友情ラブレター

 この日、冬原イロハの目覚めは快適なものだった。
 意識の覚醒と共にぱちっと目を開いて機敏な動きで起き上がれば、寝床の揺りかごが沈むように揺れたので、勢いをつけて抜け出す。
 ぎっ、と揺りかごは軋む音を立て、はっとしてそろりと同居人を窺った。まだ眠りは深い様子だ。
 そろりそろり。
 歯磨き、洗顔と基本的な朝の身支度をしていく。
(「今日はお休みですが、私、いつもよりしゃきしゃきですね」)
 濡れた毛をタオルで拭って、鏡台の前でブラッシング。
 休日の朝はいつもぐうたらに過ごしてしまいがちだが、今日は友人たちと遊びに行く約束がある。
 とても楽しみにしていたのだ。
 決めておいたワンピースに着替えて、お気に入りのリボンもパッチン。
 カバンの中身をチェックしている途中で、同居人はようやく起きだしたようだ。おはようの挨拶がゆるりと交わされる。
 その間には既に準備万端。
 ひと声かけて出掛けよう。
「ポノさん、いってきますね!」
「……はーい、楽しんできてー……」
 家を出て、グリモアベース経由でアスリートアースへ!
 水族館へ行く前にモーニングの美味しい店に行こう、という友人たちの案は素晴らしいとイロハは思う。
(「だってそのぶん一緒に過ごす時間ができますもの!」)
 最初は三人でアックス&ウィザーズの冒険をしたのが始まりだった。
 途中、フネリシャニーハーが沈んでしまったぐらいに大変な冒険だったけれど、その後も少しずつ交流を重ねていっての今。
(「お誘いをくださったり、私のお手紙に喜んでくださったり」)
 これは偶然ともいえる出会いから紡いだ友情。
 アルダワ魔法学園にも友人はいるけれど、学園外で築いた関係は、なんだか少し違う。
 友人関係にある『みんな』のことは大好きだ。
 学園の友人は信頼もあって、頼れる存在。安心できる存在。
 でもこれから会う友人たちは、イロハにとってまだまだ未知の存在だ。ドキドキわくわくする。
 イロハがやってみたいことを応援してくれて、もちろん彼女たちがやりたいことを自身が応援するのも楽しくって。
 ケットシーの身ゆえに諦めてしまいがちなことを一緒に悩んで相談に乗ってくれる彼女たち。
 学園外で難なく受け入れてくれる友人たちに、イロハは感激しっぱなしである。
(「まるで恋みたいな友情だな、って……」)
 恋は物語のなかでしか知らないけれど、同じではないかしら? とイロハは最近思い始めた。
 挨拶を交わす一瞬すら愛おしい。
 一緒に遊びたいし、色んなことを一緒に挑戦したいし、美味しいものを教えたい、素敵なものを共有したい。
(「これ、似合うかも? ってお買い物してて皆さんを思い描いちゃいますしねぇ」)
 ……正直、ちょっと浮かれている自覚はある。
 重荷にはなりたくないけれど、友人の重荷は喜んで受け入れたい気持ち。
(「これは皆さん一緒かな? ……いいえ、一緒じゃなくてもいいんです」
 三者三様、十人十色。いろんな言葉がある。
 これまで一緒に過ごしてきた時間、そこで育った気持ち。
 大好きを押し付けないように、でも大切に。

 待ち合わせ場所が見えたところで一度止まる。
 はっはっと弾んだ息を整えて。

 冒険したあの満天に見つけた小さな宝箱。
 そこにはイロハが経験し想い紡いだ、キラキラしたものが入っている。


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