5. 恋のいろつや

 当世においては恋にも図々しさが必要なのです。それを今の若い人たちは、熱情のさせる業と弁解する。でも、婦人たちも、少し注意してごらんになれば、それがむしろ無視から来ていることを、見抜かれるであろう。わたしは小心翼々として失礼をおそれていた。
 いやわたしは、常に愛する人を尊敬するのである。それにこの取引においては、もしそこから尊敬を取りのぞくならば、そのいろつやもまた消えてなくなるのである。
 わたしはこのことに関して、人がいくらかおぼこであり、臆病であることを、また下僕のようであることを欲する。わたしは全然そのとおりではないにしても、やはりいくらかあのプルタルコスが物語っている「愚かな恥じらい」みたいなものを持っている。それでわたしは一生を通じて始終損をしたり苦しんだりした。それはわたしの根本の性格には甚だ似合わない特質であるが、われわれ人間はみな矛盾と撞着のかたまりなのではなかろうか。

(モンテーニュ著、関根秀雄訳『モンテーニュ随想録』、改行・強調筆者)

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