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【本】「重力」という言葉を発明した志筑忠雄『江戸の科学者 - 西洋に挑んだ異才列伝』(新戸雅章/平凡社新書)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

今日は、『江戸の科学者 - 西洋に挑んだ異才列伝』に描かれている、江戸の科学者11人の中から、志筑忠雄(しづき ただお/1760年-1806)について感想を書きます。

この本を読むまで、志筑忠雄を全く知りませんでした。読み方さえわかりませんでした。でも、スゴイ人だったようです。

西洋では、15世紀以降、コペルニクス、ガリレオ、ケプラー、ニュートンによって、物理学や宇宙に関する考察が進みました。

日本に無い概念について書かれた外国語を日本語に翻訳するのは大変難しいことです。もともと「重力」と言う概念が無かった日本で、ニュートンの本を翻訳し、その理論を伝えるために「重力」と言う言葉を考え出したのが、志筑忠雄なのです。

具体的なものは、物を見せれば説明はつきますが、抽象的なものは困りますよね。一体どうやって、日本にまだない概念を説明する言葉を作ったのでしょう?

例えば、ニュートンの「光学」には、光は微粒子からなるという考え方がありますが、当時の日本には粒子という考え方も、力学的な概念も、西洋近代科学の根底にある機械論的な自然観もありませんでした。
あるのは東洋的な「気の思想」でしたので、志筑忠雄は、ニュートンの物質観や自然観をこの気の思想によって理解しようしました。

無理は当然で、対応する用語さえありませんでした。そこで、志筑忠雄は、用語をまず古典や古文に求めのでした。時には、時に中国の文献や仏教用語なども参照しながら、自分が理解した概念に相応しい用語を作りました。

例えば、求力(引力)万有求力(万有引力)、属子(分子)、真空、重力などです。

ここまでだけでもすごいことなのですが、志筑忠雄のすごいところは、ニュートン思想を体系的に受容しようとしたことです。

引力はなぜ引力なのか、重力はなぜ重力なのか、というところまで知ろうとしました。

ニュートン思想はキリスト教の神を否定するところから生まれた科学の筈なので、その部分は弱いはずです。
そこで、志筑忠雄は易を原理とすると東洋的形而上学にその根拠をもとめて、宇宙の始まりについて考えました。その理論は、カント=ラプラスの星雲説にも似ているそうです。

このことを一世紀のちに取り上げたのが、夏目漱石の親友で、一高の初代校長だった思想家狩野亨吉(かのうこうきち)だということですが、これ以上広がるとまとまらなくなるので、今日はここまで。

ところで、「体系的受容」には、形而上学的基礎も含まれているのでしょうか? 
そんな疑問を持つこと自体、わたしが「体系的受容」とはどういうものなのか理解できていないということなのでしょう。残念。一体、どこをどうしたら体系的受容のくせが身につくのでしょうね。

■本日の一冊:『江戸の科学者 - 西洋に挑んだ異才列伝』(新戸雅章/平凡社新書)

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