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XXXいにしれXXX

 僕の名前は太目デブメ カガミ。大学の友達からはボルボックス山本って呼ばれてる。

 見ての通り僕は太ってて、度がめちゃくちゃ強いメガネかけてて、八の字のまゆ毛に逆八の字のつり目、穴が1個しかない「A」みたいな形の鼻、常にキスの形のタラコ唇、いろんな方向に伸び放題のヒゲ、ザビエルみたいな髪型で、大学ではウェーイ系にいじられ放題だけど、僕は決して落ち込んだりしない。

 なぜなら僕には、最愛の彼女がいるから!

 彼女は文武両道容姿端麗傍若無人天上天下唯我独尊雲湖朕鎮坦々麺で、僕にはもったいないくらいの最高の彼女なんだ! あと巨乳だし!

 彼女のおかげで僕は毎日がお花なんだ。同棲してるから毎日チンチン出来るし、一緒に大学に行けるし、チンチン出来るし、最高なんだ!

 今日は彼女は午後からだから、朝出発したのは僕だけ。でも、また午後から彼女とイチャイチャ出来る! 大学で見せびらかせる! 今からもう楽しみ!

 さて、財布からSuicaを出して⋯⋯ってあれ? Suicaないぞ?

 そうだ、昨日履いてたズボンのポケットに入れたままだ! 取りに帰らないと!

 ということで戻ってきました。あ、彼女新しい靴買ったんだ。僕もそろそろ買い替えたいな。

 ⋯⋯あったあった、やっぱりポケットに入ってたんだ。もう1限は無理だなぁ⋯⋯せっかくだし、まだ寝てるであろう彼女の寝顔でも見て、あわよくば朝エッチを⋯⋯ぐへへ!

 こっそり、寝室のドアをこっそりオープン⋯⋯

 ベッドには、見知らぬ細身のイケメンが寝ていた。ハッとしたような顔でこちらを見ている。そして、布団が異様にモッコリしている。金玉袋がとんでもなくでかいのか?

「誰だお前」

 僕がそう言うと、男は少し考えたあと「アタシよ、マリよ。彼女の顔忘れちゃったの?」と裏声で答えた。

「舐めてんのか? あ?」

 布団が盛り上がっている。

「舐め舐め⋯⋯いや、決してそんなことは⋯⋯ああっ」

 情けない声を出す男。

「舐めやがってこの野郎⋯⋯とにかく布団から出ろ」

「で、出そう!」

「出そうじゃなくて、出ろっつってんだよ」

「で、出る!!!!」

「おう、早く出ろ」

「ふぅ⋯⋯」

「いや早く出ろよ。何やってんだよ」

「すみません、少しだけ待ってください」

「ダメに決まってるだろ。誰なんだお前」

「あっあっちょ!」

「あ? 頭おかしいのかお前?」

「やめやめやめやめやめやめやめやめ!」

「どうした!?」

「アアアアアアアアアーーーーーッッッッ」

「なんだなんだ!」

 布団を足元から捲ると、そこには色白の尻と足があった。

 ⋯⋯異形のケンタウロス?

「で、お前は誰なんだ?」

 改めて僕が問うと、男はまた「マリよ。彼女の顔忘れちゃったの?」と言った。

「通報するよ?」

「ほんとにアタシなの!!!」

「さっきまで普通の人間だったのに、僕が駅に行って戻ってくるまでの間に異形のケンタウロスになったなんて信じられるわけないだろ!」

「本当なの! 信じてぇ!」

「人を馬鹿にするのもいい加減にしろぉ!!!」

 僕は布団を全て捲った。

 男は裸で、ちょうど股間のあたりに見覚えのある後頭部があった。

「⋯⋯マリちゃん、これどういうこと? 何やってるの? こいつは誰なの?」

 僕が静かにそう言うと、男が口を開いた。

「だから⋯⋯」

「お前には聞いてない! ⋯⋯マリちゃん、答えてよ⋯⋯僕は出ていけばいいの? なんで浮気、しちゃったの⋯⋯?」

「浮気なんてしてないよ!」

 また男が口を開いた。

「この期に及んで⋯⋯無理だろ、誤魔化しようがないだろ。ここからどうやって僕を騙すんだよ」

「浮気なんてしてないもん⋯⋯!」

 はぁ⋯⋯どう見ても知らないイケメンのちんちん舐め⋯⋯⋯⋯てない!?

 舐めてない!!!!!!

 ていうか顔がない!!!!!!!!

 男の股間から後頭部が生えてる! で、そこから女の体が生えてる!?!?!?!?!?

「ちょっとこれどういうこと!? 妖怪!? なんなのこれ!?」

「いやだから、異形のケンタウロスだってば」

「本当に異形のケンタウロスだったの!?」

「うん」

「じゃあさ、さっきの賢者モードみたいなのはなんだったの? その後叫んでたのも」

「浮気ドッキリを仕掛けて驚かせようと思って⋯⋯でもあんなに怒ると思わなかったから⋯⋯ごめん」

「ドッキリより先にやることあるでしょ! 異形ケンタウロスになったんだから!」

「やること⋯⋯戦い?」

「病院だよ!」

「異形ケンタウロスを診てくれる病院なんてあるの?」

「それは⋯⋯」

「⋯⋯うぅ⋯⋯あたし、ほんとは辛いんだ。怖いんだ。でも、どうしようもないから⋯⋯」

「マリちゃん⋯⋯」

 僕はなんてひどい奴なんだ。マリちゃん自身が1番辛いに決まってるのに。僕が守ってあげないといけないのに。

 ⋯⋯よし。決めた。

「マリちゃん、病院に行こう」

「えっ⋯⋯だって、異形ケンタ⋯⋯」

「大丈夫だよ。世界のどこかにはマリちゃんを治してくれるお医者さんがいるはずだよ!」

「カガミくん⋯⋯!」

 それから僕達は準備をして家を出た。マリちゃんは靴を2セット履いていた。このために買ったのだろうか。だとしたら、前兆があったのだろうか。僕は気づかなかった。なんてダメな彼氏なんだ。

