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【3DP業界研究】SLM Solutions → Nikon

こんにちは、nekoaceです。

前回の投稿から大分時間が経ってしまいました。前回の投稿の続きで記事を書いていたのですが、3Dプリンティング不毛の地である 日本 発の大型案件が入ってきましたので居ても経ってもいられず本稿を書いています。


今回のテーマ

その案件というのがこれ。
デジタルカメラや半導体製造装置で有名なニコンがドイツの大手3Dプリンティングメーカー SLM Solutions を買収するとのこと!!

買収金額は840億円。ニコンがこれまで手掛けた買収案件の中でも最大規模ではないでしょうか。
今回はこの件について、色々な側面から深掘っていきます。

SLM Solutionsって?

この会社、業界に精通していないとなかなか聞くことがないかもしれませんが、かなりの老舗企業です。
Wiki によると創業は1865年(古!)に鉱山開発からスタートし、工学分野に進出、3Dプリンタ参入は1970年代から試作の分野で参入。2000年代に入り、金属造形(いわゆるSelective Laser Melting; SLM)の分野で頭角を現し、2011年にその名もずばり SLM Solutions に社名変更したドイツ企業です。

SLMの分野は、金属粉末をレーザーにより溶融することで造形物を形成します。そして、こうした用途に使う高出力レーザーというと、まずドイツかアメリカの企業になります。だから、SLMもドイツが強いのです。
Wohlers Report [1] によると、SLM Solutions の販売台数は2016年で130台。Senvol という会社が出しているデータベース [2] で調べると、主要製品は$250kから$1M(1$=140円として、3500万円から1.4億円)の高価格帯の製品ですから年間100億円近い売り上げがコンスタントに見込める会社です。

ちなみに、他に、SLMの分野で競合というと、ドイツ企業の最大手EOS、Trumpf、現在は日本企業となったRealizer(現DMG Mori。ここは日系企業で唯一頑張ってる会社です)、アメリカのGE Additive というところでしょうか。

Nikonは3Dプリンタ参入を果たしていた

Nikonと3Dプリンタ、つながらない方も多いのではないでしょうか。実はNikonは2019年に業界参入しています。

当時のネット記事のリンクを貼っておきます。↓↓↓
ニコン取材。小型金属3Dプリンター「Lasermeister 100A」 (i-maker.jp)

ニコンの熊谷の部隊(主に半導体製造装置開発部隊のはず)が主な製造を担っています。
彼らが参入した方式は金属造形ですが、今回のSLM方式とは異なるDirect Energy Deposition(DED)方式。
DEDはSLMとは異なり、粉末を空気圧で噴出しながらレーザーを当てて3D形状を形作る方式です。

この辺りが詳しい。↓↓↓
【3Dプリンタ】3Dプリンタの造形方式種類:機械加工の基礎:技術情報 - Kabuku Connect(カブクコネクト)

当時、私も3Dプリンタ業界の端くれにいて、この機種には注目していたのですが、ちょっと筋が悪いんじゃないかと思っていました。
というのも記事でも書いてありますが、ニコンが3Dプリンタ市場に参入するにおける勝ち筋に「精密光学技術」と「高精度位置制御技術」を挙げていました。
1つ目の光学技術は、カメラは勿論、半導体製造装置いわゆるステッパーで培った技術があります。しかしながら、直近ニコンのステッパーは大きくシェアを落としています。これがなぜかというと海外企業レンズ技術をうまく外注するすべを身に付けたから。このあたり書き出すと長くなるので別の機会に譲りますが、光学技術が圧倒的な競争優位につながるとは思えません。
2つ目の高精度位置制御技術はどうでしょうか。ステッパーの位置制御はnm単位での高精度が求められる領域ではないかと思われますが、この分野はそもそも製品価格が1台当たり10億円規模と非常に大きい。3Dプリンタは大体が高くても1億円程度ですから、ステッパーの応用というとオーバースペックだと思うのです。
というような事情がありましたので、個人的にはニコンの3Dプリンタ分野参入を冷ややかに見ていました。
しかしながら、今回の買収劇で一気に潮目が変わるのではないかと思います。

Nikon x SLM Solutions で何が起きるか

かつて20世紀。日系企業は3Dプリンタ業界のトッププレーヤーの一国でした。なにしろ、3Dプリンタを世界で一番初めに開発したのは日本人なのですから [3]。しかしその後日系企業はこの業界で衰退し、今や3Dプリンタ後進国。
その要因、たくさんありますけれども、日本企業が全体として買収下手ということはあるでしょう。そして、3Dプリンタの主要市場であるヨーロッパに強いパイプがある企業が少ないということもあるでしょう。それが今回の海外大手企業の買収で潮目が変わるのではないかと思うのです。

ニコンが持っている光学技術や位置制御技術といったアセットはSLM Solutions とはよりマッチするはずです。なぜならSLM Solutionsは最大12kW、市販品として世界最高出力のレーザーを積んだSLM装置を販売しているのです。この分野は3Dプリンタ業界としては未知の領域で、先人の知恵を求めるとしたら、レーザー溶接やステッパーの分野になるはずなのです。そして、SLM Solutionsの製品は数億円台後半のものもありますから、ニコンが保有しているアセットと価格帯も近づいてくる。この強みをうまくいかせればニコンはグローバルで存在感を発揮できるかもしれません。

懸念点としては、やはりPost Merger Integration(PMI)、つまり買収後の企業文化の融合が上手くいくかでしょうか。ニコンのIR資料を見ていると今回の買収に関する覚悟も感じるので、そのあたりが上手く実績として出てくるといいのではと思います。

ちょっと今回の記事は急ごしらえで書いたので、また追記していくかもしれませんが、ひとまずこの辺りで共有しておきます。
通常メインで書いているブログはこちら↓↓↓

なのですが、今後はNoteも方も加速していきたいと思っているのでlike頂けると嬉しいです。

それでは。

[1] Wohlers Report 2019
[2] Senvol Database, Database of Additive Manufacturing Machines & Materials | Senvol
[3] 小玉秀男 - Wikipedia



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