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#001 猫との出会い

「髪、触っていいですか?」

暗い店内で彼は唐突にそう言って私をまっすぐに見つめてきた。

彼のことは前から知っていた。
知っていただけでなく、惹かれてもいた。
近づけば引くような近寄りがたさと
大人の色香をほんのりと醸し出す雰囲気が
とても気になる人だった。

その人がいま目の前でわたしの髪を触りたい、と言っている。
周りにもたくさんの人がいる中で。

これはなんだろう。
揶揄われてるのか。
単なる髪フェチかしら。
そんな数秒間の戸惑いも、数年抱いてきた彼への興味の前にあっけなく惨敗し、わたしの口から出た言葉は

「うん、いいよ」

彼は軽やかにわたしの髪を撫でて、
あっという間にいつもの表情で人の輪に戻っていった。

返事が軽すぎたことに気づいて
わたしは後から恥ずかしくなった。
彼はその返事をどう思っただろう?

猫のように目の前にあらわれて
ふといなくなる。
そんな猫みたいな彼は、いまわたしの一番そばにいる。

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