小説・ある日のー、コンセント。



  夜が増える季節だ。冬の始まり。始まりの端の方。坂道とコンビニと公園のある町。遠くの方にビルが見える。わざわざ見ないけど。

  代わりに時計を見る。代わりとかではなく普通に時計を見る。PM6時前。もう既に割りと暗い。街灯がそろそろ点きそうだ。

 そういえば、街灯が点くところ、普段見ないな。6時に点くらしいとは聞いたことがあるし、もしかしたら見たことがあるのかも知れないけど、記憶にはない。どうせあと数分なら見てみるか。このまま普通に家に帰るよりは、幾分か楽しそう。

 こうして街灯をまじまじと見ると、割りと数があるし、これはどこまで続いているのだろう。山の上とかだろうか。線路みたいに、終点があるのだろうか。 終点には、管理局みたいなのがあるのだろうか。

 とか考えてたら、普通にもうあと2分くらいで6時になりそうだ。街灯をまじまじと眺める私は、周りから変だと思われてないだろうか。いや、街灯を見ている人は、きっと他にもいる。ほら、10メートルくらい先の街灯の下にも、私より年下っぽい女子が立ってる。そして街灯を見ている。街灯の点くところを見たい人は案外居るものだ。私は変じゃない。街灯を見る人はたまに居ても、街灯を見る人を見る人は大抵いないのだ。

  もうあと1分くらいだ。ホントに6時に点くのだろうか。まあ違っても別に、それでどうってことはない。それにしても、ホントに冬は、1分ごとに暗くなるなあ。さっきよりもう大分暗い。10メートル先の女の子が、バットを振り回しているのは見えるが、20メートル先のポストは多少見えづらい。

