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荻窪随想録7・杉並図書館(のビアンキ『森の新聞』)

昔の児童書はごっそり処分してしまったらしい杉並図書館だが、このビアンキの『森の新聞』は、家のパソコンで蔵書検索をしてみたらまだ残っていた。

そこで先頃、久しぶりに読みに行ってみた。検索結果の貸出欄にはバツがついていたので、おそらくできるのは閲覧だけだろうと思っていたところ、そのとおりだったので、「春」「夏」「秋」「冬」の4冊とも、一度に書庫から出してきてもらって、図書館内の座れるところをあちこち移動しながら、しばらく読み耽っていた。もちろん全部読むことなどとてもできず、ひとつの季節分すら読み終えられなかったけれど。

これは、小学校の4年生の時に読んで気に入った本。
私が生まれる少し前(1957年)の出版だから、児童室の書棚から手に取った時にも、少し古ぼけているな、とは思ったけれど、読み始めてみたらとてもおもしろい内容だった。

ソ連(当時)の森の動植物たちの生態を、四季ごとにたくさんの挿し絵とともに記事形式で書いている。しかもあちこちの少年少女たちが自分の発見したことを特派員報告などとして送ってきた文章も載っていて、学級新聞を読んでいるような雰囲気があった。
うさぎの絵を的にしたカットを使った森の知識「クイズ」や、まるで小鳥たち自身が広告を出したかのような、巣箱を作って木にかけることを奨励する(鳥によって作るべき巣箱の形がまったく違う)「広告」コーナーもあったりして、とても子どもが喜ぶような楽しい作りになっていた。

自分はこの『森の新聞』の「夏の森」の巻で、クモがおなかから糸を出して空を飛ぶことを知ったのだし、そのようなクモの糸がたくさんきらめいている秋の天気のいい日を「小春日和」ということも学んだのだった。

この『森の新聞』はその後も版を変えて、何度か同じ理論社から出版されたようだけれど、最後に出た『ビアンキ動物記』(『森の新聞』春・夏・秋・冬ともすべて収録。全22巻で80年代刊行)ですら、すでに荻窪の図書館では書庫の中にしまわれていて、実際に本棚に並んでいるのを目にすることはできない。誰かが貸出を希望しない限り、書庫の中で人の目に触れずに眠っている。

そうすると、新しくこの本に出会える人はもはやそうそういないわけだが――そしてやっぱり一番最初の版で見たほうが、レイアウトがより新聞らしくて楽しいが――これに関しては処分されずに、たとえ保管庫の中にでも図書館が取っておいてくれたことをありがたいと思いたい。そのおかげで、昔、この本に親しんだ者が、こうしてふたたび目にすることができ、さらに改めて気づけることもあるのだから。

これは昭和30~40年代に子どもだった人ならたいてい誰でもが知っていた『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』に並ぶロシア版の自然の営みや不思議を伝える本だったのらしい。

そして今回読み直してみて改めて気づけたことというのは、森の1年も西洋占星術と同じく、各星座間を太陽が移動していくのに従って、12の月に分けられているということだった。

ただし呼び名は、白羊宮の月や金牛宮の月などというのではなく、森の出来事にちなんで、「目ざめの月」や「渡り鳥が故郷にもどる月」などになる。そして、「1年は12か月の太陽の詩(うた)」であり、春分の日は「森の新年おめでとう!」なのだった。

それはこの地上で足を踏みしめて生きていこうとする者たちには、とてもすてきなことだろう。
私にそれがどれだけ作用したかはわからないけれど、やっぱり子どものうちに出会えておいてよかったと思った本だった。

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