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ワクチンを拒否した人々。今、彼らは後悔している

かつてワクチンを拒否したり、長く待ちすぎた人々が、今、その結果と格闘している。その姿はしばしば生々しい形で公開されている

ジャック・ヒーリー
2021年7月30日発行 更新日:2021年8月1日

ユタ州・プロボ:ミンディ・グリーンさんは新型コロナの集中治療室で、42歳の夫であるラスさんのために稼働する人工呼吸器の音に耳を傾けながら、自分の携帯電話を開いてメッセージをタップした。

 「私達はワクチンを接種しませんでした」と、彼女はFacebookに書き込んでいる。「ワクチンについて色々なことを読んで怖くなったのです。だから接種しないことを決めて祈り、大丈夫だろうと思い込んでいました」

 しかし、大丈夫ではなかったのだ。

 四人の子の父親である彼女の夫は、生死の境をさまよい、体中からチューブの触手が伸びている。彼の隣の病室の患者は、数時間前に亡くなっていた。その日、7月13日、グリーンさんはワクチン接種をめぐる偏った国民的議論の中で声を上げている意外なグループ、すなわち自責の念を抱いている人々の声に自分も加わることを決意した。

 「もしも現在わかっている情報があったなら、私達はワクチンを接種していたでしょう」とグリーンさんは綴っている。覚悟を決めて彼女は『送信』ボタンを押した。

 コロナウイルスの感染と死亡が再燃する中、かつてワクチンを拒否したり、あるいは単に接種待ちの時間が長すぎた人々が、今、その結果を生々しく公の場で訴えている。多くの人々が病院のベッドから、葬儀の場から、そして死亡記事の中で、後悔の念や永続的に続くウイルスによる苦痛、そしてワクチンを接種しなかった家族が死んでいくのを、息を殺して見ているだけしかなかったことを語っているのだ。

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 ある朝、プロボにあるユタ・バレー病院のICUの外にある4階ロビーに座ったグリーンさんは、かつて家族でハイキングやドライブをした山を眺めながら、「信じられないほどの罪悪感を抱いてます」と語っている。「今でも自分を責めています。毎日のようにです」

 最近急増しているワクチン未接種者の感染や入院は、パンデミックをやり過ごしたと思っていた人々の多くに、新型コロナの厳しい現実を突きつけている。しかし、各方面からの怒りと疲労が蓄積してる今、彼らの話が実際に誰かの心を動かすことができるかが問題となっている。

 ウイルスに感染して入院している患者の中には、未だにワクチンを受けようとしない人もいる。そして調査によると、ワクチンを接種しようとしていないアメリカ人の大多数は動こうとしないという結果も出ている。新型コロナ病棟の医師によると、患者の中には自分がインフルエンザ以上の病気に罹患していることを、未だに信じようとしない者もいるという。

 「ICUの新型コロナ患者の中には、新型コロナに感染していることを否定する人もいます」と、グリーン氏の治療にあたっている重症肺炎担当医のマシュー・スペリー医師は語っている。「私達が何を言っても無駄なんです」。

 ユタ州における新型コロナによる入院は過去2週間で35%増加しており、スペリー医師によると彼が勤務する病院にある24の集中治療室は、98%が埋まっているという。

 しかし、ワクチン未接種者の多い保守的な地域で患者が殺到している病院の中では、最後の手段として新型コロナの生存者を、公衆衛生の使者として採用し始めているところもある。これはバイデン大統領やアンソニー・S・ファウチ博士、そして地元の医師や医療従事者によるワクチン接種キャンペーンを拒絶した人々を、かつてワクチン懐疑論を抱いていた者が説得することを期待してのことである。

 彼らはワクチンに対する誤った情報や恐怖、そして接種の是非をめぐる党派間の対立に乗じて蔓延してきたパンデミックについて、自らが体験した恐怖を語ることで、接種を躊躇してる人々を啓蒙しようと試みているのだ。

