだよ?でもどうしてもほんの少し曲がっちゃう。いつだってそう。」
琴山「少しずつの間違いが、物語と世界を紡ぐってこと?もし間違いが一切なかったら、世界は存在なんかしない。わたしと君が出会うこともない。」
月日「多分、なんてことはない話。目に見えて大きなドラマがあるわけではないでしょ?気にならない程度の、ほんの少しの歪みが、ちょっとずつちょっとずつ世界を歪曲させるって話でしょ?」
甲斐「けれどさ、光が届く距離には限界がないんだよ。たとえ進んでいても、どこかでまた巡り合うかも。そんなもんじゃない?」
内山「ところであのチョコケーキのバター、四万十でも四十万でも無かったみたいだよ。ニュージーランド産の激安バター。偽装して、炎上した。」
琴山「えっ?じゃあ私達の会話ってなんだったの?」
甲斐「多分、世界は間違い続けて、君と私は今でも出会い続けているし、終わり続けている。永遠に続く光線の交わりのようにずっとずっと。そんなもんだよね。そうでしょ?やっぱ、ちょっと寂しいや。」



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