 家を出てから20メートルほど歩いたところに、異形動物病院というのがあった。

「こんなの前からあったっけ?」

「アタシ初めて見た」

 専門は⋯⋯異形ペンギン、異形サイクロプス、異形プログラマー、異形サンタクロース、異形アーモンド、異形おにぎり、異形ケンタ⋯⋯ッキー⋯⋯

 異形ケンタッキーって何!?

「うぅ⋯⋯アタシ⋯⋯うぅ⋯⋯」

「大丈夫だよ、まだ次がある!」

 それからまた50メートルくらい歩いたところに「異形動物病院2」というのがあった。さっきのが1だったってこと?

 専門異形⋯⋯異形ペンギン、異形ペンキ、異形ペン、異形パン、焼きそばパン、カレーパン、ハンバーガー、チョココロネ、太目デブメカガミ⋯⋯えっ!?

「僕、異形なの!?」

「そりゃそうだよ。鼻が『A』の人間なんてそうそういないもん」

 異形ケンタウロスに言われてもなぁ⋯⋯

 まあ僕は不便も感じてないし、このままでいいや。

 また4メートル歩いたところに異形動物病院3があった。この辺病院多いな。

 専門はボルボックス山本のみ。

 なんで? なんで僕のあだ名?

「なんか、世界が壊れてきてる気がする」

 マリちゃんがとんでもないことを言い出した。

「どうしてそう思うの? 瓦礫でも落ちてきた?」

「いや物理的な話じゃなくて、こんなに異形動物病院があるのおかしいよ。ていうかなんなのよ異形動物病院って。絶対おかしいよ」

「でも君、異形ケンタウロスじゃないか。異形動物病院があるほうが助かるだろ」

「でも⋯⋯」

「とにかく、僕は君を助ける。何があってもだ」

「カガミくん⋯⋯」

 4軒目は向かいにあった。専門はパソコン、スマートフォン、ウォークマン、タブレットだそうだ。

 5軒目は4軒目の3階にあった。専門は不動産だそうだ。

 6軒目はその2階にあった。異形ケンタウロス専門だそうだ。






 異形ケンタウロス専門!?!?!?!?





 異ギョケン専門!?!?!?!?!?



「マリちゃん! 見つかったよマリちゃん! 良かった!!!!!」

「うん⋯⋯」

「あれ、どうしたの?」

 元気なくなってる。

「怖いの?」

「うん⋯⋯」

 そっか。そうだよね⋯⋯

「大丈夫、しゅずちゅっちゅ、手術ちゅちゅーは僕がずっと手を握ってるから」

「カガミくん⋯⋯」

 僕の名前を呼んだ直後、マリちゃんは突然後ろ下痢をカマしてきた。

「ぎゃー! 臭い! 汚い! 気持ち悪い!
の3K!!!!」

 とか言っている間にマリちゃんはいなくなっていた。

 おうど色のまま1人で家に戻ってシャワーを浴びた。

 マリちゃんは帰ってこなかった。

 何日経っても、何週間経っても、帰ってこなかった。

 2ヶ月が過ぎようとしていた頃、マリちゃんが帰ってきた。マリちゃんの体は腐敗していて、ごく一部が白骨化していた。

 マリちゃん⋯⋯

 警察の話によると、マリちゃんは何者かに殺害され、硫酸で顔を溶かされ、歯を全部抜かれていたらしい。

 そして、顔の皮膚からは接着剤の成分が検出された。

 もしかしたらあのイケメンは本当はマリちゃんじゃなくて、マリちゃんの死体を股間にくっつけてたんじゃないかって、今でもたまに思うんだ。

 でも、そんなこと調べようがないし、調べたところであんな異常者と関わらない方が身のためだと思うし、そんなことしたってマリちゃんは帰ってこないし⋯⋯

 マリちゃん。

 会いたいよ⋯⋯

 マリちゃん⋯⋯どうして死んじゃったんだよ⋯⋯マリちゃん⋯⋯

 何年経っても心の傷は癒えなかった。

 ある日、ゲームを買った。キノコを食べたり、キノコを倒したり、カメを倒したりするゲームだ。

 僕は目を疑った。
 画面の向こうに、マリちゃんがいたのだ。

 ヒゲが生えておじさんになってるけど、赤い帽子を被ってるけど、赤い服を着てるけど、青いオーバーオールを着てるけど! 間違いなくマリちゃんだ! 生まれ変われたんだね⋯⋯

 涙が止まらなくなった。

 マリちゃん⋯⋯!

 幸せそうでよかった。
 弟がいるんだね。ルイちゃんって言うんだね。

 とにかく、良かったよ。安心した。

 僕は異形動物病院2に行くとするよ。じゃあね。

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