 「人々は病院のベッドや病棟からニュースを発信しています」と、ハーバード大学社会医学助教授のレベッカ・ワイントローブ氏は語る。「そうすることで、『私は自分の家族を守れませんでした。あなたの家族を守るお手伝いをさせてください』というメッセージが身近に感じられるのです」。

 この夏、コロナウイルスの感染者が急増したミズーリ州スプリングフィールドでは、ラッセル・テイラー氏が病院のビデオの中でワクチン推進のための証言をするために、病院のガウンを着て、酸素吸入器を顔にかけていた。「今となっては、なぜ接種を受け入れなかったのかわかりません」と彼は語っている。

 このウィルスに感染して両肺移植を受けたテキサス州の男性は、地元のテレビで他の人々にワクチンを接種するよう訴えた。

 また、ユタ州の農村にある病院の管理者は、ワクチンを接種しなかったために、二重の肺炎と敗血症に見舞われたことを震える声で語った。ストーミーさんという女性は、地元の保健局が投稿したビデオの中で、勇気を出して発言するまでに数週間かかったと言う。彼女は新型コロナを否定する人々に作り話だと言われることを恐れ、ファーストネームだけで発言している。

 彼女は今週のインタビューで、「発言することによって、ネガティヴな側面が絶対に生じることを恐れていました」と語った。「それは逃れようとしていた問題の一部だったのです」

 ワクチンをいち早く受けいれた人々の中には、接種を受けなかった家族について話すことを選んだ人もいる。キンバリー・ジョーンズさんは娘のエリカ・トンプソンさん(37歳・セントルイス在住の母親)を、酷い喘息発作と思われる症状が出てから3ヶ月後の7月4日に亡くしている。その後、彼は望んでいなかった役割を受け入れたのである。

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 可能な限り早く予防接種を受けたジョーンズさんは、「私は娘の代弁者となりたいのです」と語る。「娘は私に『予防接種を受けなさい』と言って欲しいと思ってるに違いありません」。

 トンプソンさんは──アメリカの成人の約39%と同様に──、このアドバイスに耳を貸さなかった。

 トンプソンさんの母親によると、彼女はモデルナ社とファイザー・バイオンテック社のワクチンが、あまりにも早く開発されたのを不安に思っていたという──それは、何十年にもわたる科学的研究の成果なのだが。彼女は政府主導の予防接種キャンペーンが、自分のような黒人に対する陰謀だとも考えていたらしい。黒人やヒスパニック系アメリカ人のワクチン接種率は、白人のそれに比べて遅れている。研究者達はこの相違を、医療差別の歴史に根ざした不信感や、情報交換の機会と働きかけの不足によるものだと考えている。

 コールセンターで時給10ドルの仕事をしていたトンプソンさんは最近、医療コーディングという夢のある仕事に就いたばかりだった。5月中旬、彼女は咳と息苦しさで病院にかかり、数日で人工呼吸器を装着する身となってしまった。ジョーンズさんは娘に鎮静剤が投与されている際に『Beat it』を歌い、目が覚めたらそばにいると約束したという。

 「娘の最後の言葉は、『ママ、息ができない』でした」とジョーンズさんは語った。

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 ユタ州のグリーンさんは、夫に一家の予防接種の決定権を委ねられていたと語る。彼女は当初、隣人である医師が接種したら、すぐに一家に接種させるつもりだった。

 しかし、彼女はワクチンに対する不安を感じており、ソーシャルメディアを閲覧したり、反ワクチン派の友人と話をすることで、接種を躊躇う理由を山程見出すことになった。ある人は「これを見た方がいいよ」と彼女にリンクを示したという。

 そのいくつかをクリックすると、反ワクチン派の弁護士やユーチューバーが主張する陰謀論や、反ワクチン派の医師や弁護士がワクチン接種を『生物兵器だ』と批判するビデオなど、様々な情報が彼女の目前に飛び込んできた。