 そろそろ時計とか見ずに、街灯だけ見ておいた方がいい。バットの女の子も、街灯に照準を定めてるっぽく見える。多分6時になったら街灯を壊したいのだろう。

「え、あ、壊したいの?」

  女の子の方を見る。鞄を地面に置いて、バットを街灯に向かって投げようとしている。投げるなら、振り回す意味あったのだろうか。

「ちょ、ちょっと!ダメだよ!」

 咄嗟にそちらへ駆け出した。周りに誰も駆け出す人が他にいないから仕方ない。街灯を眺める人を眺める人なんて、私くらいしか今日はいないのだ。

「え、ちょっと、なんですかあなた。止めないで下さい。私はこれから街灯壊すんですから」

「いや、それはなんとなくわかるんだけど、ダメじゃないの?」

「ダメですけど、ちょっとホント、壊さなきゃなんで。もしかして、手伝ってくれるんですか?」

 そんな訳ないでしょ、とか、言うのもよくわからない。この子は何をしようとしてるんだろうか。

「手伝ってくれようとしてくれてるとこ申し訳ないですが、そういうのは良いので。それじゃあ、壊すので、のいててください」

「手伝わないよ!てかそれ、プラスチックバット?そんなの投げて壊せるの?」

「何事もやって後悔です。テレビの前の君も、やれるかもね。逆上がり、金魚すくい、跳び箱10段。そして、街灯の破壊。それじゃあ投げます」

 女の子は、バットを構える。ホントに投げようとしてる。どういう状況なんだろう。とか、思っていたその時。街灯がついた。

「…まあ、街灯は点きましたが、まだ壊すのには遅くない筈なので、投げます」

「ちょ、ちょっと待って!状況を教えて!」

  単純に犯罪はダメだ。そして、なんでそれが行われようとしているのかわからない。わかったら、止めたり止めなかったりが出来る。

「…あのですね、そういうこと、教えると思いますか?ちょっともう、このコーヒーあげるので、見逃してください。共犯になりますよ?」

 女の子は鞄からコーヒーを取り出す。というか、鞄の中にめちゃくちゃコーヒーがある。

「コーヒー好きなんだ?」

 うまくコーヒーの方に話題を持っていきたい。それで、犯罪を防ぐ。

「いえ、普通です。今日は偶然こうなだけで」

 偶然で鞄の中が缶コーヒーだらけになることがあるだろうか。犯罪を防ぐも何も、もう既に何らかの犯罪の後だったりしないだろうか。

「コーヒーいらないんですか?じゃあとりあえず街灯を…」

「コーヒーいる!3個くらい!欲しい!一緒に飲みたいね!」

 せめて5分くらいは時間が稼げたら、その間に人が来たりして、バットを投げづらい状況とかになるかも知れない。

「…どうやら、どうしても私のバット投げを止めたいみたいですね」

 女の子は、バットを少しだけ下げた。

「そりゃ、そうだよ。なんでそんなことしようとしてるのかわかんないけど、その…犯罪はダメだよ!」

 とりあえずそう言った。ホントに状況がわからないので、とりあえずだけど。

「…まあ、じゃあ、仕方ないので、今夜は、やめときます」

 やめてくれるらしい。今夜は。

「けどですね。その代わり、何があっても知らないですから。私は守りませんよ?何かあっても」

 女の子がそういった次の瞬間、街灯が、少しだけ傾いた。そう見える

「え?あの、街灯、傾いてない?」

「いえ、街灯だけじゃなくて、町が少しずつ、傾いています。ホントに少しずつですが。もう、私を止めなければ、こうはならなかったのに…」

 よ、よくわからないけど、これは、安全なのだろうか。

「このままだと、一時間後にはこの町は180度ひっくり返ります」

「全然安全じゃない!!これを止める方法はあるの?!」

「…はあ、仕方ないですね…あの、これは、『星座』の仕業です」

 星座?

「座る方ではなく、星を繋いだら出来るやつです。街灯を壊さなかったので、多分何らかの星座が出来上がったんです。にしても厄介ですね。町が傾くとか。多分、傾斜座とか、そんなのだと思います。知らないですけど」

「えっと。そのつまり、街灯とか、ビルの明かりとか、そういうのが繋がって、星座が出来上がったってこと?その星座がこの現象の理由ってこと?」

「まあ、要するにそういうことですね。ほんと、せっかくさっき1つ星座を壊してきたばっかりなのに、何してくれてるんですか」

 女の子は、鞄に視線を落とす。なんとなく鞄も徐々に傾いているように見える。

「とにかく、この街灯を壊せば、星座が成立しなくなります。運の良いことに、街灯の方が傾いてくれてるので、バットで直接壊せます。納得してくれましたか?」

「えと、まあ、なんとなくは…。犯罪はダメだけど、そんなこと言ってる場合じゃないんだろうなって…」 

「そういうことです。私だってそりゃ、抵抗はありますよ。にしてもこの街灯、めちゃくちゃ傾いてますね。このままだと、町がひっくり返るのも、一時間かからないかも知れませんね…」

 そこでふと、あることを私は思い付いた。

「あのさ、その鞄。それをさ、なかのコーヒーを出して、その街灯に被せたら良くない?」

 女の子は、鞄にもう一度視線を落とす。そして、

「…コーヒー、10個くらいありますけど、持てますか?」

「あ、えと、私の方の鞄に入れればなんとか」

 コーヒーを詰め替える。ホントにさっき買ったばかりらしくまだ温かい。

「じゃあ、これを街灯に被せて、と」

 傾きまくった街灯のてっぺんに、鞄を被せた。





 30分後、町はいつものPM6時半くらいだった。コーヒーをもて余していること以外は。

「これ、自販機のスイッチを1つ消すためだけに、コーヒー買わないといけなかった訳でしょ?お金とか、大丈夫なの?」

「…大丈夫じゃないですけど、そんなん言ってたら、星座が成立してしまうので」

 星座ってのは、そんなに頻繁に出来る物なのだろうか。

「そういうバイトなので」

「え、バイトなの?!」

  結果的にお金は入ってきてるのか…うーん…。 

 すると、女の子は、少しだけ笑った。

「あの、バイトな訳ないじゃないですか。こんなバイト、ないでしょ」

「いや、バイトじゃなくても、こんな状況ないから!!」

「そうですよね。ということで、あんま首を突っ込まない方が良いですよ?」

 うーん、確かに、そうなのかも。けど、

「まあでも、こういう風に、この町とかを、普段から守ってくれてるんだよね?」

「守ってはないです。厳密には、壊してもないです。繋いでないだけです。星座を。NO CONCENTです」

「じゃあさ、今度また会ったら、なんか奢るね?コーヒー沢山もらったし。それに、まだよくわかんないし。なんで星座を繋ぐとダメなのかとか。私は佐野綾。そこの角の桜谷高校の一年生。星じゃないから。全然。人だから」

「はあ、よくわかりませんが」

 そこで、その日は解散した。

 空を見た。星座がある。多分。何座かは知らない。

 もう少しで7時だ。もうちゃんと暗い。やっぱ、夜が増える季節だ。コーヒーがあるのが、割りと嬉しい。

 






 


 


 




  


  

 


 

 



 

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