 6月下旬、9人の少年が感染した教会のキャンプから、長男と次男がウイルスを持ち帰ったことで、新型コロナが一家の世界に押し寄せることとなった。家族の中でウイルスが蔓延したのである。そして、山歩きをするハンターである夫が、酸素濃度の低下をきたして病院に運び込まれる日がやってきた。

 今では『Covid days』という単位で時間を測っている。グリーンさんは毎朝、嘔吐感で目が覚める。8歳から18歳までの四人の子供達は、グリーンさんが病院に行っている間は家にいて、ダンス教室の様子や野球の試合で外野へのヒットを打ったことなどを父親に伝えることができない。

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 夫の損傷した肺を修復し、人工呼吸器から彼を解放するためには、医師達の努力が必要であり、今後数ヶ月は不安がつきまとうことになる。先週、彼は一時的に病院から長期急性期治療センターに移送され、希望に満ちた瞬間を迎えた。しかし、医師が肺に穴が開いているのを発見し、彼は再び集中治療室に戻されることになった。

 グリーンさんは「誤った情報に耳を傾けてしまったことを、ずっと後悔しています」と語る。「彼らは恐怖心を煽っているのです」

 夫が7月初旬に人工呼吸器を装着した後も、グリーンさんの知人のワクチン懐疑論者達は、不妊治療やワクチンによる隠蔽された死亡例に関する誤った情報へのリンクを、メールで送りつけてきていた。また、新型コロナの治療薬だと偽って、馬用の薬を送られてきたこともある。さらに彼女の夫の仕事仲間は、ICUのロビーにまでグリーンさんを訪ねてきて、ワクチン接種に反対する意見をまくし立てたという。

 保健機関の専門家や科学的な研究によると、ワクチンは圧倒的に安全で効果的なものであり、感染性の高い新型コロナウイルスに対する切り札だとされている。

 新型コロナに襲われる以前、一家の生活は末日聖徒イエス・キリスト教会への信仰とコミュニティに支えられていた。現在は教会の友人や近所の人々が家に夕食を持ってきてくれたり、教会の信徒に夫の近況報告をしてくれているという。

 グリーンさんは病院での面会の前にスピリチュアルな読み物を読み、毎晩、子供達──ハンター(18歳)、イーストン(15歳)、ベティ(13歳)、ラシュトン(8歳)──を集めて、父親のことや彼に必要な祈りについて話している。

 夫の体がウイルスに冒され、医師が人工呼吸器を装着しているときに、彼女の考え方は変わっていった。また、病院に押し寄せるワクチン未接種の患者について話したり、ICUの外で救命ヘリの到着を聞いたという彼女の話を聞いて、彼らの考え方も変わったという。グリーンさんは子供達のために、ワクチン接種の予約をしたという。

ジャック・ヒーリーはコロラド州を拠点とする全国特派員で、アメリカの『市街境界線』と呼ばれる看板の外にある、地方の場所や生活を中心に取材活動を行っている。イラクとアフガニスタンでの取材経験もあり、ミズーリ大学ジャーナリズムスクールを卒業している。

ソース:The NewYork Times They Spurned the Vaccine. Now They Want You to Know They Regret It.

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 今回も特に重要だと思うので、無料公開いたします。一応記事の最後に課金オプションは出てきますが、もし購入してくれるなら幸いです。

 それでですね…

とにかくなんでも良いから、みんなワクチン早く受けてー!!

 もちろん、自治体によっては予約がなかなか取れない人もいるでしょう。そういう人は、よりいっそうの感染予防を徹底してください。全国での感染者数が15000人超えなんてのは尋常じゃありません。デルタ株の感染力の強さもさることながら、我々の行動の緩みも大きく影響しているのではないでしょうか。
 ワクチンをまだ接種できない人はもちろん、接種した人も今一度自分の行動を省みて、基本に立ち返った感染対策をお願いいたします。

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